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聖装士学園の異端者  作者: 綿砂雪
第二章
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第二十八話 恥知らずの学年次席

白を基調とした美しい教会の中、長椅子に座るアランは天井を見上げながらボーっとしていた。


特徴のない黒髪を持つ少年、アラン・アートノルト。

学年実力序列第二位にして『学園最高戦力者』の一人。聖装士なのに聖装具を使わず、しかしそれでも圧倒的な実力を持つことから『聖装士一の異端者』と呼ばれている。

当たり前だが、聖装具を使わない以上、誰かがアランの聖装具を目にする機会はない。故にこれまで数えきれないほどの生徒が『アランの聖装具の正体』と『アランが聖装具を使わない理由』を尋ねてきた。

聖装士が聖装具を使わないなど、聖装士としてあり得ない行動だ。

聖装具とは聖装士にとって誇りであると同時に最高の武具。通常武器や武器型魔導器をも凌ぐ性能に加えて、『魔法』では到底再現できないような唯一無二の強力な力を操る『聖装能力』まで宿している。

そんな聖装具を敢えて使わない理由など普通はないのだが、なぜアランは聖装具を使わないのか。

その理由は単純で、彼の聖装具が全く使い物にならないからだ。


アラン・アートノルトの聖装具の正体、それは『ボロボロの石剣』だ。

ほんの少し力を込めるだけで壊れるほどの耐久力。人間や動物はもちろん、草木の一本すら刈れないほど絶望的な切れ味。挙げ句の果てには聖装具なのに何故か聖装能力が付いていないという超超超低性能。市場で売っている包丁の方が数百倍は役に立つだろう。

もちろんこのようなゴミ同然の聖装具が戦闘で使えるわけがないので、アランは戦闘では聖装具を使わない。しかしアランの聖装具事情を知らない者たちは揃ってアランの聖装具は特別な物なのだと誤解している。

ちなみにアランの聖装具の正体を知っている生徒はリオとアシュリーだけだ。学園で早期から仲が良った二人にだけ、アランは聖装具の正体を明かしている。


そんな聖装士としての才能がマイナスに振り切っているようなアランだが、なんだかんだで学年次席を維持している。それは(ひとえ)に、聖装具がなくとも聖装士に勝てる実力がアランにあるからだ。

アラン・アートノルトの得意分野は主に三つ。

一つ目は卓越した魔法技術。アランの魔法の腕前は学園ではダントツで最強。本来なら聖装能力には及ばないはずの魔法もアランの手にかかれば、聖装能力を打ち負かすほどの効果を発揮する。

二つ目は卓越した体術と様々な武器を合わせた戦い方。アランは『虚空の手』と呼ばれる黒い手袋の形をした『魔導器』を持っている。

『虚空の手』は手袋の表面が専用空間に繋がっており、手袋の表面を介してその専用空間に物を出し入れ出来る。この中に収納した多種多様な武具を使うことで、アランは状況に合わせた武器戦闘を可能にしている。

三つ目は並外れた知能による頭脳戦。こう見えて実はアランは学園トップレベルで頭が良い。

知識量、観察力、発想力、判断力など。頭脳戦に必要な要素が並外れており、それらを駆使して策を編み出して戦うことが多い。


これらの得意分野で、アランは聖装具抜きで勝ち上がってきた。だが実際のところ、彼の戦い方は批判を買うことが多い。

なにせ聖装士が聖装具を使わずに戦うというのは『お前には聖装具を使う価値はない』と言っているのと同義。相手からすれば舐められているとしか感じないので、あまり良い印象は持たれていない。

