737 剣聖無双
ひとり目として試合場中央に進み出たのは小さなカエル族の剣士ウシツノだ。
早速の剣聖登場に場内割れんばかりのチャンピオンコールが鳴り響く。
だがそんな場内の盛り上がりに反してレオパルトは水を差された気がして拍子抜けだった。
「あぁ? なんでテメェが出てくんだよ。黒豹を出せッ! 死にたいか」
柄の悪さをあけっぴろげに威嚇するレオパルトだが、ウシツノは逆に呆れてしまった。
「相手チームの順番にまでわがまま言うのか? そんなに思い通りにならないのが不安なのか?」
ピクッ、とレオパルトのこめかみにはっきりと青筋がたった。
「なんだと、コラ」
「程度の低い威嚇はよして剣で示せよ。オレを倒せばアナトリアが出てくるんだ。簡単だろ」
「チビがッ! 素直に見逃してもらえばよかったと後悔しても遅ェぞッ」
怒りをぶっぱなすレオパルトにうんざりしてウシツノは数歩下がった。
レオパルトも仲間の方を振り向いて試合開始に向けて集中する。
「さあさあ一触即発この二人! どんな死闘を演じてくれるか試合開始だヨッ」
ドォッッッン!
ピースウイングの場内実況に合わせて戦いの始まりを告げる銅鑼の音が鳴り響いた。
黄金でできた龍と虎をあしらった巨大な銅鑼は、人間では決して振るうことすらできない巨大サイズのハンマーを持ったオーガーによってぶっ叩かれた。
会場中の割れんばかりの歓声も、この時ばかりは銅鑼の音によってかき消されていた。
音の余韻が耳に残りつつも徐々に歓声が耳に戻り始める。
大音響に顔をしかめつつも、今から自らの手で行われる殺戮ショーを存分に楽しんでやろうとレオパルトは振り向いて哀れなカエルの姿を捉えようとした。
「ッ!」
ウシツノは一瞬にして間合いに入り込んでいた。
予想だにしなかった開始直後の急接近にレオパルトは目を見張った。
だがそれも一瞬で、すぐに迎撃態勢に頭を切り替えると、踏み込んできたウシツノに強烈な斬撃をお見舞いした。
「避けれるわけがねェッ」
そう思ったが剣に手応えはなく、避けられたのだと切り替えた。
で、あれば奴は、
「上だろッ」
ウシツノはレオパルトが見上げた先にいた。
ドンピシャッ、と思いながら剣ですでに斬り上げていた。
「空中じゃあ躱せねえッ」
ウシツノは躱そうとはせず刀でレオパルトの剣を迎え撃った。
衝撃が走る。
「クッ」
その結果はまたしてもレオパルトの期待するものではなかった。
刀を振り下ろしたウシツノの斬撃は思った以上に重かった。
「しゃらくせェッ」
それでも振り上げていた剣を力任せに振り抜いた。
チビなカエル族なら弾き飛ばして空中できりきり舞いだ。
そうだろうがッ。
トスッ。
「は?」
レオパルトの足元に剣の刃先が突き立っていた。
刃先は二十センチ程度の長さで両断されていて、さらに言えばその刃先にはいささか見覚えがあった。
そういえば振り抜いた剣が妙に軽いのも気になる。
見上げた自身の剣の先がどうにも短く感じる。
刃先がどこにも見当たらなかった。
剣は先端二十センチ程のところでスッパリと断ち切られていた。
「いや! それよりッ……」
それよりも、だ。
刃先よりもそれよりも、奴がいない! 奴はどこだ!
「切り替えが遅い」
そのウシツノの声は間近から聞こえた。
正面やや下、ヘソの辺り、チビだからそこから声が聴こえた。
超至近距離に詰め寄られていたのだ。
「あっ」
一瞬で右上腕と両太股を斬られた。
斬られた瞬間に悟る。
この傷は決して浅くはない。
斬られた右腕が剣の重みに耐えられずにだらりと下がり、両膝が地面に着いた。
「剣が折られたことに気付くのが遅すぎだ。次の手に移行するまで二秒あれば余裕で刺せる」
「クッ……ばかな、テメェ」
苦しげに呻くレオパルトの理由は傷の痛みのためではない。
「電光石火のウシツノ斬りィ炸裂ッ! さすがのチャンピオン、あっという間の決着だァ」
実況の声にパンテラ残りの二名は呆然としていた。
「ばかな! レオパルトはパンテラ期待の若手だぞ! それがこんなあっけなく……」
「ん、そうなのか? ……そうなのか……」
その懐疑的なウシツノの態度に眼帯のリーダーははらわたが煮えくり返る思いだ。
「何をしているアムール! 二番手はキサマだろォ。あのカエルをぶっ殺してこい」
「は、は、はいィッ」
勝ち抜き戦と決めたので、二人目のパンテラの戦士が進み出た。
手には先が三本のフォーク型をした長柄の武器トライデントを持っている。
シュバッ! と空気中の水すらも切り裂きそうな鋭い突きを撃ってきた。
「おっと!」
いきなりの先制攻撃は躱したが、アムールは続けざまにトライデントの突きを放った。
連続で放つ突きは申し分ない速度と迫力を併せ持っており、さらに厭らしいことにフォーク型の尖端を縦に、横に、と向きを変えて突いてくる。
縦の突きと横の突きでは避ける距離感に違いが生じる。
瞬時に見極め距離感を誤らずに避ける必要があった。
さらに突く箇所もウシツノの頭部、胴体、脚部をランダムで狙ってくる。
「この距離を保てば刀の間合いからは遠い! いつまでそうして躱し続けられるか……ッ」
アムールの言葉に耳を貸さずウシツノは自らトライデントの突きに向かっていった。
三本の尖端の隙間にウシツノの愛刀自来也が打ち据えられる。
三倍の厚さを誇る自来也の破壊力にトライデントは耐えられず粉々に粉砕されていた。
「な、バッ、武器破壊だとォ」
ドゴッ!
峰打ちではあるが思い切り頭部を強打されてアムールは沈んだ。
「剣聖瞬く間の二連勝ッッッ」
残るは右目に眼帯を嵌めたパンテラのリーダーのみである。




