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4月22日 呪いが解けると言う事。

 呪いの匂いのする女に会って、今日で3日目。


 先ずは任された区画を見回り、今日1番の危ない気配が有る場所で待機。


 あの呪いの有る女は、危なかったり、運の無い場所に良く近付く。

 本人は無意識らしいので、結界を強めると近付かなくなる。


 変なのも惹き付ける。

 婆さんのお守りも効かない人間が後を付けたりする、だから夜に訪ねて見守る。


「また来て、何か食べる?」


 2回吠えるとイイエになる。


 水を貰って、洗って貰い、そうしてソファーかベッドへ行く。


 今日はソファー。


 今日も泣いたのか涙の匂いがする。


「ブラッシングしませんか」


 2回吠えて拒否。


「何故だ、綺麗になれるのに」


 呪いが解けてしまうかも知れないから。

 人間が嫌いだから。

 このままが良いから。


「理由が有る?」


 1回吠えるはハイ。


「困って無いのよな」


 1回吠える。


「神様?」


 2回吠える。


「そっか、凄い頭が良い子なのね」


 1回吠えた。


 それからはもう質問は無し。

 一緒に映画を観た。


 Fly Me To The Moon


 また泣いて、そして全く同じだと呟いた。


 そうして寝て、同じ夢を見て、真夜中に一緒に目が覚めた。


 それからずっと泣いている。

 沢山話は聞いたけれど、もう、どれで泣いているのか分からない位に泣いている。


 涙にも触れられない、顔を舐めてもあげられない、呪いが解けてしまうかも知れないから。


 呪いが解けたら、人間になってしまうから。

 人間が嫌いな人間を、沢山知ってるから。


 一服させる為に移動させる、裾を噛んで外へと促す。


 意図に気付いてくれたのか、屋上に行って一服してくれた。


 だけど今は良くない時間。

 フラフラしている時に惹き付けた男が、呪われた女へ近付こうとした。


 でも、近付く前に消えた。

 空間移動、初めて見た。


 何処に飛ばしたのだろう。


「大丈夫、知り合いの刑務所だから。怠惰さん、ごめんね、そこしか思い付かなくて」


 気付いてたのか、なら俺の事も気付いてるのかも。


「大丈夫、何も無い、狼さんも居るから大丈夫。へ、マジ狼、灰色で青い目の。飼い主さんとも会ったから大丈夫だってば、首輪も有るし良い子だよ」


 弱いと思ったのに、凄い強かった。

 人間が怖いから、だから呪いを掛けて貰ったのに。


「あぁ、移送費はすまん、アレクに何とかして貰ってくれ」


 凄く興味が湧いてしまった。


「大丈夫だから、はい、じゃあね。ユラちゃんも、大丈夫だから心配するで無いよ、ワシは強い」


 何で、そんなに強いのに、何でそんなに泣くんだろう。

 大罪だって味方なのに。


「ほれ、ブラッシングしてしまうぞ、お帰りよ」


 寂しいのに、何で1人になるんだろう。


「ほら、脅しじゃ無いぞ」


 クンクン言うと直ぐにブラシを引っ込めた。

 どうして1人になりたいんだろう。


 何で、どうして。


「本当に大丈夫、ありがとう、もう良いよ」


 何で、どうして、こんなに興味が湧くんだろう。


「良い匂いがするかね」


 2回吠える。


「あぁ、匂いじゃ無いのか、じゃあオーラ?」


 2回。


「何だろうね、弱そうだからか」


 1回。


「じゃあ、下で少し見せてあげよう」


 魔法を使ってオーラを抑えていた、しかも匂いも。

 強くて、良い匂い。


「武器も有るし、だから大丈夫」


 雷電まで。


 召喚者なんだ、そうか、だから沢山悩んでるのか。


 だから、ココの人間が嫌になったから、1人なのか。

 考える為に1人なのか。


 何で、どうして。


「安心したべ。内緒な、ほれ、帰りなさい」


 クンクン言っても押し出そうとする。

 3回吠えて、何とか手を止めてくれた。


