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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
断章Ⅱ

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130/722

130 シオリ、嘘を嘘と見抜かれる

 シオリたちが〈水仙郷〉に身を寄せてからひと月以上が経過していた。

 そこに住む〈水精(ウンディーネ)〉たちからの歓待は実にありがたかった。


 本来警戒心の強い彼女らだが、ウシツノがかの水虎将軍クラン・ウェルの実子であると知れるや、シオリやアカメ、タイラン含め暖かく迎え入れてくれた。

 三十年前の亜人戦争時に〈水精(ウンディーネ)〉たちとの親交を深めた大クラン・ウェルのおかげで、四人はここで心身の疲れを解くことができたのだ。

 ここでの滞在は実に心安らぐものであった。

 特にシオリにとってはそれは顕著で、異世界での血生臭い日々を多少なりとも忘れさせてくれる日々であった。


 〈水精(ウンディーネ)〉は姿形は人間の若い女性に見えるのだが、その体は青く透き通り、まるで水で成したように見える。

 触れることはできるのだが、明らかに彼女たちは別の生態系に感じられた。


「当然です。私たち〈水精(ウンディーネ)〉はこの世界、いわゆる〈主物質界(マテリアル・プレーン)〉よりも〈精神世界(アストラル・プレーン)〉に存在する者ですから。そもそも私たちは、元をたどればこの世界を形作るうえで欠かせない四元素、すなわち地、水、火、風を統べる四大精霊として二つの世界の均衡を……」


 その辺りまででシオリは理解するのを放棄した。

 シオリにとってこの世界の住人はみな異質であり、この上さらに別の世界の話など混乱をきたすだけであった。

 ただ、アカメ曰く、それは実に面白い講義であったらしい。

 特に二つの世界の均衡を打ち破らんとする魔精霊の存在と、四大精霊の王たちによる禁呪、複合大精霊の成否が世界に与えた影響、その余波についてえらく感銘を受けたとかなんとか。

 シオリが理解を放棄したのは序盤も序盤であったと聞かされて、ゲンナリしたものだ。

 ちなみにシオリのすぐ後を追うようにウシツノも脱落したらしい。

 タイランは最後まで付き合ったそうだが、さすがに欠伸(あくび)を噛み殺していたと、アカメがそっと教えてくれた。


 深い森の中、周囲には小川が流れ、木漏れ日の中で大きな貝殻を模した家々が立ち並ぶ小さな郷。

 貝殻を組み合わせてできた壁や建物、その屋根から屋根へときれいな水が流れ回る。

 この郷はどこへ目を向けても清らかな水が静かに流れる様が目に入る。

 とても平和で落ち着いた郷であった。


 水仙郷でのひと時は四人に忘れていた安らぎを与えてくれたのだ。


 ただ一つ問題があった。食事である。



 ウシツノが目の前の海藻サラダをフォークでこねている。

 そうし始めてからもう何分もたつが、目の前のサラダはこれっぽっちも減っていない。

 横を見るとアカメもシオリも、そしてタイランまでも大差がない。

 サラダをフォークでつつきながらウシツノが嘆息する。


「〈水精(ウンディーネ)〉に直接食事をとる習慣はない。精霊だからな。だからこの食卓はオレたちに対する彼女たちの心配りであるんだ」

「よく心得ているではないですか、ウシツノ殿」

「その割にお行儀が悪くないですかぁ」


 アカメとシオリに指摘され、ウシツノはサラダを一気に平らげてみせる。

 バリバリシャクシャクとつまらなそうに嚥下すると、


「ふぅ、相変わらず味付けなどありはしないな」

「料理という概念がないですからね。これも海藻をそれっぽく並べてくれているだけですから」

「でもでも、体にはきっとイイんだよね?」

「毎日これでは心にイイとは言えんがな」


 珍しくタイランまでもが同調する。

 やはり食べ物は日々の活力源として最も重要な要素であるらしい。


「せめてドレッシングでもあればな~」

「あの、皆さん、あまりお食事が進まないようですが、何か至らない部分があったでしょうか」


 そばを通った〈水精(ウンディーネ)〉が声をかけてくる。


「んんん! な、なんでもないですよ! ありがとう」


 慌ててシオリが笑顔になって取り繕う。だが……


「駄目ですよ、シオリさん。私たち〈水精(ウンディーネ)〉は精神世界の住人なんです。嘘をついても感情の色ですぐにわかるんですよ」

「はぅ! そうなの? ごめんなさい」

「いいえ、謝らなければならないのは私たちの方です。食事というものを知らず、それでも皆さん今日まで気を使っていただいたのですね」

「気にしないでくれ。オレたちの勝手なわがままなんだ」


 そういってウシツノは、食べようとしないアカメからサラダをひっつかむと、またしても一気に頬張(ほおば)った。


「うふ」

「なんだ?」

「大クラン様も昔、ここで同じようなことをおっしゃいましたわ」

「親父が?」

「それで慌ててサラダを全部口に詰め込んだんですよ」


 水精の彼女が懐かしそうに笑う。


「でも、このままではいけませんね。そうだわ、キボシ様にお料理について教えていただこうかしら」

「キボシ様?」

「郷の裏手、海へつながる大きな断崖に住まわれる賢者様です。ただ、起きていらっしゃるかどうか」

「どういうことだ?」

「長く生きておられるキボシ様は一年の大半を寝て過ごしてらっしゃいますので」

「えー! その人いくつなの?」

「さあ? 下手したら一万年は生きてらっしゃるのではないかと」

「それは興味深いですね。その賢者様とはお会いしてみたいものです。が、わざわざその方に料理を教えてもらわずとも、ウシツノ殿がすればいいんですよ、料理」

「オレがか?」

「結構好きなんでしょう?」

「ま、まあな」

「それにそろそろ我々も海を渡る頃合いですしね」


 その後は取り留めのない会話で暇をつぶし、夜が更けてそれぞれの寝床へと入ったのだが。


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