142 〈金姫〉ミナミ
ゴォン! ゴォン! ゴォン!
巨大な岩と岩がぶつかり合う鈍い音が聞こえる。
ここは〈浮遊石地帯〉と呼ばれる砂漠。
巨大な岩々がいくつも宙に浮いている奇岩地域。
そんな砂漠で獰猛な砂嵐が発生した場合、大小さまざまな浮遊石はお互いバランスの取れた距離を狂わされ、衝突する。
ゴォン! ゴォン! ゴォン!
先程より聞こえるこの音がまさしくそれだ。
鼻をひくつかせながら少女は目を見開く。
「見えた! 〈浮遊石の嵐〉! 大きい」
遥かな前方、空高く渦巻く砂嵐の中に、乱れ飛ぶ黒い影が見え隠れしている。
それは岩だけではない。
そこに確かに彼女らが狙う獲物の影も見える。
人間の視力では到底判別不可能なこの距離でも、彼女なら問題ない。
遠目の利く〈猫耳族〉の少女メインクーンが巨石の上から報告する。
そのふもとに待機していた他の五人が立ち上がる。
「やれやれ、ようやく来たか」
「嵐流予報から遅れること四十二時間。ずいぶん待たされましたな」
〈猿人族〉の巨漢シャマンと〈犬狼族〉のウィペットがこぼした愚痴に〈狐狗族〉の女性クルペオが眉を顰める。
「嵐流予報は我ら狐狗族の符呪奥義による賜物。これなくしていかなる時に現れ出でるか見当もつかぬものぞ。それを……」
「まあまあクルペオ。あの二人は二十四時間戦ってないとこらえられない脳筋なんだからさ」
「キキキ! その通りだ!」
「いや、褒めてないって……」
クルペオを慰めようとした発言だったのに、何故か大笑するシャマンに〈兎耳族〉のレッキスは呆れた。
「いるよいるよ! ジンユイ! 嵐の中を何匹も飛んでる」
メインクーンが興奮しながら巨石を駆け下りてくる。
「よぉし! お前ら、狩りの準備はいいか?」
少々くたびれた板金胸鎧に両腰に捧げ持った二対の片手斧、さらに鎖鎌を手にしてニヤっと不敵な笑みをこぼしながら、〈猿人族〉の巨漢戦士シャマンが一同を見回す。
隣で鎖鎧を着こみ槌鉾と方形盾を用意した〈犬狼族〉の神官戦士ウィペットが頷く。
「とっくに準備できてるよ!」
見た目は十代の人間の少女だが、猫の耳と尻尾を持つ〈猫耳族〉の盗賊少女メインクーンは、全身ぴっちりとした黒いキャットスーツ姿。
同じく狐の耳と尻尾を持つ〈狐狗族〉の女性符呪師クルペオは白い着物に緋袴という巫女装束。
兎の耳と尻尾を振る〈兎耳族〉の女拳法家レッキスは、スラリとした素足を惜しげもなく披露したミニのチャイナドレス、身の丈よりも長い棍を持ち、両拳に金属製の爪の生えた手甲を嵌めている。
「いつでもオッケー! ミナミは?」
レッキスの視線の先にもう一人いる。
明るい茶髪の緩いボブカット。小柄な体に革鎧をまとったその人間は、立ち上がると背中に担いだ大剣を引き抜いた。
「もちろんオッケー! どんな獲物でも任せて! 私は最強の姫神〈金姫〉なんだから!」
2025年5月25日 挿絵を挿入しました。
2025年9月21日 挿絵を変更しました。