アランもそれは理解しているし、だからこそ早く聖装具を使えるようになりたいと思っている。

聖装具とは全てが強力、それだけは絶対だ。アランの聖装具が本当にただのボロボロの石剣というのはあり得ない。

きっと自分の聖装具は使うために何かしらの条件があるのだろうと信じて、アランは今まで色々試してきたが、今のところ進展はなし。

果たしてこの先聖装具を使いこなせる日は来るのだろうか。そんな不安を抱きながら、アランは今日まで生きてきた。そして三日前の夜、アランはこの教会にやって来た。


ではどういう経緯でアランはこの状況に至るのか、そもそもどういう依頼を受けているのか、それを説明していこう。




***




それは今から三日前の朝。朝食を食べ終えた生徒たちが各々の講義を受けていた頃の話。


「ご指名ですアラン君、貴方に依頼が届きました」


「嫌です」


「ダメです受けてください」


「拒否権を行使する!」


「貴方に限って私の前でそのような権利があるとでも?」


「やぁぁぁだぁぁぁぁぁぁぁ!!」


「騒いでもダメなものはダメです。諦めて受けてください」


抗議の絶叫を響かせる者と、その声を無視して話を進める者。

ここは生徒会室。室内に置かれた接客用のソファにて、またまたアランは目の前の少女に刃向かっていた。


アリシア・エルデカ──白金の長髪を持つ美少女。エルデカ王国の王女にして、この学園の生徒会長にして、学年実力序列第一位とステータスが盛られまくっている。大変高貴で多忙な身分の少女だ。

ちなみに彼女の二つ名は『極光の神格者』。この世の理を超えた『奇跡』の力を操ることからそう呼ばれている。


「だってさ!だって序列戦すぐそこだよ!?なぁんでそんな時に依頼なんて受けなきゃなんねぇんだ!」


「気持ちは分かりますが、貴方しかマトモに動ける『学園最高戦力者』がいないのです」


「じゃあミハイルは!?」


「彼は楽団のオーケストラの予定があるそうなので無理です」


「じゃあシエル!」


「彼女は依頼先で何をしでかすか分からないので無理です」


「グレイ!」


「彼は現在別の依頼で学園外に出ているので無理です」


「アンタは!?」


「時間がないので無理です」


「クソッ!」


役立たずどもめ。アランは心の中で毒づいた。


「というわけで早速本題に──」


「待て待て待て待て進めるな!俺はまだ受けるとは言ってないぞ!?」


「いえ、受けてもらいます。申し訳ないですが、今回は緊急の案件なのです」


「俺だって今緊急事態だよ!アンタが知ってるか知らないけど、俺の序列戦の対戦相手ロベリアなんだぞ!?学年実力序列第八位!しかもアイツの聖装能力は相性悪いし……とにかく今はアイツと戦うための準備をしたいの!だから依頼は無理!」


「そうですか。では貴方がその危機から脱却することが出来る最も簡単かつ有効な手段を教えましょう」


「え、なんかあんの?」


「はい。貴方が聖装具を使えばよいのです」


「解決策になってない!」


それが出来ないからこっちは苦労してんだよ。そう言いたかったが、アランの聖装具事情を知らないアリシアに言っても仕方ないので我慢した。


「十分解決策になっているではないですか。聖装具を使わずに私をあと一歩のところまで追い詰めたほどなのですから、もし貴方が聖装具を使えばその実力は今以上。ロベリア・クロムウェルどころか私すら容易に凌駕するでしょう」


「いや過大評価しすぎだから。て言うか何があと一歩だよ、三十歩くらいあっただろ。アンタ俺の全力の一撃を片手で止めただろ」


「その後に私の腹を剣で串刺しにした上に、剣を引き抜くために剣に触れた私の右手を吹き飛ばし、さらに血流までグチャグチャにして私を()()()()()ことを忘れましたか?」


