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街角異変調査屋 ―2号店―  作者: 竹の花
1.始まりは水を汲むことから。
7/7

報告書2.筆老人

夢をみたんだ…。

崖に落とされてさ…。

下に着いたら、また崖が目の前にあるんだ。

ここは…?

暗く、そして自分の周りに星がまたたいている…。

いつぶりだろう、こんな空を見たのは…。

「きたかいな。おばあさんも、すごいな。あの歳でまだ人を引きつけるとは。」

奥からか…?誰だろうか。

「こんにちは、少年。あるいは、青年かな。」

見ると、奥にあるキャンパスの前に、一人の男性が座っている。

「あの、あなたは?」

「筆を洗わないとな。久しぶりに。」

「あの…、」

ゴッー

「いった…!」

「あいさつ。」

「こ、こんにちは…。」

「よろしい。」

脇腹に、い、石がぶつかったのか、?痛い…。

あの人が投げたのか?でも、そんな事できそうな

体勢じゃない…。

「君、名前は?」

「す、鈴木優人…。」

「そうか。」

まるで感情がないような、そんな声色が辺りに響く。

「儂は筆老人。」

本名なのか?芸名な気がするけど…?

「本名、何ですか?」

「違う。この空間に入ったときに天から名付けられた。儂は『筆老人』なんだと。」

相変わらずキャンパスを見つめながら、老人、は続けた。

「この空間は儂に何かを描かせたいらしい。キャンバス、筆、絵の具、そしておばあさんから定期的に送り込まれる人。」

老人は立ち上がってこっちを向いた。

「儂は夢をみた。おばあさんとまた会う夢だ。

白い浴衣がよく似合う人だった。」

老人は、青年だった。

「無我夢中で描き続け、儂は現実と夢の区別をつけることを諦めた。」

光のない目で俺を見つめたまま動かない。

「お前は運がいいな。儂はお前がどこのものか知っている。『異変調査屋』だろう。」

「…!何で…?」

「昔、お前と同じ服を着るものがそういったからだ。彼はなかなかいい夢になった。ここから出られることはきっと叶わなかったが。」

いい…夢?

「おそらく、儂はお前らの求める『異変』だ。まぁ、おばあさんのおかげじゃろうな。」

(何だ、この気配は。わからん、こいつは…。)

「君は儂にどんな夢を見せてくれる?ここから出られるという希望か?それともただの絶望か。」

「そんなの…。」

「みせてくれ。」

ブイン、と音がしたかと思うと、目の前に岩が落ちてきた。さっき当たった石だ。

(ただの異変じゃない。)

落ちた岩が細かい破片となって、目の前に飛んでくる。

(ブーメランがあるだろ、それでガードするんだ!)

リュック、くそ、間に合わない!

ビリッ!

あぁ、リュックがボロボロに!!

「おお、うまく避けたか。」

「よくもリュックを…!」

いい値段したのに!!

「君はちゃんと戦えるのか。…ふむ。」

ゴォッと音がしたかと思うと、火の玉が目の前に迫ってきていた。

「避けなきゃ…!」

(まちな。)

ん?

(ブーメランに細工をした。火の玉に向かって投げてみてくれ。)

いやいや、そんなことできるか!ブーメランも高いんだぞ!買ってもらったやつだし…

「てっ、やばいやばい!」

ひとまずダッシュで避ける。…よかった、追尾機能とかはないみたいだ。

「久しぶりだよ。君みたいな子は。」

「それはよかったですね…!」

「本気で戦いに来てほしい。君がいればいい夢を見れそうだ。」

(ブーメラン。投げてみな。)

こうなった以上仕方ない。

「おりゃっ!」

ビュン!

「避ける必要性もなさそうじゃ。」

ブーメランのに向かって、筆老人は筆を構えた。

ヒュッ!

「む!」

バキンッ!くそ、間一髪で止められた。

「危ない危ない。随分と妙な技を使いおる。」

何が起きたか簡単に言うと、ブーメランが筆を透けて通ったのだ。

(あいつの前で透けが解除されるようになってるよ。便利でいいでしょ。)

止められたブーメランはというと、戻ってくるようにイメージしながら投げてるから、とりあえず返ってくる。

パシッ!

「よし、ちゃんとキャッチ出来たぞ!」

「ふむ、面白いではないか。久しぶりに面白い夢が見れる。」

ピカッ!!

「っ…!目が…。」

なんだ今の!目が痛い…!

(まずいな。上に向かってブーメランを投げて。)

仕方ない、わかった。

ブン!…ガキン

(うん、やっぱり。後ろに向かってダッシュ。)

後ろ、…よし。急げ!

