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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第三章 異界・探究編

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138 藍姫〈クトルゥー・フラウ〉

挿絵(By みてみん)


 熱気!

 宮殿前広場を埋め尽くす「異形」たちが興奮している。

 その群衆を鎧で身を固めた兵士たちが押しとどめ、群衆という垣根で作られた円形の広場が出来上がっていた。


 そのぽっかりと空いた広場にユカが一人立たされている。


 与えられたドレスではない。

 サッパリと洗濯された自分の制服を着ている。

 その制服の肩が震えているのが遠目からでもはっきりと見える。


 広場を一望できる宮殿の正面テラスで、サチは女王ティターニアに食って掛かる。


「なにをするつもりなの!?」

「言ったであろう。あの者が自ら言う通り、〈姫神〉であるのか確認するのだ」


 先程までと違う、女王の慇懃な態度にサチは(ひる)んだ。


「ど、どうやって」


 するとユカの前に何人かの「異形の者」が進み出てきた。

 みな体の一部が人間ではない、別の生物の特徴を有している。

 〈戦闘怪人(ケンプファー)〉と呼ばれるこの国の戦闘員だ。


「窮地こそ、人は己が秘めた力(ポテンシャル)を発揮する。それは死地に追い込めば追い込むほどにだ」

「まさか……」

「はじめなさい」


 女王による開始の合図で異形の者共が動き出す。


「グヘヘヘ。お姫さま、おめめを覚ましていただきますよ、と」

「お神さまだろバカ」

「姫神さまだ」


 八本の細い足を背中に生やしたクモ男(シュピンネ)、黒い翼を生やしたコウモリ男(フレーダーマウス)、右手が巨大なハサミのカニ男(クラッベ)

 ユカにその三体の異形が近寄ってくる。


「さあ行くぜ!」

「ギシャアッ」


 カニ男(クラッベ)の巨大なハサミがユカに襲い掛かる。


「キャァッ」


 ユカは一目散に走りだす。

 ハサミから逃げ、広場から逃げようとする。

 そのユカのすぐ横をコウモリ男(フレーダーマウス)が滑空しながらすり抜ける。


 ビシュウッ!


「ぐっ」


 ユカの左肩口がじんわりと赤く染まる。


「くく、なかなか美味」


 コウモリ男(フレーダーマウス)の牙にユカの赤い血が染みついている。

 ユカは痛みをこらえながら群衆をかき分けて広場を脱出しようとする。

 しかし異形の群衆がそれを許さない。

 ユカを広場に圧し戻そうとする者もいれば、逆にユカを掴んで自らが傷つけてやろうとする者もいる。

 圧倒的な暴力にユカの頭は真っ白になり、視界も狭まる。

 自分が今どうなっているのかもわからない。

 だから自分の足首に粘着性の白い糸が絡まっていることにも気づかないでいた。


「ほぅら、こっちへ来ぉい」


 クモ男(シュピンネ)が糸を引っ張るとユカはすっころび、地面を引きずられるようにして広場の中心に戻される。


「ユカ! ユカ! ユカァ!」


 サチはすでに半狂乱でユカの名を叫び続ける。

 その後ろでメグミは血の気の引いた顔で立ち尽くし、女王はただひたすらに無表情で見下ろしている。

 両足に糸の絡まったユカはのそのそと地面でもがくのみ。

 そのユカに向かいカニ男(クラッベ)のハサミが迫る。


「それではその首、チョッキンと」


 ガチン!


 ハサミの刃と刃が打ち合う音だけが場に響く。

 首の繋がったままのユカは空中で、コウモリ男(フレーダーマウス)に吊り下げられていた。


「バカですかあなたは。殺してしまってはお姫さまかわからなくなるでしょう」


 するとコウモリ男(フレーダーマウス)はユカの体を放し、地面に向けて放り投げてしまった。


「追い込むならまずは突き落とすべきかと」

「きゃああああああ」


 ユカの悲鳴が地面に向かい尾を引く。


「ユカァ!」


 べとぉぉ


 地面に落下寸前、幾重にも張られたクモの巣の糸に、ユカは受け止められていた。

 しかし全身に粘着性の糸が絡みつき、もはや身動きもできない。

 なすすべなく弄ばれ、すでに諦めているのか目から光が失われている。


「おやおや」

「やれやれ」

「この様子ではもう逃げることもできないね」

「抵抗もだな」

「それじゃあ、これで目覚めないなら、サヨナラということで」


 クモ男(シュピンネ)コウモリ男(フレーダーマウス)カニ男(クラッベ)が、とどめを刺そうとユカを見下ろす。


「ユカァ!」


 サチは目をむき異形の三人を睨みつける。

 メグミはすでに顔を両手で覆い膝をついている。


 カニのハサミ、コウモリの牙、クモの八本足がユカに振り下ろされた。



 ズガァァァン!


 

 突然、落雷のような轟音が鳴った。

 そして土埃。


 一瞬の衝撃に群衆は水を打ったかのように静まり返った。

 三人の異形も固まっていた。


 目の前、ユカを守るように、一本の槍があった。

 二メートルを超す長さの柄に幅広の片刃がついた薙刀(グレイブ)

 竿状の柄も、剣状の刃も、深海を思わせるほどの深く透き通る青一色。


 女王の顔に表情が戻る。

 目を見開き、興奮を抑える。


「この神器は……〈星の海(スター・オーシャン)〉。では、〈藍姫〉か!」


 興奮した女王の視界の隅で動きがあった。

 テラスの壁を乗り越え、眼下の広場へとまっすぐ身を投げた者がいた。


「転身!」


 何を言うべきか、自然と心でわかっていた。


 神器〈星の海(スター・オーシャン)〉と呼ばれたグレイブが手元へと飛んでくる。



 パシッ!



 サチは、それを掴むと落下しながら叫んだ。


「転身! 姫神!」


 サチの体が青い光に飲み込まれる。


「おお! おお! 藍姫! よもや最強の姫神がここに現れようとは!」


 身を乗り出し、妖精女王ティターニアはサチの姿を追う。

 そこに、見事転身し、ゆっくりと着地するサチの姿を認めた。


「藍姫! おお、最強の姫神! 〈九頭竜婦(クトゥルー・フラウ)〉よ」


2025年2月22日 挿絵を変更しました

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