「フェロモンが影響してしまってるかもだから、色々してみたんだけど、どうしたって人を惹き付けるみたいで。もう、浮島に隔離でも良いかもね、引き籠もりは得意だし」


 やりたい事が沢山有る筈なのに、何で、どうして。


「まぁ、大丈夫、マジで内緒な、だから帰りなさい」


 手をすり抜けベッドへ。

 観念してくれたのか、ベッドへ横になってくれた。


 もっと話して欲しいのに、直ぐに眠ってしまった。






 人はビックリすると言葉を失う。

 狼の代わりに、人間が同じベッドで寝てるの、男の子が。


「ワシは何をやってしまったんだろうか」


 狼のユラちゃんと一緒に寝た。

 神様じゃ無いとも確認した、じゃあ、コレは何ですか。


 捕まるのかしら。


「あの、起きて頂けますでしょうか」


 少年なのか青年なのか、起きた瞬間に自分の体を確認し、布団に丸まりクンクン言い始めた。

 ユラちゃんだ。


「すみません、ブラッシングはして無いのに。呪いだったのね、ごめんね、誰を迎えに来させれば良い?」


 指を指したのは手の甲。

 あのお婆さんの知り合いか、しまったな。


「お婆さんね、行ってくるから待っててね」


 返事は無し。


 もうコレは緊急事態なので空間移動し、家の前へ。


「すみません、緊急事態で」


《おや、どうしたんだい》

「ユラちゃんが人間になっちゃったんですが」


《あぁ、あははははは!そうかいそうかい、戸籍を作らないとだねぇ》

「いや、困ってるので元の狼に戻したいんですが」


《残念だけど、アンタがそう口にした時点で、呪いは完全に解けたよ》

「あ、じゃあ、新しく呪ってあげて下さい」


《無理だねぇ、アンタがそう口にしたからねぇ》

「あー、すみません、あぁ、何とか狼に戻すので、戸籍は待って貰えませんかね」


《良いだろう、但しココの日付で今日迄だ》

「えー、はい、頑張ります」




 ほんの少し婆さんの匂いがした、会ったけどダメだったらしい。

 そのまま他の国の聖域を連れ回されたが、もうただの人間だからと呪って貰えなかった。


 そして最終手段だと言って、森の奥へ連れ出された。


《まぁ、見極めてみないとだ》

「すみません、お願いします」


 呪いの匂いのする女、でも強そう。

 それに更に暗い洞窟の奥へ連れて行かれ、血を1滴出させられた。


《あぁ、大丈夫、変化出来るね》

「すまん、コレが限界だ。後はもう、永遠に狼になるかだ」


 体を作り変えて狼として生きるか、人間になりながらも時に狼として生きるか。


『呪いに、守られてたのに』

「ごめんね」


『ううん、追い出そうとしたのに居座って、呪いが解けたのは自分のせい』

「追い出し方が甘かった、ごめんね」


《呪いが解けて嬉しく無いのが居るなんて、初めて見たよ。どうして呪いを受けたんだい》


『人間が怖いから、嫌いだから』

《いつから》


『いつからだろう』


 何でだっけ。


《何故か、も》

『うん』

「戸籍無いし、死にたいなら今のウチやで」


『死にたくは無い』

《そうかそうか、変化は直ぐに身に付くだろう、ほれ》


 視界が低くなると、地面の中に潜っていた。

 影、影の中。


 もう、狼だ。


「早いなぁ」


 泳いで影から出ると、そのまま狼の姿になっていた。

 戻れた。


《ただお前の場合は、気が緩むと直ぐに戻ってしまうかも知れん。だから、気を付けてくれよ》

「すまんね土蜘蛛さん」


《いや良いんだよ、それよりお前に会えて安心した。息災な様で何よりだ》

「おう、もう怠惰しまくりよ」


 怠惰じゃ無くて、悲嘆なのに。

 ずっと泣いてるのに。


 何で、どうして。


『どうして、嘘を言うの』

「あら、人間になっちゃってる。相性悪いのかも」

《嘘か、コレは社交辞令と言うんだよ坊や。さ、今度は自分で影に入って変化してご覧》


「水に入る感じよ、知り合いは跳ねて入ってた」


 言われた通り跳ねて影の中へ。

 入れた。


《うん、早いね。だけど直ぐにも解ける、それは何故か、自分が良く分かっているだろう》


