755 クリクリ族の戦い
AブロックとBブロックの一回戦が終わり、全出場戦士の半分がお目見えとなった。
続けてCブロックの一回戦が始まる前にインターバルが挟まる。
試合場は現在、十数人の若い娘たちが歌とダンスを披露している。
この街で人気のあるアイドルグループだそうだ。
その間にも会場中のあらゆる場所から見ることのできる巨大なスクリーンには、これから登場するCブロックの出場戦士たちが映し出されていた。
その中で注目されているのはやはり次の試合、屈強な肉体を誇る大柄な種族オーガーの戦士チームと戦う小人族、クリクリ族の三人の戦士たちだ。
オーガーと比較するのも気の毒な、身長はおおむね六十センチ程度。
体形は丸みがあり、どこかクリっとした愛嬌のある顔立ち。
目は大きく、髪はふわふわのどんぐり色、もしくは木の葉色。
身体能力は身軽で回避力が高い。
手先も器用で実は抜け目のない狡賢さを持っている。
見た目通り力は弱めだが、集団戦や奇襲に優れ、この体格でも彼らの国は周辺国とのバランスを軍事力でもって支えているのである。
というのも彼らの最大の特徴は高機動、連携重視の戦術であるが、勝利のためには個の犠牲をいとわない集団心理によるところが大きい。
その一端を観客たちはこれから目にすることになる。
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砂埃の立つ闘技場に三体のオーガー戦士ブライア、テイラー、ジョンディーと三人の小人戦士コロタ、パスチン、モッサンが居並んだ。
そのあまりに残酷な体格差に会場のざわめきが一瞬、すっと引いた。
「始まるぞ……」
誰かのつぶやきと共に試合開始の銅鑼が鳴った。
ガァァッン!
観客たちが一斉に沸いた。
最前までの哀れみなどもう忘れている。
これから起こるであろう目も当てられない残酷な結末を期待して興奮しているのだ。
小さな三つの影がオーガーの一体を中心にして散らばった。
そのオーガーは笑いながら鋼鉄製のウォーハンマーを振りかざしている。
長柄の先に片方は金槌状、反対側はピック状の鉤爪になっている。
その重たい武器を軽々とオーガーは頭上で振り回した。
ヒュッ、ヒュヒュッ、と細い何かが空気を切り裂く。
散開したクリクリ族の戦士が投擲したナイフだが、オーガーを傷付けるどころか牽制にもなっていない。
オーガーは笑いながらドン、ドン、ドン、と地響きを立てて正面の位置にいたクリクリ族の戦士モッサンに突っ込んだ。
巨体ながら速い。
モッサンの喉首を掴み上げると思い切り地面へとたたきつけた。
もうもうと土煙が舞う。
モッサンはピクリとも動かなかった。
「早い! クリクリ族、早くもひとり戦線離脱だッ」
ざわめきが広がる。
だがそのざわめきは脱落者に対するものではない。
「いやしかしッ! 止まらないッ」
残ったクリクリ族の二人、コロタとパスチン。
視線すら交わすことなく連続してオーガーへの攻撃を緩めない。
低く、速く、滑るように動き回り、手にしたナイフを閃かせる。
「懐に入ったァ」
実況の声と同時にオーガーの足元へ潜り込んだコロタが膝の裏を切り裂いた。
オーガーが吠える。
腕を振り回すがもうひとりが背後から跳びかかる。
「今度は上ッ」
顔面へ。
ブスッ!
「ガァアアアァァッッッ」
目を一突きにされたオーガーの絶叫がほとばしった。
痛みと怒りで暴れまわるがしかしその動きが荒い。
斬られた膝裏と目の周りがドス黒く変色していた。
「あの傷は、毒でスッ! クリクリ族、ナイフに毒を仕込んでいるッ」
息を荒げたオーガーは動きが鈍くなり、そしてドッ、と地面に倒れこんでしまった。
すかさず二つの影が群がる。
ためらわずにザク、ザク、ザクッとナイフを身体中に突き立てだした。
急所、急所、とにかく急所に。
無言で倒れたオーガーが動かなくなるまで刺し続けた。
「オーガーのブライア脱落ッ! これで二対二! まだわからないッ」
だが――。
ドゴォッ!
「クリクリ族、二人目もやられたァッ」
横から振り抜かれたハンマーの一撃に小さなパスチンは壁までぶっ飛ばされた。
ぐたっとして動かない。
「これで一対二! クリクリ族のコロタ、もはや絶望的ッ」
その場を動かないコロタに向かいオーガーの戦士テイラーが一歩踏み出した。
足元に転がるクリクリ族最初の犠牲者モッサンの身体をあえて踏みつぶしながら。
「ニヤッ」
そのときコロタが笑った。
グシャァッ
オーガーの足裏から太い杭が突き出ていた。
「トラップッ! コロタ、いつの間にか仲間の遺体に罠を仕掛けていたァッ」
すかさず膝を着いたオーガの喉笛を切り裂く。
一瞬の迷いもない。
おびただしい鮮血を浴びながら最後のオーガー、ジョンディーへと突っ走る。
当然ジョンディーも向かってくる。
その目は怒りに燃えていた。
コロタを真っ直ぐ睨んでいた。
だから横合いから突然何者かに抱き着かれてもすぐには反応できなかった。
「ッ!」
壁に叩きつけられたはずのパスチンだ。
オーガーに抱き着いて口から何かを吐き出している。
黒くて丸い、短い導火線の付いたそれは、
「爆弾ダッ」
ドォッンン!
爆発。
ジョンディーの上半身とパスチンの全身が吹き飛んだ。
立っているのはコロタひとりだけだった。
「し、試合終了ッ」
ピースウイングの宣言に一泊遅れて歓声が爆発した。
「勝者、クリクリ族チーム! 生存者はわずかに一名ッ」
全身を赤く染めたコロタは静かに立っていた。
倒れた仲間に一瞥もせず。
だが口元は満足そうに笑っていた。




