第20話
斉藤と千奈津が攻防していると、カタカタとキーボードを叩く音が響いた。
二人は如月がパソコンを触っていることに気付き、如月を間に挟んで立つ。
「如月くん、どうかした?」
「ん? んー、メールを遡ってたら、SNS戦略について本部から届いてたみたい。メールなんて見ないから気づかなかったよ」
「戦略?」
千奈津にとってインツタは暇つぶしの道具でしかない。戦略とは何だろうか。
「本部としては、SNSを使って客を増やしたいみたいだね。新商品はすぐインツタに投稿する、容姿が良い店員の写真や動画を投稿する、面白い写真や動画を投稿する」
「容姿が良い店員の、って本部がそう言ってるの?」
「メールに書いてあるよ」
「うわぁ、露骨」
しかし、急にSNS戦略を進めるなんて、もしかして売上が落ちているのだろうか。
そんな疑問に答えるように、如月は続ける。
「本社が新しく事業を始めるらしいから、ニコショの売上を少しでも上げたいんじゃない? インツタは前から他店舗でやってたけど、全店舗に強制するくらいだからちょっとでも右肩上がりにしたいんだろうね」
ニコニコショップは株式会社スマイリーが展開している女子向けの雑貨店だが、他にもいくつかビジネスをしている。全国展開してるものも多く、本社はそちらに力を入れている。ニコニコショップは本社からすると、小遣い稼ぎ程度のものなのでニコショ店員は緩く仕事ができる、と千奈津は認識している。
「如月さんがシフト入ったら売上が少し上がりますもんね。SNS戦略は効果ありそうです」
「じゃあ、如月くんの写真を何枚か撮ろうよ」
「いいですね。ニコショの服はダサいんで、小物を使いましょうか」
「ダサくない小物って何かあるかな?」
千奈津と斉藤のみで話を進め、如月は後ろで「やっぱりそうなるよな」と二人に届かない声で呟いた。
当の如月を放置して、斉藤は店内を歩き回って小物を選び、千奈津は二五二五円の煌びやかなイヤリングを選んだ。
千奈津が選んだイヤリングを目にし、斉藤は感嘆した。
「男がイヤリングですか。いいアイデアですね」
「ターゲット層は女子中高生だから、如月くんが付けても売り上げに貢献できないなと思ったけど、如月くんの強烈な顔面をアップで撮る立派な理由ができるでしょう?」
ふふん、とドヤ顔で胸を張る千奈津に斉藤は拍手を送った。
「斉藤くんはトートバックにしたんだ。でもそんな派手なピンクにするの?」
「これにはちゃんとした理由があるんです」
如月は斉藤と千奈津が選んだ物を摘まみ上げる。
千奈津はよくTシャツとジーンズを着用しているので、お洒落に無頓着な女だ。選んだイヤリングは結婚式に付けていくようなキラキラしたもので、男が付けるには派手すぎる。
斉藤のファッションは毎日黒で固められており、ロングスカートの時もあったのでセンスが良いのか悪いのか判断できなかったが、こんなドピンクを選ぶセンスなら、良いとは言えない。
「僕はこちらのピンクのトートバックです」
如月が持っているトートバックを指すと、千奈津は珍しそうにトートバックを眺める。
「実はこの商品、あまり人気がないんですよ。在庫がたくさんあって、失敗作とも言えるでしょう。学生がこんな派手なピンクのトートバックを使いたくないと思っても無理はありません」
いつの間にやらプレゼンが始まっていた。
「しかし、これをイケメンが持つことで、もしかしてこれって可愛いんじゃない? と思わせることができます」
「なるほど」
「というのは表向きで、単純に興味があるんですよ。イケメンがこんなダサ……人気のない商品を紹介したら、どのくらい売上が変わるのか」
如月は安心した。
どうやらこのトートバックをダサいと思うセンスが斉藤にあるようだ。
「重森さんのイヤリングは、これで決定ですか? 他のイヤリングではなくて?」
「うん、ちょっと派手でしょう?」
「そうですね。イヤリングはいいアイデアだと思いますが、男性が付けるには派手すぎます。女性が付けても目立ちすぎますよね」
「ぶっちゃけさ、二五二五円のイヤリングなんてそんなに売れないじゃん。最近はシンプルなものが流行ってるから、こんな豪華なイヤリングはもっと売れないの」
斉藤と如月はレジに立った時のことを思い出す。
女子中高生が購入していくイヤリングは、確かにシンプルなデザインが多い。そして二五二五円のイヤリングを買っていく客の対応をしたことがあっただろうか。印象に残っていないということは、購入する客数が少ないということだ。
「だから在庫も結構あるんだよね。どうにかして売れない商品を売りたい、というのは建前で」
如月は「だろうな」と頷いた。
「本音は斉藤くんと一緒で、売れない商品をイケメンが紹介したら売れるのかどうかを検証したい」
「なんだ、同じじゃないですか」
「完全なる女子向けのものを、しかも売れていないものを、如月くんが紹介すれば売上が増えるのではないかと思ったのです」
「僕たち同類ですね」
イケメンという餌をぶら下げたら、どうなるのだろう。
好奇心を隠さずきゃっきゃと騒いでいる二人に、如月は重要なことを伝える。
「楽しそうなところ悪いんだけど、フォロワー零の状態で投稿しても誰も見ないんじゃない? まずはフォロワーを増やさないと」
二人はぴたりと動きを止め、やる気に満ち溢れていた瞳は輝きを失い、仕事に戻った。
フォロワーを増やすための活動は面倒らしく、分かりやすい二人を横目に、如月は顎に手を当てて考え込んだ。




