501 アカメレポートその7 過去の姫神・伝説になった姫神
最後に過去に存在した姫神について、わかっている部分を記録しておきたいと思います。
「黒革の魔女オーヤ」(元黒姫)
オーヤは長い金髪を自在に操る全身黒いレザースーツを着た魔女です。
トカゲ族とつるみ黒姫を拿捕し、白姫も狙い我等の故郷カザロを滅ぼしました。
その正体はおよそ四百年前に黒姫として降臨した元姫神です。
どのような経緯で今日まで生きながらえたのかは不明ですが、じっさい彼女は剣で心臓を刺し貫かれても死ぬことはなく、自ら死人を名乗っています。
どのような秘術でそのような力を手にしたのかは知れませんが、大ダメージを受けると一時年齢相応の姿に変わり果てることもあるようです。
目的は不明ですが、我らをいざない浮遊要塞ゴルゴダへ赴き、その際に金姫の神器を使い転身を果たしました。
転身名<魔姫梟狼>。
全身流れる血のような赤いラインが入った黒い硬質の鎧に包まれた姿になります。
長い金髪はそのままに、金色の瞳は真っ赤に変わります。
まさに悪魔的という表現がピタリです。
彼女は次元を断つ戦法を得意とし、空間を自在に飛び回る能力を有します。
目下のところ、世界の秘密に触れる一番の早道が彼女への接触です。
ですが目的は不明のため、利害の一致を得られるとは限らず、協力、敵対、双方の可能性がある危険な相手です。
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「バン」(元白姫)
この喋る小さな白タヌキは信じ難いことに元姫神であり、オーヤと同じく四百年前に降臨した元白姫です。
本人の口からきいたわけではありませんが、推察するにオーヤとは姉妹である可能性が高いです。
なぜバンはかような姿に変わり果てたのかは推測の域を出ませんが、おそらくマナを抽出されすぎたことに関係があると思われます。
それでも現在まで生き残り、かつしっかりとした自我を保っているのは驚異的です。
このことから他にも生き残った歴代の姫神がいてもおかしくはありません。
バンは特に危険な思想等は持ち合わせてはおらず、我等との関係も良好です。
現在は我が友クラン・ウェルと旅を共にしているはずです。
一時的ですが自身に宿った旧きモノである<バンダースナッチ>の力を行使できます。
その時には巨大で獰猛な白い四足獣の姿になり、空も飛びます。
彼女もまたこの世界の秘密に近づく鍵のひとりと言えましょう。
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「千年前のテオ族の巫女ヒカリ」(元白姫)
ヒカリはおよそ千年前のハイランド建国に関わった元姫神です。
その情報に関しては大部分が現白姫シオリの見た夢と、この国に伝わる建国伝説〈白き巫女と希望の箱〉によります。
テオ族を率いてこの地を荒らしまわった獣神ガトゥリンを討伐し、パンドゥラの箱に封じ込めたという話です。
後にその箱は持つ者に幸運を与えるとされ、醜い争いの元になってしまうのですが。
その<パンドゥラの箱>こそがヒカリの神器でした。
箱は超人的な戦闘力が身に付く鎧に変じることもでき、彼女は手懐けた飛竜にその鎧をまとわせて戦いました。
残念ながらガトゥリン討伐後の足跡は不明。その名もシオリさんが夢に見るまでは知られることもありませんでした。
ですがハイランドの建国伝説にその存在はかすかに匂わされていました。
何者かが隠ぺいを目論んだのは明白です。
でなければ姫神に関する資料がこうも乏しい理由が通りません。
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最後に得たばかりの最新の情報です。
我が友人である<自由騎士>タイラン殿が新たな姫神と遭遇したそうです。
エスメラルダと浮遊石地帯の間にそびえるディバマンドの山中にて、奇妙な薬草園とその主である薬師の女です。
金髪に褐色の肌の若い女だったそうですが、驚くことに自身をかつての姫神に宿った旧きモノと名乗ったとか。
正体はエスメラルダを建国し、聖六大神の一柱〈慈愛の女神サキュラ〉として今も信奉されている、約二千年前の姫神桃姫、御崎サクラに受肉した神聖なるアールマティ。
名乗りを聞いた瞬間、あのタイラン殿が凄まじい神気に中てられ固まってしまったというのですから、なかなかに恐ろしい。
ですがこれは大きな情報です。
機会を見て是非とも接触を図りたいものです。
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以上が現時点での姫神に関する主だった情報のまとめになります。
すでに世界中で起きている<大異変>に姫神が関与していることは知れ渡っています。
ですがその詳細について知る者はわずかであり、このレポートも決して公にすべきものではありません。
これは限られた一部の者たちだけが共有できる報告であることを申し添えておきます。
最後に、胡乱な異郷人であり、つたない東方語にて書き留めた故、表現に稚拙な個所が多々あることを謝罪いたします。
些末なカエル族の無作法をお許しいただきますことをお願いいたします。
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「とまあ、これぐらいしたためておけば角も立たないでしょう」
ペンについた黒インクをふき取りつつ、アカメは大きく伸びをした。
「アカメ。時間だよ」
「はいはい、いますぐ」
自室のドアをノックして、ハクニーが出発を知らせてくれた。
ハイランドの友好国であるエスメラルダの新法王即位式出席のため、これからしばらく馬車の旅に出かけねばならないのだ。
「別にアカメがいかなくてもいいんじゃない?」
ハクニーにそう言われたが、アカメにはエスメラルダに行きたい理由もあったのだ。
「はてさて、ようやくお会いするに足る状況に辿り着きましたよ。偉大なる年代史家エンメ殿」
いつも以上に多くの本を詰め込んだバックパックを背負い込み、アカメは待機する馬車へと向かった。
2025年3月1日 挿絵を変更しました




