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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: みちゃき
第六章 英雄・奇譚編

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491 自由騎士タイランその24 ひとしきりの絶叫


「まだやれることだって? お前に?」


 懐疑的な目で問うボンドァンを尻目に、アナハイは小袋から薬瓶を取り出すと中身を一気に飲み干した。

 タイランには彼が薬に口をつける寸前、わずかに躊躇したように見えたが止める暇はなかった。


「お前みたいな世間知らずの坊ちゃんに何が出来るんだって聞いてんだぞ」


 いきり立つボンドァンには答えず、アナハイは剣を捨てると上着を脱いで上半身裸になった。

 浅い呼吸を繰り返し、落ち着こうと藻掻いているように見える。

 最後に大きく深呼吸すると目に力がこもりクロウをまっすぐに見据えた。


(コア)に当てれば毒は効きますよね、クロウさん?」

「ああ。間違いなく」


 回答に満足そうに頷いてからボンドァンを見る。


「ドラゴンの動きが止まったら、(コア)を叩き斬ってください」

「あ? あたりめえだ。言われなくても」


 そして若者はタイランの前に立つ。


「賢者の石はあなたにお願いします。翼のあるあなたが適任だ」

「……」

「剣聖と張り合ったあなたを見て、僕は強いあこがれと共に弱い自分に気付かされました。あなたなら全てを託せる。石を薬師の元へ届けてください。それと……」


 首から下げた紐を切りタイランに渡す。


「リュキアに渡してください」


 紐の先には指輪が括り付けてあった。

 飾り気のない、真鍮の安い指輪だった。


「実は僕たちまだ正式な夫婦ではないんです。家を捨てた僕にはこんなものしか用意できなくて、なかなか渡せなかった」


 恥ずかしそうにアナハイは笑った。

 タイランは笑う気にはなれなかった。


「帰ってから自分で渡せばいい」

「すいません。もう無理なんです」


 アナハイは一行から離れると背を向けた。

 かすかに震えているようだった。


「お前、なんの薬を飲んだ?」

「……」


 クロウの声には咎めるような響きがあった。

 アナハイは背を向けたまま答えない。

 いや、答えを待つ必要がなかった。

 不気味な異音を鳴らしながら、アナハイの身体が突如変形し始めたのだ。

 肩が外れる音、骨が折れる音、背中が膨らむ音、皮膚が裂ける音、筋肉が肥大する音、人が人でなくなっていく音。

 アナハイは絶叫していた。

 ひとしきり叫んだ。

 苦しみの絶叫、痛みの絶叫、悲しみの絶叫、勇気の絶叫。

 ひたすらに叫んだ。

 叫んで、叫んで、叫び続けた結果、人が絶望した後に、その先に小さな希望を見つけたような声で囁いた。


「僕は……僕は僕でなくなります…………身体だけでなく、心までも僕でなくなる! あとは、頼みます」


 彼は海へ飛び込むように足下の地中へと飛び込んだ。

 最後に見た彼の姿は、彼ではなくなっていた。

 舞い上がった砂煙がその姿を皆から見えなくしてしまう。


「リュキアには……この事は…………」


 最後の瞬間タイランの耳にだけその声は聞こえた。

 彼の、悲壮めいた顔が強く目に焼き付いた気がした。

 あとにはポッカリと地面に穴が空いていて、アナハイはいなくなっていた。


「な、な、な、なんなんだよ」

「あの野郎、いったい」


 唖然とする四人だったが事態はすぐに次のターンへと動き出した。

 集合した一つ目コウモリたちが二つの首を持つドラゴンとして再始動したのだ。

 こちらに向けて地を這うように二つの首が接近してくる。


「チッ、完全にオレたちを排除するつもりだな。もう逃げる暇もねえぞッ」


 全員が武器を構える。

 しかしあの重量と速度を迎え撃てる装備などない。

 立っていられなくなる程の振動が訪れる。


「うへぇ、ヤベーかも。これは死ぬな」

「違うぞボンドァン、この地響きはヤツじゃない! 地面の下からだ」


 クロウの叫びと同時に大きな衝撃があり、巨大な土柱が立った。

 タイランたちの目前に迫った二つの首がガクンと止まり、さらに空中へと巻き上げられていく。


「あっちよ」


 バイド=バイタが遥か前方を差す。

 そこに地中から巨大な砂虫(サンドワーム)が屹立していた。

 太陽に向かうように大きく長い身体を伸ばし、先端の(あぎと)に緑色に輝く大きな球体を包み込んだ黒いドラゴンの身体を咥えこんでいた。


「あれが(コア)か!」

「けどあのばかデカイ砂虫(サンドワーム)はなんだよッ」


 浮遊石であるこの場に砂虫(サンドワーム)()べない。

 アナハイは確かにそう言っていた。


「するってぇと……あれは」


 全員が同じ答えを想像した。


「な、なあ、あれって……戻れるんだよな…………」

「わかるわけがない」


 動揺するボンドァンにクロウは吐き捨てるように答えた。

 苦り切った顔をしている彼を見て、タイランも暗い感情を抱いた。


「行くぞ、ボンドァン! ヤツの(コア)にヒュドラをぶち込むッ」

「ああッ! やってやるッ」


 二人に戦意が戻っていた。


「赤い鳥ッ! 賢者の石は任せる。手に入れたら構わねえから離脱しろ」

「……」

「あいつの意思を組んでやるんだ」


 タイランは返事をしなかった。

 それをクロウは了承と受け取った。


「バイド、行ってくる! お前は人数分の傷薬を用意して待っていてくれ」

「アンタ……」


 それ以上言わせまいと口付けをすると、クロウはボンドァンと並んで走り出した。

 タイランもその後に続いた。


挿絵(By みてみん)

2026年3月12日 挿絵を挿入しました

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