「その前にアンタは俺を光線で空から叩き落として俺の内臓と骨をぶっ壊してる」


「それを言うなら貴方は私の身体中を切った挙句に腹を派手に切り裂いたではないですか」


「その前に俺右腕折られたし〜」


「右腕を折っても何事もなかったかのような顔をしながら私の首に切り掛かってきたくせによく言いますね」


「だってそうでもしないと勝てなかったんだもん」


随分と物騒な言葉が飛び交っているが、これらはアランとアリシアが戦った序列戦にて実際に起きた出来事だ。

アランは卓越した治療魔法によってどんな傷もすぐに治す。そしてアリシアも規格外の聖装能力ですぐに傷を治す。

互いに馬鹿げた回復能力を持っているため、生半可な攻撃ではどちらも倒れない。よって決着をつけるために、二人は互いを本気で傷つけ合った。

その結果二人の試合は『序列戦史上最もグロテスクな試合』と呼ばれるほどに過酷な試合になってしまったのだ。実際試合を観戦していた者の中に体調不良を起こした者もいた。


「そこまで勝利に固執するなら初めから聖装具を使えば………はぁ、いけませんね。本題から逸れすぎました」


「いや話に応じるなんて言ってないけど。俺序列戦あるから無理だけど」


「それでもせめて話くらいは聞いてください。依頼を引き受けるか否かはその後に決めても良いのでは?」


「…………わかったよ、聞くよ」


やや不貞腐(ふてくさ)れながも、アランは話を聞くことにした。


「この王都から少し離れたところに『ロマーシュア』という街があります。その街にここ数日ほど、異様な気配があるとの報告がありました」


「要するに不審者が出たから捕まえろってことか?」


「そういうことでもあります。犯人を捕らえられたらベストですが、本命はそこではありません」


「そこではない……ねぇ」


この時点でアランは依頼内容が予想できた。今までにも何度か似たような依頼を受けているから。


「つまりロマーシュアに何か大事なものがあって、俺はそれを敵から守れば良いってことか」


「さすが、もう慣れていますね」


「実際慣れてるからな。それで、今度は何を守れば良いんだ?」


護衛対象によっては聞いた瞬間に逃げてしまおう。密かに逃亡手段を考えるアランの前で、アリシアは言った。

そのとんでもない一言を。






「貴方に守って欲しい物は一つ、『海帝龍リヴァイアサンの断片』です」


「……………は?」


理解が追いつかなかった。口をポカンと開けたまま、何度か(まばた)きをして、


「リ、リヴァイアサン?……リヴァイアサンってあれか?『十二死天(ジュウニシテン)の大厄災』のリヴァイアサン?」


「はい。『十二死天の大厄災』のリヴァイアサンです」


「……なんで、そんなゲテモノがロマーシュアなんかにあんの?」


「詳細な理由は私も知りません。ただ、ロマーシュアには教会がありまして、そこで封印魔導器よって封印された『リヴァイアサンの断片』を管理しているそうです。敵の狙いが本当に『リヴァイアサンの断片』なのかは分かりませんが、もしそうだった場合相手は只者(ただもの)ではありません。少なくとも常人が狙うような代物ではありませんから」