「ふむ。わかるのか?それともただの勘か。どちらにしろ、面白い。」

ちらっと後ろを見ると、さっき自分がいたところにまたしても巨大な岩が落ちてきていた。

ヒューー

(今度こそちゃんと破片をガードしな。ブーメランで。)

もはや爆弾じゃん!と思いつつ、ちょっと距離をとったので楽にガード出来た。

そろそろ反撃するとしたら、えい!

「む、おかしな軌道をしとる。」

ひょうたんを思い浮かべ、足元を狙って投げてみた。

ビュン!

(うさぎもびっくりのジャンプ力だな。)

あぁ、避けられたか。

なら、今度はヘビみたいに、

「思案もよいが、視覚も大切にしなさい。」

くそ、今度は黒い石が

「何より、死への覚悟が一番じゃが。」

あっ、

「ぶらっくほーる、というらしい。天に教えてもらった術じゃ。」

(マジすか。)

やばい、死ぬ、死…。

(幻死。)

刹那。身体から重力が消えた。見ると、全身が半透明になっている。持ち物も全て落ちたが。

(君には死んでもらえないからね。術には術を。)

衣服が落ちないのはよく分からない仕組みだ。

そして、筆老人は…背を向けて、キャンバスに向かっている。

今だ!

同じように半透明になったブーメランを持ち、想像して思いっきり投げた。


そのときのまるで殺人鬼のような想像を、

僕は一生忘れないだろう。


筆老人は両腕、両足、背中に切傷を一つずつ浮かべ、その場に倒れていた。

「ふ、ふふ、一つやられたか。」

自分がしたことながら、なぜこんなにひどい傷なのか驚いてしまった。

「あの、もう終わりにしませんか?これ以上は、無駄な傷を増やすだけです…。」

「そうか。そのとおりだ。こんな事意味がない。」

筆老人は満面の笑みで倒れていた。

「それでも、今日が人生で2番目に楽しい日だった。」

筆老人はゆっくり立ち上がると、こっちを向いた。

満面の笑みで、泣きながら。

「ありがとう、青年。」

涙が落ちる。一つ、二つ。

すると、突然目の前が虹色に光り始めた。

「これは…!」

筆老人は顔を拭い、目をこすった。

「儂も見たことがないが、これはきっと、帰る、元の世界に帰る扉じゃ。」

「なら…!」

筆老人はおもむろに筆をさしだすと、

「君には筆を託そう。持っていってくれ。」

「え…、」

持っていってくれ?

筆老人も帰りたいんじゃなかった?

「一緒に帰りましょうよ、元の世界に。」

「…いや、それはできない。」

筆老人は力なく首を振った。

「扉というのは一人用じゃ。一人ずつ入って、入ったら閉じる。だからきっと、君が入ったら閉じてしまう。」

「でも…。」

「入ってくれ。安心しろ。儂は楽しかった。それだけで十分じゃ。」

「…わかりました。」

何も描かれていないキャンバスに、星が光っている。

「それじゃあ、行きます。」

「さようなら、青年。…いや、鈴木君。」

それを聞いて思い出した。まだ名前を聞いていない。

「あの、あなたの本当の名前は?」

「儂か。儂は…、」

ブオン!

「うわっ!」

気づいた時には、目の前が虹色に染まっていた。

「鈴木君!君の筆に、儂の名前が刻んであるはずじゃ!」

遠くから声が聞こえる。

「君の旅路は、儂が保証する!頑張れ!」

目の前に星が光っている。大きな、大きな四角形。

ペガスス座が…

青年が一人、去っていった。

ここにはキャンバス以外何ものこっていない。

実を言うと、今までも扉は開いていた。

元の世界には繋がっていない、紛い物の扉が。

キャンバスの方へ振り返った。

これから、何をしようか。

「あなた。」

これは、この声は。

「そろそろ、いきましょう?」

「幸枝!」

はっとふりかえった。今目の前に、記憶通りの、美しい白い着物姿で佇んでいる。

「どうしてここに…。」

「さっき、青年が来たでしょう。その子の気持ちに共鳴して、扉が開いたのよ。」

鈴木優人。あの青年が。

「そうか…。」

「100年ぶりかしら。それとも、それ以上?」

「すまない、待たせてしまって。」

幸枝はふふ、と小さく笑って言った。

「あなたはいつもそうでしたね。懐かしい。」

改めて言われると恥ずかしい。

「記憶通りの黒い浴衣。似合ってますよ。」

「浴衣?」

見ると、自分の服が変わっていることに気づいた。

「そうか…、」

何もかも、忘れてしますかもしれない。

それほどの安心感が全身を包み始めた。

「あ、流れ星じゃないの。」

「本当か?」

上を見上げると、満面の星が降ってきている。

「綺麗ね…。あの日みたいに…。」

「あぁ…。」

目の前が少しづつ虹色に光りはじめたのは気づいていた。

きっと帰る。元の世界に。安心感が全身を包んだ。

木に抱かれているかのような、安心感が…。

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