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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第三章 異界・探究編

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145/722

145 トロピカルアルティメットマンゴーパフェ

挿絵(By みてみん)


 エスメラルダ王国の東方に広がる緑砂砂漠を、人々は〈浮遊石地帯〉と呼ぶ。

 大小さまざまな奇岩が宙に浮く不思議な光景が見られるからだ。

 その〈浮遊石地帯〉をかすめるように、南に領土を持つのが〈五氏族連合(フィフス)〉と呼ばれる五種族である。

 すなわち北西の〈猫耳族(ネコマタ)〉、北東の〈兎耳族(バニー)〉、東の〈猿人族(ショウジョウ)〉、南の〈妖狗族(キツネ)〉、そして西の〈犬狼族(ウルフマン)〉。

 さらにこの五氏族に囲まれた中心地には〈聖なるシャニワール〉と呼ばれる街が拓かれていた。

 ネコマタとバニーの直轄地は大半が砂漠に覆われているが、この街から南は海に面するまで熱帯雨林の広がる緑豊かな地であった。


 この街には政治を執り行う長老らの議事堂から、催事を執り行う社殿、商いを取り仕切る商館、旅人や冒険者を相手する宿場町としての機能まで備わっていた。

 当然盛り場も多く、繁盛している者もいれば、犯罪を犯す者、それを取り締まる憲兵までもいる。


 人間の統治する〈エスメラルダ〉や〈ハイランド〉、大陸の玄関口である〈盗賊都市マラガ〉に比べれば規模は小さいが、熱気や活気といったものは決してひけを取らない。


 ミナミとその仲間たちはこの〈五氏族連合(フィフス)〉の中心地といえる〈聖なるシャニワール〉にいた。

 〈浮遊石の嵐(ガム・デ・ガレ)〉でのジンユイ狩りからすでに一カ月が過ぎていた。

 あの日、予期せぬジンユイの大群と、巨大なヴァルフィッシュとの邂逅で気を大きくした一行は、この街に戻るなり以前の生活に比べ羽振りがよくなっていた。

 なんといってもジンユイの体内から採取できる〈緑砂の結晶〉が予想以上に手に入ったことが大きい。

 この結晶を北に住む〈ドワーフ〉連中に売ることが、この地に住む彼らのようなハンターの主な収入源であるからだ。


 ミナミたちは連日のように酒場に入り浸っていた。

 今日もミナミとレッキス、ウィペットにクルペオの姿が見える。

 呆れたことに真っ昼間から酒をあおって上機嫌だ。


「ミナミったらお酒よわっちいよね~。すぐ赤くなる」


 二杯目の麦酒(エール)に口をつけたばかりのミナミだが、すでに顔が赤い。


「レッキスだって大して変わんないじゃん。クルペオは全然変わんないけど」

「私はどれだけ飲んでも酔わないのじゃ」


 そう言ってクルペオはジョッキに注がれたエールを水のように体内に流し込む。


「それでは飲む意味がないな。まったく酒が可哀そうだ」


 追加を注文しているクルペオにウィペットがツッコむ。


「ウィペットは飲んでないみたいだね」

「これでも神官の身なのでな。酒と刃物を持つことは禁じられている」


 じゃあ料理とかどうするんだろう。

 ミナミはそう思ったが、政治と宗教の話はしたくなかったので黙っていることにした。


「ところで今日はシャマンとメインクーンが来てないね」


 巨漢の戦士シャマンと、盗賊少女のメインクーンがいないので、少々テーブルが寂しく感じられる。


「あの二人なら結晶を売るために交易所へ行っているはずだ」

「ああ、ドワーフの隊商(キャラバン)が来るの、今日だっけ」


 ウィペットの言にレッキスが納得する。

 ひと月に一度、数十人からなるドワーフの隊商がこの街を訪れる。

 当然目的はこの街を根城にするハンターから〈緑砂の結晶〉を買い取るためだ。

 基本的にドワーフたちの方から買取に出向き、そしてこの街で生活に必要な物資も購入し帰路に着く。

 そのためハンターたちはその日に備えて結晶を採取し、街の商店は大量購入の顧客をもてなす用意に勤しむのである。

