751 エルフの女王ト=モ
「おぬしらの使命はなんじゃ?」
エルフの女王ト=モは目の前でかしずく四人のハイエルフに問うた。
「せ、世界を創造する力を得て」
「我らエルフの理想の世界を構築することです」
白のスーツとピンクのスーツを着た二人が順にそう答えた。
「私たちが新たなる姫神として、この世界を作り替えるのです!」
「それがエルフ族、そしてト=モ様の悲願」
金と銀の二人も続いた。
四人は活気を取り戻し息巻いている。
女王はひとつ嘆息を入れると、
「ちがう」
と言った。
「おぬしらの使命は白姫と金姫を捕獲して、わらわの前に連れてくることじゃ」
それだけ言って言葉を切った女王に四人は呆然となった。
「そ、それだけ……ですか?」
いつものような荒削りの調子を出せないライオンヘアの金の娘がたじろいでいた。
ト=モは憐みのこもった目を向けると諭すように、言い聞かせるように口を開く。
「それだけじゃ。それ以降のことまでおぬしらに期待しておらぬ」
あまりに冷淡な物言いに四人は口を開くことが出来なかった。
彼女らはト=モにより生み出された人造のエルフなのだ。
長い月日をかけてト=モが集めた姫神の因子を植え付けられて生まれたホムンクルス。
彼女たちは自分が試験管の中で作られた存在であることを知っている。
自然の摂理に則っていないことにも悲嘆せず、むしろ選ばれた存在であると、崇高な理念のもとに生まれたのだと自負していた。
その思いが多大なる活力をもたらしているのである。
「わ、我々は姫神にとって代わる存在として、エルフ族の未来のために活動してきたのではないのですか?」
「そのとおりじゃ。だがそれはおぬしらの代で成しえるほど矮小な事柄ではない」
「我らの……代…………」
ト=モの目つきに鋭さが増した。
「姫神因子を持たせたおぬしらが何代目であるか、それを知る必要はない。ただこれまでに莫大な金と労力、時間をかけてきた。エルフの寿命は長い。それでも我慢に我慢を重ねてきた時間じゃ。それがもう一押しのところまできた。足りない姫神因子はあとふたつじゃ。白と金。おぬしらはこの二名を捕らえ、わらわの面前に連れてくることに集中せいッ」
「は、はいッ」
四人はト=モの一喝にひれ伏し、恐縮した。
自分たちの存在価値など取るに足らない。
行動理念など考える必要もない。
ただこの偉大なるエルフの女王の望むものを得る。
そのことのみに精進すればいいのだと改めた。
そう思うように造られているのだ。
彼女らは。
「き、金姫はこのコランダムの街に居ます。ヤツの仲間をひとり拉致しておびき寄せようとしましたが、見知らぬ戦士の邪魔に遭い……」
「白姫もこの街に居るはずです。辺境一帯でしゃべるフクロウと共にしていたという情報を掴んでいます。ただそのフクロウ以外、白姫の痕跡は消えてしまいました」
金と白の二人がそう報告と弁明を口にした。
続けて、
「金姫の手掛かりはやはり仲間にあると思います。今一度、奴らの隙を突いて探りを入れます」
「白姫の行方は知れませぬが、いくつか探索のルートがございますので、それを突いてみようと思います」
ト=モは大仰にうなづいて見せる。
「策があるならば直ちに実行せい。いかに時が潤沢であろうと、決して無限ではないぞ」
「ハッ」
四つの影が飛び立った。
その場にはト=モひとりだけが居残った。
ト=モはひとり、物思いに沈んだ。
「少しずつ、だが着実にその時が近付いておる」
ト=モは二千年以上を生きる。
生まれて間もない頃、東の緑砂大陸中心地に魔精霊ヴィルゴが暴走する事変があった。
それまで緑豊かで肥沃な大地であったその場所は、緑砂の結晶が混じった緑色の大砂漠地帯へと変貌した。
その魔精霊を鎮め、その地に平安をもたらしたのはひとりのニンゲンの娘だった。
「御崎サクラといったあの娘は、姫神だった」
桃姫として降臨し、旧きモノ、神聖なるアールマティーを宿した娘は、かの地にエスメラルダ王国を築き、自身は慈愛の女神となって今もあの国の宗教の形で残っている。
「魔精霊は我らエルフの祖先が制御に失敗した自律型最終兵器。そのバケモノを使って何をしようとしていたのかは今となっては不明じゃが」
だがその制御に失敗したのは事実。
その結果広大な大地を砂漠化してしまった責を問われ、エルフ族は逃げるようにセンリブ森林へと追い立てられた。
そこで息をひそめて隠れ住む以外なかったのだ。
ト=モはその時代から生き始める。
貧困と、自尊心の崩壊、世界からの冷遇。
それらは長い年月エルフ族の重しとなった。
御崎サクラもお隠れになり、何年、何十年、何百年経っても、エスメラルダ王国がエスメラルダ古王国と呼ばれるようになるほど月日が経っても、その重しが取れる気配は訪れなかった。
「世界を変えなければならない。御崎サクラがそうしたように。姫神の力を使い、エルフ族の理想郷を作る」
ト=モが女王となったその日、それまで胸の内に秘めていた決意を実行に移す時が来たのだと理解した。
いまより千年前の事である。




