11.追いかけるように〜Incalzante〜
頑張れ完ちゃん!
「完ちゃん、ごちそうさま。生き返ったよ。響ちゃんもありがとな。まずは、1度帰ってシャワーを浴びたら、また仕事に戻るよ。」
そう言って蓮は帰っていった。
ダイニングに残された響は、バナナジュースのグラスと、蓮の使ったコーヒーカップを弄りながら何やら考え込んでいる。
「…ねぇ、完ちゃん。」
「ん〜?」
呼びかけられた完太が、料理中の鍋から顔をあげると、カウンター越しに響がのぞき込んでいる。
「完ちゃんにお願いがあるんだ。」
お願い?!完太のふっくらしたお腹の中が、不安でキュウキュウと嫌な音を立て始める。まさか…低周波を発生させる装置を…つ、つつ、作りたい?作りたいとかっ?その実験したいとか?それだけはダメ!絶対ダメ!蓮さん、助けて!心の中で絶叫していると、響が呆れた顔をする。
「考えが全部顔に出てるんだよ。しないからね?さすがに私でもそんな事するわけないってば。落ち着いてよ。別の話。完ちゃんには、我らが母校の全職員で、なんでも良い、グランデ・カンパニーアとかリアホールとかと関係がありそうな人がいるかどうか調べて欲しいんだ。だって、母校の事務員になって長いから。まあ、無理なら澤田にやらせても良い。完ちゃんは、やれるだけで良いんだ。」
完太はホッとし過ぎて、ほとんど内容が耳に入ってきていなかった。後でもう一度、内容を確認しなくてはいけない。でも、ただ一つだけ言える事があった。低周波の話じゃなくて良かった。だから良い、なんでも良い。僕はやるよ。ふっくらしたお腹は、平穏を取り戻した。鍋は…やや焦げてしまったが。
1週間後、その日は突然やってきた。
夕方、土蔵練習室で練習をしていると、けたたましく玄関のインターホンを鳴らす音が響いた。室内機のモニターを覗くと澤田だ。澤田よ、やっとインターホンの存在に気がついたのか。偉いぞ。だが出たくない。しかし、完太はまだ仕事から戻ってきていない。ため息をつきながら玄関へと向かう。途中のリビングでは、ビビが鼻に皺を寄せて唸っている。響が通りすがりに頭を撫でると、鼻の皺は消えたが唸るのはやめない。また澤田にビビの聖域に座ってもらおう。そんな事を考えながら、玄関の引き戸を開けると、前回とは打って変わって清潔感溢れる澤田が立っていた。
響は舌打ちした。
澤田をビビの聖域に案内してやる。唸り声をあげるビビに、相変わらずビクついている。つまらん。本当につまらん。澤田よ、新しいリアクションはないのか?
「響さん、和臣さんから預かったんすよ、コレ。中身は『澤田ちゃんは見たらダメよ』って言われたから、僕は見てないっすよ。」
澤田はビビにビクついているくせに、和臣のものまねを微妙に挟んでくる。絶妙にイラつくが、某猫のキャラクターが描かれた淡いピンク色の封筒を受け取った。写真と手紙が入っていた。その写真を見て目を見開いた。『土橋みみ』だ!2年前に一緒に写真を撮った、あの時の顔だ。コンビニで買い物をしている。そのすぐ隣にスーツを着た男が背中を向けた状態で一緒に写っている。写真の中の土橋みみは、その後ろ姿のスーツの男と親しげな雰囲気に見える。響が同じキャラクターの便箋をカサリと開くと、そこには、ほっそりと美しい文字で3行だけ。
『小鳥遊 みお…フロアキャスト
これを受け取ったら電話寄越しなさい。
話があるわ。』
と書いてあった。
皆様ごきげんよう。ビビですわ。ご主人様が私の召使い(下僕)のせいで鍋を焦がしてしまったようですわね。そのせいで、私との触れ合いの時間が減ってしまったんですのよ?そう、鍋の焦げのせいで…。フフッ…召使い(下僕)…毛布の怨みと一緒に、ご主人様と鍋の怨みも晴らしますわよ!




