4月23日 205人の慰霊碑と、警護。
朝の7時、向こうはまだ夜中の1時。
桜木さんは寝る前に箱庭を作ったらしく、新しい作品が出来上がっていた。
どの思い出にも無い、入り組んだ地下鉄の作品。
説明文には良く見る場所、とだけ。
先生に連絡したが、問題は無いとの事。
寧ろ、実生活に問題は無いかと逆に質問されてしまった。
もうハッキリと、桜木さんの情報を得て仕事がしたいと伝えると、アレクとの買い出しの仕事を任せて貰える事になった。
寝起きにどうしても心配になり、蜜仍君の事を先生に聞くと、順調に学校生活を送っているとの事。
賢人君が居るから安心だが、ショナは仕事に戻ってしまったと。
最低限7日は開く長期休暇だと伝わってる筈なのに、仕事人間。
そしてミーシャとスーちゃん達も、加治田家にすっかり馴染んでるらしく、アレクや白雨達も問題無いとの事。
《自分が居ない方が、とか言わないで下さいね。君の事を皆さんが聞きたがってるんですから》
「SNSでも活用するかい」
《言い出して頂いて助かります、紫苑さんでお願い致しますね》
「あぁ、すまん、言ってくれたら良かったのに」
《お邪魔してはと。それで、贖罪はどうなりましたか》
「正直、自分の事ばかりで前に進めて無いです。記念碑や追悼場所を構想するだけで、どうしたらとか、どうしたら良いのかは分からない」
《私の案を、聞いてくれますかね》
「ほう」
年1回、その場を訪れる時だけ思い出す。
若しくは、どうしたら良いか分からなくなった時、物では無く場所で後悔や贖罪をし、そこでだけにする。
場所は移民達の浮島、そこへ石碑や何かを建ててお参りをしたら良いと。
移民達も自分達だけの場所では無いと思えばこそ、より大事にするのではとも。
先生の案に甘え、早速紫苑として浮島へ。
アレクの居ないタイミングで、ハナが来た、シオンとして。
そして第2世界用の場所を増設し、スズランと無毒化されたエンジェルトランペット、そして白い彼岸花を植えた。
『白は、中つ国では葬式の色らしい』
「それな、コッチは、ココは何色なん」
『ココも、白』
「じゃあ、何となくは分かってくれるかね」
『あぁ、だが聞かれたら、どう説明したら良い』
「ただ、205人の慰霊碑、で良いべ」
『分かった』
「ありがとう、すまんね」
『いや』
「あぁ、穢れてるとかは君に思って無いからね?だから拒絶したんじゃ無いのよ」
『じゃあ、どう思ってるんだろうか』
「話し合う?」
『そうしたい』
俺とアレクの家で話し合う事になった。
神々や精霊が建ててくれた、第2地球様式の家。
「質素、がらんどう」
『俺らは、特に興味が無いから』
「それが先ず問題なのよなぁ、記憶、消しちゃうか?」
『どうしてそうなる』
「屋根が有れば良いって、虚栄心も君もハードルが低い。ならワシも、多くを求められないんじゃが」
『シオンは、何も悪く無い』
「灯台でハーレム築かないと被害者増えるのにまだゴネてるし、あの場に居たのに大して救えなかったし、他の世界に子供が居るかもだし。全体的にどっこいだと思う、何なら君は体質の被害者、生み出されただけの被害者。望んで悲嘆になったんじゃ無いでしょうよ」
『それでも、シオンを見てると、もっと何か出来たんじゃ無いかと思う。魔王も、そう言ってたみたいに』
「イカンな、マイナスとマイナスの相乗効果やん。お互いにマイナス思考なら、マジで一緒に居られないが」
『すまない』
「魔王は、あの女性をどんなんであれ好きだったと思うのよ、そしてソレはセバスへ。君らには、そんな人は居なかったの?」
『閉経してるのなら、優しい老人達は居た』
「笑い事じゃ無いんだけど、そうか、ごめん、ふふ」
『それでも、長くは居られなかったから。だから、執着を止めた』
