表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖装士学園の異端者  作者: 綿砂雪
第二章
PR
43/117

第四十二話 龍宿す自称イケメン

第六試合が終わった数分後、治療を終えたフィアラは観客席に戻っていた。


「お疲れ、フィアラ」


「ええ、疲れたわよ。初めてあんな派手に怪我したわ。当分はあんな無茶はしたく無いわね……」


観客席の椅子に座理ながら答える。過去の序列戦でも怪我の経験はあったが、右手を剣で刺されたのは流石に初めてだった。


「にしてもまだ寝てるのね……よくこんなところで寝れるわね」


アシュリーは未だに眠っていた。第六試合の前に見た時と何一つ変わることなく、脚に顔を突っ伏して寝ている。


「どんな音がしても微動だにしてないから。耳の中に結界張って音を遮ってるんじゃないか?」


「流石にそれは……いや、できそうね。アラン程じゃなくても、アシュリーも魔法使うの上手いからね」


今度はフィールドに目を向ける。

行われているのは第七試合。フィールド内では先程とは打って変わって、激しい近接戦闘が繰り広げられていた。


***


轟音と火花を散らしながら、両者は互いの武器を高速で激突させる。

方やレオン・アルバート。彼の聖装具は片刃の大斧──《龍王の大権斧(ドラゴンスレイブ)

全体が黒と金を基調とした外見で、大きさは一メートル以上ある大斧だ。片刃は龍翼のような三枚の刃が連なった作りをしている。それ以外の部分も龍を模したような装飾が付いている。


それに相対するのはジェパート・エルメン。虹色の宝石のような刃を持つ短剣型の聖装具を武器に戦っている。

互いに身体強化魔法を発動しながらの近接戦闘。接近戦の技術は互角、機動力については短剣使いであるジェパートに軍配が上がるが、破壊力はレオンが圧倒的に有利だ。

十数合に及ぶ激突の末、ジェパートが後ろにのけぞった。レオンは斧を振りかぶるが、ここは機動力の差が出た。

ジェパートは素早く後方へ飛び退く。さらに短剣を横薙ぎに振るった。


「《宝晶連華(クリスタルウェーブ)》」


棘のような宝石が何本もレオンに迫る。レオンはそれに怯む事なく、巧みな体捌きで回避と迎撃を繰り返しながらジェパートに迫る。だがジェパートの攻撃は次第に激しさを増していた。

巨大な宝石が波のように押し寄せた。レオンは跳躍して宝石の波を回避するが、空中に向けても宝石は突出してくる。

回避しているだけではキリがない。レオンは空中で斧を振るった。


「《龍権(ドラクイラ)(アギト)》」


レオンの真横の空間から、巨大な龍の口が現れた。

ソレは大口を開いて、迫る宝石を飲み込む。そのまま猛進して地面まで噛み千切った。


役目を終えると、ソレは透明になって消滅した。それとほぼ同時に、ジェパートの真上からレオンが奇襲の一撃を仕掛けてきた。

ジェパートは再び飛び退いて回避する。回避した先で短剣を高速で振り回し、連続で斬撃を放つ。


斬撃は空中で破裂した。飛び散ったのは十数発の宝石弾。どれも先端が鋭利に尖っている。

全てを弾くには数が多すぎる。レオンは斧を振り上げた。


「《龍権(ドラクイラ)豪拳(ゴウケン)》!」


背後の空間から巨大なナニカが生えてきた。今度は龍の手だ。

レオンが斧を振り下ろすと、連動して龍の手も振り下ろされる。豪快な一撃は容易に宝石弾を砕き、地面を揺らし、さらに指の先から斬撃まで放った。


「《宝石壁(ジュエルシールド)》」


ジェパートの正面に半球状の宝石の壁が展開される。壁はレオンの斬撃を難なく受け切った。

だが衝撃で爆煙が生じた。視覚でレオンを捕捉できなくなったが、ジェパードは焦らず魔力探知でレオンの位置を探る。


(……後ろか)


背後から攻撃の気配を感じた。ソレは横薙ぎに薙ぎ払われている。

ジェパートは跳躍して薙ぎ払いを回避した。見下ろすと、そこにあったのは龍の尾。レオンはジェパートがいた場所から少し離れた場所に立っていた。


「《龍権(ドラクイラ)(トドロキ)》!!」


龍の尾が消滅する。代わって現れたのは龍の口。

口はジェパートへと開かれた。今度は突進するのではなく、口から砲撃を放った。


「《出力拡張(ブラスト)万彩宝砲撃(ジュエルバスター)》ッ!」


回避は間に合わない。ジェパートも短剣の先端を向け、砲撃を放った。放たれた砲撃同士が激突し、周囲の大気を震撼させる。

両者の砲撃は拮抗していた。互いに回避に転じれない以上、ここは押し切るしかない。


ジェパートはさらに魔力を込めた。より威力を上げた砲撃が次第にレオンの砲撃を押し返した。

ジェパートにはレオンほどの馬力は無いが、その分戦闘中の魔力消費は抑えられる。

当然、魔力が多い方がより長く砲撃を放てる。持久力に於いてはジェパートはレオンに勝っていた。このまま鍔迫り合いを続ければ、ジェパードが押し勝っていただろう。

だが、


「残念、こっちだ」


「ッ!?」


背後からレオンの声が聞こえた。いつの間にかジェパートの背後にレオンがいた。


(あの砲撃、独立して撃てるのか!)