 何で、どうしてと思ったから。

 興味が湧いてしまったから。

 自分から、もう少し居たいと思ったから。


「お、解けなさそう。取り敢えずお婆さんの家に送るよ」

《あぁ、空間移動専用の場所を作ったんだ、使ってみておくれ》


「すまんね、ありがとう」


 クチナシの花のハーブを渡し、婆さんの家の近くへ移動した。

 そして少し歩いて婆さんの家へ。


《おぉ、変化かい》

「すみません、コレが限界でした。それか、永遠に狼のままか、ユラちゃんに決めて貰う途中です」


《そうかいそうかい、まぁ、入んなさいな、店は今日娘婿が出てるからね》

「すみません、お邪魔します」


 俺が悪いのに、何回も皆に謝って。

 俺が悪いのに、落ち込んでる。


 何で、どうして。


『俺が悪いのに、どうして謝るの。俺が悪いのに、どうして落ち込んでるの』


「すみません、一緒だと直ぐに解けちゃうみたいで」


《稀に有るんだよ、ココでは。この子は、最初は狼だったんだ。狼の体に人の魂が入ったんだ、恨みや憎悪の塊としてね。それが浄化されて、正しく呪いが解けたんだよ》

「でも、本人は望んで無かったみたいですけど」


《望んだ時に呪いが解けるだなんて、それこそ御伽話か寓話の中だけだよ。呪いを便利に使えなくする為の、呪いの呪いさね》

「マジっすか」


《ユラ、呪いに縋っただろう、解けてくれるなと思ったろう》

『うん』


《そうして執着した》

『うん』

「ごめんよ、もう少し強引に」


『どうして謝るの』

《呪い持ちだからね、分かるんだろう、呪いに縋る気持ちが》


「そう言われると、そうです、はい、すみません」

『何で謝るの』


「甘さから、君に悪い事をしてしまった」

『だから、それは俺が』

《ユラ、どうするんだい、狼として生きるか、人間として生きるかだ》


『どっちなら、もっと一緒に居てくれる?』


 婆さんにぶん殴られた。

 初めて殴られたかも。


《甘ったれんじゃ無いよ、アンタが決めるんだよ。ユラ、アンタにしか決められないんだよ》

『もっと、話してから決めたい』


《狼になれば、もう話す事は出来無いが、その子の呪いには影響は無い。お前も影響する事は無い》


「あの、手を」

《あぁ、すまないね、ありがとう》


 何でも出来るのに、何で1人なんだろう。


「それと、もし、ワシの呪いが解けた場合も、想定して欲しい」

《すまないね、身内の揉め事に巻き込んで、ありがとう》


「いえ、ワシのフェロモンのせいかもですし」

『違う、弱そうな呪い持ちで、心配だから』

《この子にはココの守護を任せててね、呪いが解けるまでの修行さね。それに、アンタの性質は大丈夫だ、溢れた時だけさ》


「じゃあ、何でヤバいのまで来ますかね」

《まーだ納得して無いのかい、魂の問題だよ。オーラだフェロモンだの、表面の問題じゃ無いんだよ》


「表面なんすか」

《そうだよ、全く、本当に頑固だねぇ》


「すみません」

《抑える方法は聞いてるだろう》


「それに納得がいかないんですが」

《ならもっと醜くなってみたらどうだい、それならワシにも出来るがね》


「それはちょっと、嫌だなぁ」

《どうしてかねぇ》


「それで好かれても、素直に受け取れない。綺麗にされてもそう、本当は、このまま愛されたい」


《そう口に出すのが大事なんだよ、言い聞かせておやりよ、自分に》


「きつい、ないちゃう」

『何で泣くの、どうして』

《アンタとそう変わらないんだよユラ、人間が好きで、醜い部分も知っているから怖いんだ。でも、人の良さも分かるから、悩むんだよ》


『大丈夫、俺は良い子だから大丈夫だよ、ずっと良い子だって言われてたから、俺は大丈夫』


《狼としてね、でも今のアンタは人間の姿だ。姿形の大事さはアンタが1番、分かってるだろう》


 呪いが有るから出会えたし、呪いが有るから一緒に居られた。

 でも、呪いが解けたら、何も無い人間の俺は、選ばれないかも知れない。


 狼なら一緒に居れる、短くてもずっと一緒に。


