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亜人世界をつくろう! ~三匹のカエルと姫神になった七人のオンナ~  作者: 光秋
第二章 魔都・動乱編

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118 侵略すること死の如く

登場人物紹介


大クラン・ウェル   カエル族の長老。水虎将軍の異名を持つ。

モロク王       トカゲ族の王。炎天将軍の異名を持つ。

ゲイリート      トカゲ族の武将。

インバブラ      カエル族一の嫌われ者。

 スラム街にある一つの廃屋、その中は今、異様な光景を生み出し続けていた。


 建物自体はとりたてて特筆すべき点は見当たらないが、元々はなにがしかの商業施設として使われていたらしいこの建物の間取りは広い。

 大勢が歩き回れるほどの広さを持つ空間は、太い柱が何本もたち、かび臭いシーツや生ゴミが散乱していた。

 もはや持ち主のわからないこの建物は、多くの不労住民の寝床となっていたらしい。

 住民も子供から老人、人間もいれば亜人もいたようだ。


 それらの者共の死体が隅にまとめられている。

 みな揃って刃物による致命傷を受け、絶命していた。

 彼らの命を奪った者たちがこの広間の中央にいる。


 身を固くし、黒い剣を握り、下をうつむいたまま微動だにしないレイの左右に、トルクアータとマラカイトが立っている。

 さらにその周囲に、住民の血と肉片を滴らせた剣を捧げ持つトカゲどもがいた。


 そして、レイの目の前の空間、そこに人一人が通り抜けることができるほどの、大きな穴が開いている。

 穴はこの暗闇の中でもはっきりとわかるほど、なお暗い。

 黒い大きな穴。

 その穴から今、続々と不気味な集団が這い出てきていた。


「しかし、驚いたな、マラカイトよ」

「ああ。これが魔女の言っていた〈ゲート〉というもののようだな、トルクアータよ」


 ゲートからは大勢のトカゲ兵が這い出てきていた。

 異様なのはみな生気がなく、身に着けた武具も、体も、すべて傷だらけ、あるいは腐りかけなのである。


「この者たちは、その、なんだ。不死者(アンデッド)というのであったか」

「そうだ、トルクアータ。この者たちはカザロ村で死んだ兵たちだ。トカゲ族だけではない、カエル族(あいつら)もだ」


 穴からはトカゲ族の死人(ゾンビー)に混じってカエル族の死人(ゾンビー)も現れ始めた。


「不死の軍団。これがこの黒姫の力か」


 トルクアータは眼前でうつむくレイを見下ろす。

 この(はかな)げな人間の娘にこんな恐ろしい力があるとは。

 やがてゾンビーどもはこの建物内には収まりきらなくなり、押し出されるように外へと出ていき始めた。


「こやつら、命令は聞くのか?」

「さあな。我らには無理だろう。魔女めはどこへ行ったのだ」


 最初に穴から出てきたのは魔女オーヤだった。

 レイと、トカゲ族が駐屯している西の大陸、カザロ村との間を行き来できるこの時空の穴を開き、自らが最初にやってきたのだ。


「知らぬ。出てくるなり我らに待機を命じ、自分はどこかへと行ってしまった」

「勝手なものよ。奴の目的は何なのだ」

「我らトカゲ族の栄光……などというわけはなかろうな」

「今はお互い利用し合うのみか。先に用済みになるのは果たしてどちらか……」


 そこまで言ったところでトルクアータとマラカイトは身を固くした。

 穴からついに二体の巨体が現れたのである。

 ひとつはトカゲ族の王、炎天将軍モロク。

 もうひとつはカエル族の長老、水虎将軍大クラン。

 両名ともすでに物言わぬゾンビーと化しているのだが、その迫力だけはいささかも衰えていない。

 トルクアータとマラカイトは思わず膝を折りかしこまってしまった。


「いい心がけだな、二人とも。対外的にはこの両名はいまだ健在、ということになっている。外ではそのようにかしこまった態度をとるようにな」


 モロク王と大クランの後に穴から這い出てきたゲイリートが声をかけてきた。


「ゲイリート。お前も来たのか。おお、それにボイドモリ」


 ゲイリートの後からボイドモリも顔を出す。

 これでトカゲ族の四幹部がそろったことになる。


「オレ様もいるんだがな」


 さらにカエル族のインバブラも現れ、これよりゾンビーではなく生きたトカゲ兵たちが続々と現れ始めた。


「貴様もいたのか」

「まあな」

「ゲイリート。よもやお前までやってくるとは思わなんだぞ」