「そして悲嘆が加速、成程。先生や従者が、程良く執着をして欲しいって言うのは分かった」
『でも、しろと言われて出来る事じゃ無い』
「ワシと思え、は、実行してるかね」
『してる』
「そうか。あぁ、ちょっと先生と相談してくるわ」
0のネットで知った話の原典は存在していたらしく、コチラでは天の根と呼ばれていた。
二十六人の男と一人の少女の話、コチラで実際に思考実験もしたらしい。
【理想化を危惧してるんでしょうか】
「まぁ、せやね」
【更にその両方を合わせた、正反対の性質かと。実際に存在し、共有化しようとしているので】
「良いのかね」
【良い方向へ舵を切れば良いだけかと】
「ズルいやん、ソレ」
【そうすべき、なるべきだと君が信じてくれれば】
「魔法でどうにかなって欲しく無いんだが」
【君はプラセボ本体、後は周りがどうしたいか】
「商売すらアカンのに」
【見積もり、良いと思いますよ】
「失敗する前提で、食器や家具は買い取る気で選んだから」
【そう出来るんですから、出来る人間が力を揮うのはノブリス・オブリージュでは?】
「すまん、依存ですな」
【でしたらハーレムでの安定を前向きにご検討下さい】
「はい、善処します」
普通に戻って来たハナと、前に読んだ事の有る本の話になった。
アルルの女、天の根、二十六人の男と一人の少女。
『偶像崇拝、理想化の心配か』
「せやね、白雨は知ってた?」
『心理学は敢えて避けていたんだが、マイケルに少し教わった。ハナのは防衛機制』
「何で避けてたん」
『ハナと同じ、コレ以上力を付けない為に。悪用を心配する人間を安心させる為に、読めない様にして貰っていた』
「先輩なんよな、どう思います」
『一緒に居て不安にならないのはちょっと可笑しい』
「ふふ、凄い言い草やんけ」
『ココまで全て、俺の計算通りだったとしたら』
「気になるわ、答えが知りたい」
『召喚者の掌握』
「ならハーレム反対派やろ」
『アレクもコチラ側』
「掌握して何がしたいねんな」
『それは、愛して欲しい』
「今の挙動も全てが計算通りなら、騙されてもワシは悪く無いじゃろう。そんな躊躇う素振りが出来たなら、好意をあのタイミングで出さない方が掌握し易かったべや」
『人体の構成に引っ張られただけで、悪巧みをしてるかも知れない』
「だからどんな」
『召喚者を傷付ける為に、絆す為に』
「ならもうしてみろ、傷付いてやるから」
『便利に、使う為に』
「【赦す】久しぶりの自傷行為はどうでしたか」
『何も、良くない』
「君まで泣いてくれるなよ」
『ハナには、泣かせる呪いが、掛かってるんだと思う』
「何の意味が有るねんな。いや、呪いに全部意味が有るとは限らんか」
『頭は良いと思う、知識を活用出来てる』
「素直じゃ無いのも呪いのせいにして良いと思うか?」
『良くないと思う』
「ですよねぇー」
『言って良いのか、ずっと悩んでた事が有る』
「不穏、どうぞ」
『ハナは、自分じゃ無くても良かっただろうと思ってる』
「おう、どの件でもな」
『でも、突き詰めると、それは悪魔の証明になる』
「気付かせやがって」
『ほら、頭が良い。ハナに似た人間が居ない事の証明は、凄く難しい』
「否定する側に証明責任は無い筈じゃが」
『ココでは、一定の環境下や範囲なら、証明責任が発生する様になった』
「白いカラス居るし」
『もう1羽を探すのに、掛かる時間と労力と費用。費用対効果、メリットとデメリット』
「詰められるのは好きじゃ無いんじゃが?」
『嘘、困りたく無いだけ。理屈は好きな筈』
「映画館を開放した弊害がジワジワと」
『筋が通ってれば納得してくれる』
「思考停止して拒絶する人間の気持ちが分かったかも」