「ワシを基準に考えないで欲しい、世界の婦人が欲しがるモノは、ちゃんとした意思を持った夫なんだって。だから、誰かの為は考えちゃダメだよ」


 もし狼なら、反論が出来ない、本気で人間だけの場所へ逃げられたら止められない。


 けど、人間なら何かを言える、人間が居る場所へ行っても止められる。

 洗ってあげたり、ご飯を作ったり。

 何かをして貰う事より、何かをしてあげられる事の方が多いのは。


『うん、このままずっと一緒に居て』


《あぁ、3つ目の呪いも解けちまったねぇ》




 呪いを解くつもりが無いのに、呪いを解いてしまった。

 緊張してしまう程の美少年は、ワシ好みの美少年になり、すっかり懐いてしまった。


 もう、下界で生活するのは諦めよう。


「こまるんですが」

『何で?誰か好きな人が居るの?』

《あぁ、いっぱい居るんだよこの人は、なんせ英雄の気質なんだからねぇ》


『じゃあ1番下っ端で良いからお願い』

「断ると」

《死んじゃうねぇ》


「いや、狼生は」

『話せないのは嫌』

《だそうだ》


「何処から、嵌められてたんでしょうか」

《何も、ただアンタを受け入れただけさね》

『誰にも何も言われて無いよ?』


「本当に死んじゃうの?」

《失恋からの、餓死だねぇ》

『あ、お腹減った』


「お婆さん」

《もう呪いは無いよ、なーんもだ。この子にはどう呪いが解けるかも、何も話して無いんだよ》

『何も知らないから、色々怖かった、狼が楽なのは分かってたから』


「あぁ、もう、ケバブで良いか」

《あぁ、そこのかい、ワシにもおくれ》


 緊張が解けてお腹が減ったので一緒に食べたけど。

 どうしよう、こまる。




「柏木さん、あの、ちょっと緊急事態でして」


 桜木様の事で、雨宮大使から連絡が来たのはオヤツ前。

 桜木様が狼を人間にしてしまいました、と。


 ユラ・トゥクース、青灰色の特別な松明、を意味する名前を持った男の子。

 本人は特別な事情が有る場合に結婚出来る年齢、16才だと主張しているらしいんですが。


 雨宮大使も桜木様も、頑張っても14〜5才にしか見えない、と。


「写真を見ても、そうですね」

【で、移民申請か何かしといてくれと】

【すみません、現世に疎い方々で】


「それでその、ユラ君はイスタンブールで宜しいんでしょうかね」

【みたい、移民と一緒に住むって】

【それか、ハナさんのお家が良いそうで】

【結婚出来るなら何でも良い】


 声まで幼いとは、困りましたね。


「お言葉が上手ですが、移民達の言葉はどうなんでしょう」

【“良く聞いてたから話せるよ”】


「コレはコレは、魅力的ですね」

【柏木さん、何もかも反対して下さい】

【何で?役に立てるかもなんでしょ?】

【ユラさん、人前で乗っかるのは】


「書類作成にしてもテンプレートについても少し時間が掛かりますので、暫くお待ち下さいませんか」

【ダー、スパシーバ】

【語学ひけらかして】

【すみませんが宜しくお願いします】


「いえいえ、では」


 困りましたね、我々は全然困らないのですが。

 津井儺君と桜木様は、困るんでしょうねぇ。




 オヤツの時間にエナさんと報告書を読んで、やっと神々の機嫌が良かった理由が分かりました。


《狼ですか》

《この地で言う、怨念じゃろうな》

『人の怨嗟の塊が、狼の皮へ。どこまでも狼に縁が有るヤツだ』

『うん、魔王もだし、好きだから引き寄せてるのかも』


《それは、どっちの事でしょうか》

『両方?』

『まぁ、否定する材料は少ないな』

《ショナ坊か魔王じゃったもんなぁ》


《狼人間の街とか国って、無いですよね?》

《どうじゃろなぁ、相変わらず彼の国は我でも認知不可能じゃし》

『それを認識するもほぼ不可能』

『もう、浮島に引き籠もるかもだし、大丈夫』


《いや、流石に浮島に引き籠もる、では困るんですが》

『マティアスやせいちゃんの気持ちは置いといてもだよ、安全に過ごすには浮島で引き籠もる事じゃない?』


《それでは帰って来て頂いた意味が》

『勝手に帰って来たいと願っての事だし、望んで無いよ』