「マラカイト。来たのはオレだけではない。全軍だ」

「全軍!?」

「そうだ。我らはこれよりこの西の大陸に陣を敷く」

「なんと」

「もう帰れねえぞ。魔女はカザロ側のゲートを閉じるように設定してきたらしいからな」

「ボイドモリ」


 外から人々の悲鳴が聞こえ始めた。

 寝静まった深夜、突然このスラム街に現れたゾンビーの群れに住人がパニックを起こし始めている。


「おい、いいのか」

「仕方あるまい。この数だ。町中にあふれ()でるのは当然であろう」

「まあ、それも計画のうちだ」

「そうなのか、ゲイリート?」

「うむ。まずはこの街を掌握する。ここをこの大陸での我らの橋頭保(きょうとうほ)とするためにな」


 やがてこの建物内にとても入りきれないほどの軍団が、徐々に外へと押し出され街を襲い始めた。

 ゾンビーとなったトカゲやカエルはもちろん、生きたトカゲ兵も外へ出て小隊単位で移動を開始する。

 生きたトカゲ兵の総数は一万。

 ゾンビーの数はゲイリートもすでに把握していなかった。


「しかもこの街で新たにできる死体もゾンビーとして活用する予定だからな」


 今やマラガの街は阿鼻叫喚の地獄絵図と果てていた。

 全軍が穴から這い出るのにおそらく二時間はかかるだろう。

 それまではこの穴の周囲を守る必要がある。


「ボイドモリ、トルクアータ、マラカイト。お前たちはそれぞれ自軍を指揮して街の支配に乗り出してくれ」

「ゲイリート、お前は?」

「オレとインバブラはここで黒姫とともに待機だ。ここはわが軍の中心だ。ここへ攻め込める兵などこの街にはいないだろう」

「わかった」

「この街を仕切るのは大商人たちだ。でかい屋敷を見つけたら片っ端からつぶしていけ」


 三人は顔を見合わすとそれぞれの隊を率いて出陣した。


「さあて、オレ様も少しのんびりさせてもらうとするかね」


 ただひとり、カエル族の代表としてこの不死の軍団に名を連ねるインバブラがその場に腰を下ろす。

 ゲイリートはあえて何も言わないでいる。不快なこのカエルを無視することはいつものことである。


「へっ」


 インバブラもそれを理解しているので何も言わない。

 ともかく世界を相手にゾンビーを使う非道な戦争はすでに始まってしまったのだ。

 インバブラにはもう帰る故郷も家族もいない。

 この立場を利用してのし上がる以外、美味しい思いをする手段が思いつかないのである。

 外から相変わらずの悲鳴や怒号が聞こえてくる。

 インバブラはそれを聞かないようにしていた。


 それはレイも同じであった。


 目覚めてからこの廃屋に連れてこられ、そして瞬く間にゾンビーの群れによる蹂躙が始まった。

 数ヵ月前までは考えたこともないようなことが、その身に降りかかっている。

 異世界と思しき場所に飛ばされて、ゾンビーを操るというおぞましい能力まで持たされて。

 レイはずっと目をつぶり震えていた。



 ドゴォオン!



 ひときわ大きな爆発音が聞こえた。

 これもゾンビーの襲撃によるものなのであろうか。

 答えは魔女が持って現れた。


「オーヤ。貴様どこへ行っていた」

「イイ男のところ」


 ゲイリートの詰問にオーヤはあっけらかんと答える。


「ふざけているのか?」

「ええ、そうよ。そこで面白い情報を得たわ。今の爆発音、聞こえた?」

「ああ……」

「フフ。あれ、紅姫よ。今この街にいるみたい」

「紅姫! 姫神のことか!」


 レイもハッとして顔を上げる。


「どうやら盗賊ギルドとひと悶着あったみたいなのよね。ちょうど今夜お互いやり合ってる最中らしいわ」

「待て。紅姫というのは、もしや我らの駐屯地を襲った……あの火竜か」

「そうなのよ。それでせっかくだからね、我らの黒姫様に紹介してあげようと思って」

「え?」


 レイがキョトンとした隙にオーヤの長い金髪が伸び、レイに絡ませ自らの胸元に引き寄せてしまった。


「ま、待て。ここで姫神同士をかち合わせてなんになる!? 万が一何かあっては」

「何言ってるの。姫神は七人もいるのよ。早いとこ面通ししておかないとね」

「しかし」

「大丈夫よ。黒姫はね、七人の姫神の中でも最強なのよ。唯一生き残った元黒姫の私が言うんだから、間違いないわ」

「お、おい!」


 ゲイリートとインバブラ、そして控えているトカゲ兵どもが唖然としているうちに、オーヤはレイを抱きかかえたまま爆発音のした現場へと飛び去ってしまった。



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