6月16日 アレクと。
白雨と浮島でただ少しだけ眠った後、イスタンブールへ用事が有ると言われ、何となく付いて行く事にした。
日光浴をしつつ植物を育てていると、スーちゃんとマキちゃんが子供の団体さんを引き連れてやって来た、文化紹介中だから内緒で案内に加わってほしいと。
白雨にもお願いされたので、白い服とベールの上には草の冠を着け、集会所へ。
発酵させた林檎のお酒、焼き菓子にお餅みたいなお菓子を食べていると、マキちゃんやスーちゃんが入って来て子供達へ紹介し始めた。
昔はこうだったらしい、と。
そうしているウチに、どう見てもアレクの背格好をした真っ黒い長いベールの人間が入って来た。
何か言おうにも、この格好の人はベールが取られるまで喋ってはいけない、と。
そして今度はアレクに飲んでいたお椀を奪われ、シードルを汲まされた。
アレクがそれを飲み干すと、今度はお婆さんに草冠を奪われ、アレクへと渡された。
何故か拍手が起こり、黒いベールから再び手が出て来た。
差し出された手に手を乗せると優しく握られ、集会所から出ると子供達に見送られ、橋を渡りアレクの家へ。
2人だけになると、黒いベールを取る様にと指を刺された。
中身は案の定アレクで、コチラのベールをゆっくりと取った。
サクラや皆を疑ってるワケでも、信じて無いワケでもなくて。
自分に自信が無かった、だって元魔王だから。
何かをして拒絶されたら死んだ方がマシだって思っていたから、顔に触れるまで、両手で頬に触れるまで、ずっと怖かった。
逃げないで居てくれて、手に手を重ねてくれて、どうしたんだって聞いてくれた。
好きだと言っても、キスをしても逃げないで、拒絶しないでくれた。
俺は元魔王だから、蛙を踏み潰す様な悪者だったから、綺麗な蛙にはなれないから。
もしサクラに蛙になられたら、死ぬしか無いって、ずっと怖かった。
先生や誰かに蛙化現象は収まったと言われても、告白すれば良い、話し合えば良いと言われても怖かった。
好きだから、拒絶が怖かった。
サクラは、ただ、そうかと言って抱き締めてくれた。
元魔王なんかの俺にはもう、それで充分で、もうそれで満たされたと思ったのに。
全然、涙が止まらなかった。
嘗て泣きたくても泣けなかった魔王の分離体、アレクがボロクソに泣いて、涙が止まらないと言っている。
凄い悩んだのも分かる、拒絶が怖いのも良く分かる。
なのに、可愛いなと思ってしまう。
可哀想では無くて、可愛い。
本当に人間なんだと、やっと思えた気がする。
「怖かった」
「分かる」
「好きだから」
「うん」
「離れてるより、辛かった」
「うん」
「今は好きじゃ無くても良いから、いつか好きになって欲しい」
「好きだが」
「どこが?」
「顔」
「他は?」
「声」
「元魔王の以外で」
「泣き虫なところ」
「もっと、言って欲しい」
「そうやって可愛いとこ」
「他は?」
「良く悩んだところ」
「もう無い?」
「最近の君を知らないもの」
「色々、ちゃんと勉強した」
「笑顔も可愛い」
「手にキスして良い?」
「ダメって言ったら泣く?」
「泣いて欲しい?」
「かも、泣いてみて」
「うん」
「従順で可愛い」
「ドS」
「そうハッキリ言うのも良い」
「俺のは聞いてくれ無いの?」
「泣き顔が可愛い」
「手に、キスしたい」
「どうぞ」
「小さくて可愛い、もっとぷにぷにで可愛かった」
「記憶混ざっとるやん」
「うん、魔王の分まで好き、愛してる」
嫌われない様に、傷付け無い様に、痛くない様に。
魔王の分と、それ以上に優しく。
大事に、大切に。
「さっきまで泣いてたのに」
「今でも泣けるよ、嬉し泣き」
「器用」
「知ってる」
「エロい」
「ダメ?」
「程度による」
「ダメ、全部受け入れて」
「我儘」
「うん、自分でもそう思う。好き、好きって言って」
ふと嵌められたんだよな、と思い出した。
別に良いんだが、どんな顔をして表に出ろと?