《常識的に》

『一生、偶に君と面談するだけ。それで幸せだって言うのに、そんなに嫌なら交代すれば良いよ』


《八つ当たりですか》

『うん、嬉しかったんでしょ?好意、好きでしょ?』


《何処まで計算しての事なんですか?》

《して無いんじゃよなぁ》

『あぁ、ワシの認知の外なら別だがな』

『本当に、寄せてしまう。もう、本人も気付いたかも』


 確認しようにも、連絡が取れない。

 電池切れらしい。




 ハナさんが真っ青な顔で大使館に駆け込んで来てから、数時間。

 私は幸せ。


 ほんのりと色の濃い肌、チョコレート色の髪に青い瞳の男の子。

 ハナさんにベッタリで、もう、見てるだけでショナさんが嫉妬する光景が目に浮かんで。


「マキさん、マジでどうしよう」

「諦めが肝心な時も有るかと」


「ふぇえ」

「ふふ、可愛いから良いじゃないですか」


「マキさんに気が無いと平気なん?」

「あ、そうかも」


「お互い、厄介な内包物が有りますな」

「ですね、ふふ」


 そして柏木さんでは無く、ハナさんの担当医ネイハム先生から大使館へ連絡が来たんですが、彼も素敵ですよね。


【携帯の充電、いつしましたか】

「あ」

「あら、充電器用意しますね」


【自覚、出来ましたか?】


「おう、少し、そこそこ」

「はい、どうぞ」


【どうするおつもりで】


「浮島に引き籠もりたいぃ」

「え、フェロモン関係無いのでは?」


「でもだ、リアルガチで生きる誘蛾灯なんだもの」

【それを封じる方法が、ハーレムなんです】

「素敵じゃないですか、何がダメなんですか?」


「マキさんまで」

「ハナさんが悩むのは当然、ましてとっても大変だとは思いますよ。だって、私ですら、ハナさんと誰が1番良いのか悩むんですし」

【心強い味方が居て助かります。ユラ君、始めまして】


『ハナの?』

【担当医です】


『だけ?』


【はい、今は】

「きゃー」

「マキさん、お局様候補なだけや」


【それで、行商人の条件が提示されました】

「ハーレムか」


【はい】


「じゃあ引き籠もる」


【ユラ君だけを連れて、ですか?】


「そこが、悩み所」


 そうなんですよね、常識は知っていても教育はまだなので。

 学校に行って、移民政策にも協力して欲しいんですよね。


【ましてアレク君や白雨さんがどう思うか】

『モテモテ』

「そうなんですよ、だからお勉強頑張りましょうね」


 そしてショナさんも。

 もう、動くしか無いんですけど、嫉妬を動機として告白はして欲しく無いんですよねぇ。


「ぅぐぅ」

「あの、この事は?」

【まだ内々なので、従者も知りませんよ】


 でも、いずれはバレてしまうし。


「ユラ君、人間って、一緒に居る事だけが全てじゃ無いんですよ?」

『分かるけど、今は良いでしょ?』


 可愛い。


【ですがもう、一緒に寝るのは無理ですね】

『えー』

「ハナさんが捕まっちゃいますよ?」

「あー、それは嫌」


『ソファーも?お昼寝も?』

【人目が有る前提です】

「狼になるなら、まだ間に合うぞ」


『洗ってあげられない、話せないから人間で良い』

「一緒に寝放題、ずっと一緒に居れる」


『時間が短いから嫌』

「濃縮されるか薄いかだから、実質同じかもよ」


『エッチ出来無い』

「何でその知識は有るのよ」


『移民達、大事だって言ってたもん』

「あぁ、こう弊害が出ると思いませんやん」

【ただどう見ても、16才には見えませんよ】

「出現が確認されたのが約15年前ですね、ほら」


『うん、俺の写真かも』

「ココから正式な年齢を出して申請中なので、もう少し我慢して下さいね」

「ルシアみたいやんな」


『誰?男?』

「狼のオスや」

「ライバルになるんですかねぇ」

【それは困るので、是非にも囲われて欲しいんですが】


「検討は、します」

【分かりました。雨宮大使、少し宜しいでしょうかね】

「はい」


 ハナさんと離れて電話での密談、ドキドキしちゃいますね。