 この機を逃すとひと月の収入は大幅に途絶えてしまうため、彼らにとってとても大事な日なのである。


「にしてもシャマンとメインクーン、遅すぎるんよ。そろそろ財布の中の酒代を補充したいんよ」


 木製の古いテーブルに突っ伏し、空のジョッキを口にくわえながら、レッキスがうんうん唸ってる。

 そこを通りかかった顔なじみのハンターが声をかけてきた。


「よう、お前ら! 最近羽振りがいいみたいだな」


 ミナミが見上げると、そこにシャマンと同じ〈猿人族(ショウジョウ)〉のハンターが立っていた。名前は忘れた。


「まあね~」

「すでにデキあがってんのか。大したご身分だな」


 少なからず言葉に嫉妬がこもっている。


「今月は上々の売り上げが期待できるのでな」


 クルペオの言葉にレッキスがニヤける。


「姫神サマサマなんよ」


 その言葉にハンターがミナミの方を向いた。


「この嬢ちゃんがか? なんだかすごい奴だって噂は聞いたが、一体どこで拾ったんだ」

「……プッ! クスクス! 聞きたい? 教えてあげよっか? あれは半年ぐらい前のこと……」


 笑いながら話し始めたレッキスに、ミナミは慌てて立ち上がると飛び掛かり、口を両手で覆い隠してしまった。


「わぁーわぁーわぁー! なに話し始めてんのよ! だめだってだめだって」

「モガフガ」

「おいおい、どうしたってんだよ? なんでだめなんだ?」

「だってえ」

「プハッ! ゼェゼェ。残念! ミナミがダメだってさ」


 必死にレッキスの口を封じるミナミにハンターが抗議する。


「そりゃねえぜ。そんな態度とられちまったら逆に気になるじゃねえか」

「恥ずかしいんだもん……」

「なんだそりゃ?」


 ミナミの顔が赤いのはお酒のせいかあるいは。


「ならお礼に全員一杯ずつ奢るからよ。聞かせろよ」

「ウェイトレスちゃーん! もう一杯おかわり」

「私もじゃ」

「……こぶ茶を一つ」

「決まりだな」


 すかさず注文した一行を見てハンターがニヤっとする。


「ちょっとちょっとー」


 こうなってしまってはもう断れそうにもない。


「……トロピカルアルティメットマンゴーパフェ」


 ミナミはやってきたバニーのウェイトレスに、この店で一番高いスィーツをオーダーしてやった。

 ハンターがこっそり財布の中身を確認しているのをミナミは見逃さない。


「あれは半年前だったかな。春の匂いが間近に迫ったころだったんよね」


 お行儀悪く両足をテーブルに乗せたまま、レッキスが話し始めた。




 この街のすぐそばに、太古の森そのままの姿を残す場所があった。

 〈聖域〉として扱われてはいるが、その深い森の奥には古い遺跡が残されているだけで、特にこれといったものはないと思われていた。

 その遺跡の簡単な調査にシャマンたちは訪れていた。

 そのころ結晶狩りがうまくいかず、明日をしのぐ程度の金にも困っていたシャマンたちは、結晶狩り以外の仕事を請け負うことで急場をしのいでいたのだ。

 実入りとしてははした金にしかならないが、贅沢を言える状況ではなかった。


「今と大違いだな」


 ハンターの感想に相槌を入れてレッキスは続けた。


「依頼人は変人としてこの街では有名な妖狗(キツネ)族のスイフト爺さん」

「彼のご老はこの地の歴史を調べている学者なのじゃが」

「まあ成果が見られなくってね。あの日も遺跡に行ってガラクタを拾い集めてくる。そんな依頼だったんよ」


 クルペオの補足を挟みつつ、やってきた追加のエールをあおってレッキスが笑い出す。

 ミナミはうつむいたままトロピカルアルティメットマンゴーパフェをつついている。


「そこでさ、この子に会ったんよ。ね、ミナミ」

「……そうね」

「遺跡でか?」

「ううん。違う。そばの大きな木」

「木?」


 ハンターが怪訝な顔をする。


「そう。その大きな木の枝にね、素っ裸のミナミが絡まっててね、私らに助けてって。ね」


 今度こそミナミは酒ではなく、恥ずかしさから顔を真っ赤にして、パフェをつつくのであった。


2025年9月27日 挿絵を挿入しました。

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