「アレク、どんな顔をして表に出ろと言うのかね」
「笑えばぃ痛いって」
「マジで泣かすぞ」
「賢者タイム?」
「おう。スーちゃんやマキちゃんに、白雨もか」
「もう居ない筈、泉かドアで帰ってる筈だけど」
「あぁ、そうか。ケバブをアホみたいに食いたい」
「食べさせてあげようか」
「飲食はプレイに持ち込まないスタイル。もうココで食うわ」
「俺のも頂戴」
食べて寝て、起きて。
アレって結婚式だったのかな。
サクラ、マジで賢者タイム。
「さぁ、いつ、どう帰るか」
「なんか感想言ってよ」
「優しかった」
「俺は優しいよ?」
「知ってる」
知ってるって。
俺を優しいって知ってる人、元魔王だって知ってるのに、優しいって知ってくれてる。
俺が好きで、俺を好きな人。
「すき」
「言うて照れるの」
「うん、好きって言って」
「好き」
結局、帰りは夕飯前。
寝たり起きたりで時間はぐちゃぐちゃだけど、体には何も影響無いのよな。
「お帰りなさい」
「ただいま。お夕飯は豪華?」
「もー、普通です」
「はいはい」
フィッシュ&チップスにコテージパイ。
今日からロイヤルアスコットと言うイギリスのイベントが有るそうで、それに合わせたらしい。
「ですので、これからご公務です。眠く無いですか?」
「残念ながら眠く無い」
そしてイギリスへ。
大使館でご用意されていたのは、淡いピンクベージュのシースルーとレースのドレス、同系色のバッグや帽子。
ロキの靴を同じ配色で出して貰い、ヘアメイク。
エスコート役は、正装した大人エミール。
『ご案内しますね』
「ちょ、学校は」
『直ぐに帰りますから大丈夫ですよ』
そうして車に乗ると、運転席にはフィラスト、正装したショナは助手席へ。
後部座席の横にはエミール、イチャイチャしてくるけど前方の2人はガン無視。
「あのですね」
『似合ってますよ、可愛いですね』
何か言おうものなら超至近距離で詰めてくるので、黙った。
そして車が止まりドアが開くと、フラッシュと共に正装したカールラとクーロン、それとパトリックが。
エミールに手を引かれ、会場へ。
競馬場やん、流石にダメだろう。
「アカンやん」
『コレが済んだら帰りますから、大丈夫ですよ』
記念撮影をする場所へと向かわれ、イチャイチャと撮影され、解放された。
エミールからクーロンへと手渡され、エミールはパトリックと共に帰って行った。
『では、行きますよ』
「おう」
特別観覧席へ。
既に女王様達が歓談していた。
ヤバい、失神したい。
アレクには一応今日は予定が有るとだけは伝えていたけれど、全く伝える事も無く、こうなったらしい。
公務開始予定時間までには帰って来て、そのまま。
運命はそう信じていないけれど、この流れを知ってしまうと、運命は存在するんじゃ無いかと思う。
【ショナ、マジで賭けて良いの?】
「上限は設定して有りますので、その範囲でなら」
【敢えて散財はダメか】
「ご公務ですので真面目に、真剣に楽しんで頂ければと」
【難しい事を言う】
そうは言ってもクーロンのお陰なのか、誰かれなしに競馬のノウハウを教えて貰い、購入へ。
だが意外にもそう当たる事も無く、何レースか負け続けた。
そう負ける度に様々な人へ相談を始め、打ち解けていき、何レースかを当て授与式へ。
過度の緊張により、被害者は0。
そうして大使館へ帰り、浮島へ。
楽しかったが、まだ数日有るらしい。
何と5日間。
「時間帯は合わせてますのでご安心を」
「逆に余計に人見知りが発動するわ」
「ですよね」
切り替えの為にも温泉へ。
明日から排卵予定日内、ココで妊娠したくは無いので、今日から暫くはまた何も無し。
このまま小屋で就寝。