 何でしょう。


【ショナ君の事なんですが】

「やります」




 雨宮大使に内容を告げる前からご返答頂けましたが、再度詳しく説明し、賛同と参加表明を頂けたのは良いんですが。


《後は》

【ショナさんですよねぇ】


《桜木花子の誘導は簡単ですか》

【ハナさんの人生には重要な事ですし、私は嫌われても良いので】


《そう捨て身になられても困るんですが》

【私が出来る事なんてたかが知れてますし、ハナさんは良い人ですから、お友達はこれからもいっぱい出来ると思うんです】


《そう捨て身になるなら、参加は却下です》

【え、あ、そう言う気概だって事ですよ】


《親友かもと思っているかも知れませんので、そう思って行動して頂けませんか》


【え、でも、私は何も】

《何かしたかどうかより、相性です、彼女は特にそう言う方なので》


【あーはは、ふふ、はい】

《では、ユラ君を宜しくお願いしますね》


【はい、お任せ下さい】




 昼食後、何とかユラ君を引き剥がし、家へ、心を落ち着ける為にゲーム。


 そしてとうとう全てをクリアしてしまったんだが、虚無。


《お昼寝を》


 あぁ、そうしときます。




 休暇について言及されぬ様に、再び実家へ。


 隣の家の吹雪さん、義姉の美雨さんと母とで少し遠出をしてのお花見へ。

 買い出しに荷物持ちに子守り、コレなら次に桜木さんに突っ込まれても、多少はマシな反応を頂けるだろうか。


 花見の後は買い物へ、新作の化粧品や服を何だかんだと選んで楽しんでいる。

 吹雪さんは絵本、桜木さんの妖精の絵本が気に入ってずっと持ち歩いているらしい。


 桜木さんも、こんな感じだったんだろうか。




 ココだとオヤツの時間、日本は夕飯の時間だろうか。

 やっと日本人街へ。


 お茶屋は以前にも有ったらしいが、大きな店を出してココからは退去したらしい。

 橋の下に店が有るんだとか、すっかり高級路線で接待用の日本食屋になったんだとか。


 マキさんに連絡してみると、再び大使館へと呼ばれた。

 そもコンセプトが違うのと地理が離れてるので問題無いだろうと、専門家からもお墨付きを貰ってるんだとか。

 商業化は継続で、ユラ君の事も承認されたらしい。


「内装、決めちゃいます?」

「ですな」


 紫苑になり、そのままユラ君も連れて工務店へ。


 内部を4分割に、淡い四季の色をとお願いし、床は濃い抹茶色でとお願いした。

 イメージ図的には良いんだが、問題は家具、それと一ヶ所は小上がりが欲しいとなり、費用がどんどん嵩んでいく。


「大丈夫ですって、失敗しても経済自体は回るんですから」


 そうよね、こんな若輩者の案が上手く行く方がどうかしてるんだし。

 失敗する気で、且つ成功させる気で遠慮無しに要望を出していく。


 春の席は畳敷きの椅子。

 夏の席は籐の家具。

 秋は木目の綺麗な漆塗り。

 そして冬は小上がりにローテーブルに座椅子、寒くなれば炬燵になるやつ。


「欲張りセットよなぁ」


 食器は輪島塗に津軽塗、江戸切子に大谷焼。

 最悪は自分が使うつもりで好みの食器を選んでいると、外装のプランが何パターンか提示された。


 目を引いたのは、東西南北で四季の色をパステルカラーでぼんやりと表現する案。

 もうこの発案者に他の全てを一旦お任せし、ハンへ。

 ユラ君を案内する事に。


 馴染んでる。


「馴染んでますね」

「コミュニケーションモンスター」


 今日は軽い顔合わせだけ、常識がまだまだ不安なので大使館預かりに。

 もうすっかりハーレム案を呑んでるらしく、大人しく引き下がってくれた。

 コレは、先生のお陰だろうか。




 桜木花子から、面談では無くお礼をと連絡が来た。

 [お局様、ユラ君を有り難う御座います。]と。


 まだ、ハーレム案が呑み込めて無いのか尋ねると、どうやらその様で。

 もう、ハーレム案を呑みたくなる案を出すしか無さそうですよね。

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