レオンが聖装能力で顕現させていた龍は、ある程度自律して動くことができる。ジェパートが押し合いに集中している隙を利用して、レオンは砲撃を放置してジェパートの背後に回っていた。

レオンはジェパートに次の一手を打たせる暇を与えず、渾身の蹴りを放つ。蹴りはジェパートの背中に直撃し、ジェパートは凄まじい勢いで地面に叩きつけられた。

身体が負傷で動かない。激痛と共に意識が朦朧とする。

それでも気合いで体を起き上がらせるが、遅すぎた。


「ボクの勝ちだ、ジェパート」


ジェパートの目の前でレオンが斧を向けていた。

詰みだ。レオンの聖装能力の特性を誤認していた時点で、ジェパートは負けていた。


「はぁ……そうだな、お前の勝ちだよ。アルバート」



***



「よーっし!これで全員勝利だな!」


観客席にいるリオたちの元に戻ってきて早々にレオンは言った。


「と言っても、僕だけまだ戦ってないけどね」


「どうせ貴方なら勝つでしょ。序列七位なんだから」


「そうも言ってられないよ。僕の対戦相手、序列十ニ位の人だったからね。僕もアランみたいに準備しとかないと」


「そのアランは何をやってるか分からずじまいだけどな」


「後で帰ってきたら聞いてみたら?」


「アランが質問した程度で教えてくれると思うか?」


「無理ね」

「無理だね」


アランは時々『ちょっと特訓してくるから』と言って急に姿を消すことがある。その度にどこへ行って何をしているのか尋ねているが、未だに答えてもらえたことは無い。


「………ん」


その時、アシュリーの小さな声が聞こえてきた。どうやら目を覚ましたらしい。


「やっと起きたのね、アシュリー」


「ん、起きたぁ」


ゆっくりと顔を上げると、何度か目を擦った。


「……あれ、今どういう状況だっけ」


「寝ぼけてるんだな……君が第四試合が終わった後に寝て、その間にフィアラとボクの試合が終わった」


「そうだったんだ。結果はどうなったの?」


「私もレオンも勝ったわよ、ちゃんとね」


「へぇ、そっかぁ……」


どこか残念そうに言うアシュリー。この結果のどこに不満を感じることがあるのか。


「いや、なんでちょっと期待外れみたいな反応してるんだ」


「これでレオンだけ負けてたら面白かったのになぁって」


「なんてこと言うんだキミは!?」


反射的に大声を上げるレオン。リオとフィアラは爆笑した。


「冗談。それよりお腹すいた。食堂行こう」


「それはそうだが……やっぱり君たちボクの扱い雑じゃないか?」


「気のせいよ」


「ははっ気のせいだね」


「そうそう、気のせい」


「…………」


微妙な反応を示すレオンを他所に、彼らは席を立った。

現在時刻は昼の十二時。彼らは共に昼食を摂るべく食堂へ向かうのだった。



***



同時刻、この世界とは異なる、とある空間にて。


「……ははっ」


空を見上げながらアランは苦笑していた。

どこまでも広がる森林地帯、その中にアランはいた。彼が見上げる先には美しい青空が広がっている。

普通の者が見れば、それは本当にただの青空に見えたのだろう。だがそこに異物が混ざっていることを、アランだけは理解できる。


目視は出来ない。気配も感じない。しかし、この空には確かにナニカが浮かんでいた。

数にすれば数千に及ぶ。アランの視界の先を埋め尽くすほど存在するその透明なナニカの中に、唯一目視できるモノがいた。

銀の長髪を風に(なび)かせているこの者は他でもない。現存する唯一の大聖者にして、世界最強の聖裝士、シリノア・エルヴィンス。

彼女は空に手を掲げながら、地に立つ弟子を見下ろして言った。


「ひとまずこのくらいで勘弁してやろう。一発でも触れたらどうなるか……分かっているな?」


物騒な発言に反して、彼女は笑っていた。

怪我をしたなら治せばいい。死んだなら生き返らせればいい。だから遠慮なく力をぶつける、その後のことはその後でどうにでもなる。

それがシリノア・エルヴィンスのやり方だ。無論シリノアとて大切な弟子を殺したいわけではないが、これが一番効果的な特訓になるのなら、やらない選択肢は無い。

そんな見慣れた師匠の鬼畜っぷりと絶望的な光景を前に、


「自分から頼んでおいてだけどさ……もうちょっと手加減してくんない?」


返答代わりに、空に浮かぶ大量の弾幕がアランへ放たれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