「……つまり俺がやるのは」


「『リヴァイアサンの断片』、もといロマーシュアの教会の護衛です。不審者についてはロマーシュアの警備隊が捜査してくれています。貴方は護衛に専念してください」


「…………」


依頼内容を聞いたアランは、静かに(うつむ)いた。そして何か考えるような素振りをする。


『十二死天の大厄災』───それはかつて存在した十二体の魔法生物たち。

全ての祖にして大海の帝王──海帝龍リヴァイアサン

最古最悪の破壊の権化──禁忌龍パンドラ

天の怒りの代弁者──天咆龍ソラナキ

光を喰らう闇の支配者──闇蝕龍アポピス

死の呪いを振り撒く者──呪羅龍アジ・ダハーカ

理を知らぬ凶気の怪物──四凶龍アッキラセツ

大地を殺し、作り変える者──地母龍ケルヌンノス

世界を静寂に閉ざす奈落の王──凍冥龍エリュズニル

万星を焼き尽くす太陽の化身──紅陽龍スルト

死を運ぶ屍の主──腐屍龍ナグルファル

境界を司る夢幻の住人──幻創龍エインガナ

魔を統べる終末の担い手──終末龍アポカリプス

それぞれが天災級の力を持ち、いくつもの国が彼らによって滅ぼされた。

多くの者がこの厄災を鎮めるべく挑んだが、完全な討伐は不可能だった。故に現在はどの個体も封印されている、それも本体を何分割かした上で。

『海帝龍リヴァイアサン』はそんな『十二死天の大厄災』の一体。今から五百年ほど前、海岸沿いの国々を海に沈めた恐ろしい怪物だ。

そんな『リヴァイアサンの断片』が封印されているのが、エルデカ王国にあるロマーシュアという街。

もし『リヴァイアサンの断片』が何者かに奪われ、悪用された暁にはどんな恐ろしいことが起こるか。想像するに(かた)くない。


まさに緊急事態。アランに課せられたのはエルデカ王国に限らず、この周辺国の未来すら懸かっている重大案件だ。これほどの依頼を任せられる人物はアラン以外にいない。

正確には他にも候補はいるが、彼らはマトモに働かないので、実質アランしか残っていない。


「……アリシア」


重々しく呟いた。正面に上げられたアランの顔はどこか覚悟を決めているように見える。

アリシアはその顔を見て微笑んだ。

ああ、やっぱりこの人はやる時はやるんだと。いくら謎だらけな面倒くさがりでも、アランの感性は()()()()()()の部類。己の責務はきちんと果たす。

力を持つ者として、託された者として。今こそアラン・アートノルトは大いなる覚悟と共に───。










「…………ごめん、無理!」


次の瞬間、生徒会室から逃げ出した。

それはまさに神速。アランを逃さないようにと生徒会室に張っておいた結界や魔法罠の全てを、まるで何も無いかのように容易く突破して、一瞬にしてアリシアの前から姿を消した。


「……………」


アリシアは深く息を吸う。

正直こうなるだろうとは思っていた。アランは大の面倒くさがり。アランが自らこのような依頼を受けてくれるはずがない。


「少しは期待したのですがね」


あの表情を見た瞬間は『もしかしたら』と期待したのだが、どうやら思い違いだったらしい。

じゃあなんだったんだ、あの表情は。無駄に覚悟を決めたような顔をしたかと思えば一瞬で逃げ出して。


「……いや、そういうことですか」


考えてみれば簡単なことだった。

先程まで俯いていたのは依頼を受けるか否かを考えていたのではなく、この部屋から逃げる方法を考えていたのだ。

そして先程の表情が示していたのは依頼を受ける覚悟ではなく、アリシアから逃げ出す覚悟だった。


「本っ当に……どこまでも貴方はアラン・アートノルトですね……」


ソファから立ち上がり、拳を握る。

この依頼を放置するわけにはいかない。なんとしてもアランに受けさせる必要があるが、アランには依頼を受ける気が微塵もない。

こうなったら───。


「仕方ありません、()()()()といきましょう」


彼の首根っこを捕え、無理矢理依頼を受けさせるまで。


「我に応えよ──《神話を紡ぐ双煌(ディヴァインスペル)》」


紡がれる一言。呼びかけに応じ、アリシアの両手に現れたのは二本の剣。

どちらも全体が金と白を基調とした外見だ。長身の両刃の刃には文字のようなものも刻まれている。

(つば)は翼のような形をしている。剣は存在しているだけで神々しく輝いていた。

これこそがアリシア・エルデカの聖装具──《神話を紡ぐ双煌(ディヴァインスペル)》。奇跡を司る超常の双剣。

アリシアは右手の剣を顔の前に掲げると、目を瞑る。


「─主よ、我が進むべき道を示したまえ─」


瞬間、アリシアの前に光の線が現れた。それは生徒会室の出入り口の外側まで続いている。


「さて、これだけ魔力を解放すれば彼らも気づいてくれますかね」


初めからアランが話に応じてくれるとは思っていなかったので、アランが逃げた時のための対策は考えていた。

生徒会役員たちにはアランが逃げたらすぐ生徒会室周辺の区域を封鎖するよう通達している。生徒たちが講義で出歩いていない今だから出来る荒技だ。


「さぁ、そろそろ行きましょうか」


今のところ鬼ごっこの勝率は三割ほど。アランは異常に逃げるのが上手く、毎回いつの間にか学園から姿を消しているので、捕まえるのは至難の業だ。


本当に勿体無い。それだけの実力を持っていながら、楽をするために力を使うとは。

彼にはもう少し強者としての心得というものを持ってほしい。あといい加減、聖装士としての自覚も持ってほしいのだが……それは彼を捕まえた後に話すとしよう。

生徒会役員だけでなく、学園の見回りをしている風紀委員にも今回は協力を要請して、校舎外の見張りをしてもらっている。

ここまで準備したのだ。必ず、必ず捕まえる。


「待っていなさい、アラン君。何度も私から逃げられると思わないことですね」


生徒会室の外へ踏み出した瞬間、アリシアの姿が()き消えた。

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