『一説には、頭の良い人間は客観性を持ち、自身の判断の是非を問う思考をするらしい』
「いよいよ君にも会わない理由が出来てきたかも知れない」
『前の顔に戻そうか』
「ココでは不味いだろうよ」
『実験は好きだと思っていたが』
「はぁ、そう苦痛を受けるべきかは、それこそ民意だけど。多分、君にコントロールされる人間を増やすワケにいかないから、否決だろう」
《じゃの!賢い子じゃのぅ》
「我慢出来無くなったか」
《だって堅い話ばかりなんじゃもん》
「あ」
《なんじゃ?》
『あぁ、それはちょっと、怒られると思う』
「ですよね」
《なんじゃ?》
『いや、コレはちょっと、言えない内容だ』
《あぁ、なんと、なんてヤツじゃ》
「いや、他意は無いんだマジで」
『それはそう、本当に思い付きなだけで』
拝啓。
自分は今、泉から出て来たマーリンに説教をされています。
白雨に思考を読まれたのがクエビコさんに伝わり、それをドリアードがマーリンにと。
「アレ?ドリアードのせいじゃね?」
『お前、それはそれ、コレはコレだ』
『ハナは俺への罰を考えてただけで、アナタに何かさせる気は』
『だとしてもだ、そうした自傷行為的思考が良くないだろう』
「そう言われましても」
『半分は腐ってるから、仕方無い面も』
『どうだか、腐っているだけでその思考になるかどうかだ』
「悪魔の証明」
『すまない、さっきまでその話をしていたので』
『白雨、それでお前はどうする気だ』
『償いとしての行為を求められるならする』
「わしゃ鬼か」
『いや、民意に任せたい』
『ハナが傷付いてもか』
『ハナも償いを探してる』
「あぁ、一石二鳥やんな」
『こうシンクロしてくれるな、他のがどう思うか考えろ』
『勝手に考えろ』
「出来る事をしろ」
『全力で後退するか』
「せやで」
『おう』
『議題に色々と出続けてるんだ、少しは』
「もう、いっぺんに出したらええやん」
『承った』
《じゃの!》
『天使が、変化していたのか』
『はい、ジブリールです、どうも』
「絶句」
『言わせる為に、誘導したのか』
『いいえ、真意を引き出したまでですよ』
「引き籠もりたい」
『あぁ、俺も』
『ダメですよ、もし可決されたなら、色欲の店でお仕事ですからね。2つのお顔で致して頂きます』
『この顔は、ハナだけに』
「だからじゃろ、ワシだけだから。あぁ、だからワシ、1人だけは推奨されないのね」
『はい、争いの種になりかねませんからね』
『力や権力の偏り、成せた事、コレから成す事がある』
《ましてや支柱は複数で無ければ、直ぐに崩れるじゃろう》
『それはそう、それも賛成する』
「も」
『ハーレムも。俺は、独占する事への罪悪感や負の感情が出る』
《そうじゃな、そしてそれを解消する為に、形振り構わなくなるかも知れん》
『お前の居た世界の大奥や後宮で、実際に起こったのだろう』
『何某かの独占、その為に争いが起きたそうで』
「その、居た世界から覆すとかはダメ?」
『駄目にきまっているだろう』
《悪足掻きの仕方がロキなんじゃよなぁ》
『それは確かにそう思う』
『あまり噂をしては、ココへ来られてしまいますよ』
「それはイカンな」
『まぁ、お前はまだ引き籠もるのだろう』
《そう、鬼の居ぬ間にじゃな》
『ふふふ、お邪魔しました』
『いつも、第3では、こうだったんだろう』
「ココまでじゃねぇよぉ」
『嫌なら、ちゃんと言って欲しい』
「前の顔も好き」
『それは普通に嬉しい』
「チッ、もう帰る」
『あぁ、また』
「おう」
神々の采配なのか、純粋に運なのか。
ハナが帰って暫くしてから、アレクが帰って来た。
『ハナが来た』
「なんで?」
『長い話になる』
ウッカリ絆されかけたので、抑制魔法を掛け、じっくり考えてみた。
多分、ワシが死にかけたりとかを知ってるから、それで勘違いしちゃったんだろうな。
『不時着しますねぇ』
「いや、民の視点をと考えたら、撃たれるなんて衝撃的過ぎて、下手したら同情とか、可哀想とかが、こう」
『今度は映画館への罪悪感ですか、良く見付ける人ですね』
「それもだけど、もし0でのニュースでワシの事が流れてたら、偉い人が狙撃されたなんて知ったら、国の色々を不安に思ったり、色々、思うだろうって」
『大丈夫ですよ、どうせ殆どの法案は否決されますから。今回のは国連への揺さぶりです』
「信じたいから信じるよ?」
『害されて初めて、何でもそうですよ、実感して初めて動く情動も有るんです。それに、まだまだ机上の空論ですから、ご安心を』
「不安」
『では、国連への査察を申請して貰いましょうかね』
『あぁ、承った』
「クエビコさん」
アレクとの買い物を終え省庁に戻ると、演習の知らせが届いた。
国連への視察と、対テロリスト用の演習をいっぺんにやる、と。
桜木さんが。
「あの、柏木さん、予定日が」
「あぁ、もう行われてるそうですよ」
「そん」
「大丈夫です、桜木様は参加されずに見学ですから」
「あぁ、なら良いんですが」
「まだ、心配ですか」
「誰かを傷付けて、傷付くのが心配なんです」
「あぁ、ふふ、大丈夫ですよ。今回は皆さんに安心して頂く為の演習だそうですから」
「なら、良いんですが」
演習があまりにも本格的過ぎて、一瞬本場かと疑ったが。
人工血液を使っての模擬戦だった。
偉い人とか軍人さんや護衛の人間は血液の保存が義務になり、人間だけでも狙撃や魔法からもしっかり守られる様になった、らしい。
会えないままの転生者が、0で偉い人が狙撃されて亡くなったからと、ワシの狙撃や自刃の件から今回の件を立案、採択まで持っていってくれたらしい。
滅茶苦茶安心した。
つか、プロの方の解説も素晴らしかったし。
ただコレ生配信なのよね、大丈夫かな、襲撃出来る情報にもなってしまうんだし。
「良いんでしょうか、知識は武器にもなってしまいますが」
《配信には気を使って頂いていますし。守られる側の方にも、何故この様に行動するのか理解して頂かなくては、スムーズに作戦は実行出来ませんし。ご自身でも、身を守って頂くべくだと思っていますので》
「それでも」
『機密の伝聞、文字情報の公開は厳禁ですから』
「ジブリールさんとかだけで大丈夫?」
『はい。世界中に伝聞を司る精霊や神々は居りますから、ご心配無く』
「あぁ、地獄にも居たんでしたっけ、生前の行いを伝える方とか、3匹の虫さんとか」
『はい、罪過罪悪を伝える三尸、又は三尸虫ですね』
カーネーションズと国連との連絡係と、付き添いを兼ねて私とマイケルで桜木様に同行していたのですが。
先程の発言がジブリールさんによって放送に載り、全世界中が震撼した、と。
そっと天使さんに教えて頂いたのは良いのですが、良いのか悪いのか判断が付かず、素直には喜べずで。
【これは、マイケルさん、大丈夫だと思うか?】
【そうよね、ココの人達にとって死は遠い存在だったし】
『どうでしょう。普通の人間は常に死と直面しているとは思わず、死は無関係だろうと、そう生きているのが殆どだそうですから』
『そうですね、私も、どこか死は他人事でしたから』
【こう、恐怖や不安と結び付かないかな?】
【桜木とも、な】
『天帝様や閻魔大王様を恐れる悪人が増えるのは、僕は結構な事だと思いますよ?』
『そうですね、確かに、その方が良いのかも知れませんね』
そうして道徳から外れる事を恐れてくれるだけでも、軽犯罪抑止に繋がる。
マナーも道徳も、全ては恥と恐れを動機とした規範。
それが0では抑止の機能低下により、逸脱をし始めているらしいと。
ココでは是非にも、防がなくては。




