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第二の人生、気の向くままに  作者: けるびん
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閑話14 ジークフリードから見た貴族の柵

 僕の名前はジークフリード・フォン・アルジェント。エリクスティア王国南部を代表する貴族、アルジェント辺境侯家現当主の嫡男にあたる。とはいっても、屋敷の外に出ることは多く同年代の平民の友達も結構いたりする。

 これは両親が双方ともにその両親―――僕からすれば祖父にあたる人物たちが色々と問題ありだったため、その反省をしっかり生かす意味で僕もそのことを学んだ。貴族とはいえ南は隣国と接している以上軍人気質的なものも必要で、普段の生活も必要最低限の服飾や食事となっている。いざ戦争となった時にその費用を貯蓄しておく意味もある。

 とはいえ、父や従士の人たちが狩りをしているお蔭でそこまで不自由もしていない。そこに彩を加える形で弟や妹たちも奮闘していた。僕も父に倣う形で狩りに参加することはあったのだが、才のある弟や妹たちは僕にとって過ぎたるものだと思う。


「兄上は魔法にも長けているだろう? 俺は精々腕っぷしが強いだけだ」


「私は魔法ぐらいのものですから」


 同じ両親から生まれた次男のヴェイグは膂力だけでなく戦術にも秀でていた。長女のエリザベートは魔法で類稀なる才を発揮。そんな二人は僕が家を継ぐことに賛成していた。この辺は両親の教育の賜物ともいえるのだが、当の僕本人はというと、父の跡を継ぐことに引け目というか気苦労の重さを感じていた。

 単に爵位を継ぐのは吝かではない。上級貴族の椅子を譲り受けられるのは非常に光栄なことだ。僕がそう思った理由は7歳の時のお披露目会で、東部の雄であるオームフェルト公爵家長男に会った時だった。


『フッ、君のような芯の細い人間が貴族だなんて、アルジェント家も先が短いご様子ですね』


 自己紹介よりも前にそのような言葉が出るとは思いもしなかった。大方父親の教育方針なのだろうが、いきなり顔を合わせて嫌味を言う性根からすれば貴族として怒って殴りたくもあったが、父が隣にいる手前恥をかかせるわけにもいかず、僕はこう返した。


『アルジェント家バルトフェルド侯爵が長男、ジークフリード・フォン・アルジェントと申します。先ほどのご発言ですが、芯がしっかりしておれば細くとも折れにくくなります。太く短くよりは多少なりともマシかと僕は考えておりますゆえ』


 人の体格を貶したのだから、やり返さなければ貴族としての矜持にかかわる。これは母から教わったことだ。するとその発言を侮辱と取ったのかオームフェルト公爵が過剰に反応したところで、それを咎めるようにノースリッジ公爵が割って入る。非礼を詫びるのはオームフェルト公爵公子であるという言葉に、詫びもせず息子を連れて消え去って行った。彼らの後ろ姿に深いため息を吐いた父の姿は今でもよく覚えている。


『初めまして。コレット・フォン・ノースリッジと申します』


『ジークフリード・フォン・アルジェントといいます。先程はお見苦しいところを…』


『いえ。毅然としていらっしゃって、とても貴族らしかったです。弟達にも是非見せたかったと』


 今では僕の第一夫人であるコレットとの初対面もここであった。とはいえ、お披露目会のときのこともあって、彼女と良い仲になればいいかなぐらいにしか思っていなかった。数年後に下着姿で自室に突撃され、まさかの両想いだったことには苦笑しか出てこなかったが。


 その後、10歳になったので王都の王立学院に合格して少しすると、僕にとって義理の母であるエリス母様とミレーヌ母様がそれぞれ男子を産んだ。三男ライディース、そして四男シュトレオン。曽祖父レオンハルト様が亡くなって3ヶ月後のことだったからよく覚えている。その1年後にはメリルも生まれた。初めての妹ということもあってエリザベートは大変うれしそうだった。何せ、学院に行く際メリルを連れて行こうと駄々をこねたこともあったぐらいだ。


 その間に王立学院でやっていたことが認められて卒業許可待ちとなり、空いた時間で本格的に領主としての勉強を始め……そして、15歳になって学院卒業した後、父の領地にガストニア・グランディア連合軍が攻め入ったと報告を受けた。僕は次期当主・当主代行として王都の屋敷に詰めていた。


「叔父様は無事なのかしら? それに他の母様たちや弟、妹達は……」


「叔父上はあれでいて歴戦の勇士。ヴェイグもそちら方面に行っていた……最悪の事態だけは、覚悟しないといけないかもしれない」


「解っているわ、兄上」


 その翌日、父が王城から屋敷に戻ってきた。その表情は真剣ながらもどこか安堵感を見せていたので、少なくとも最悪の事態だけは回避できたのだろうと考えた。父は内密な話になると母様やエリザベートに伝え、部屋の中には僕と父の二人だけとなった。お互い向き合うように座ると、父が口を開いた。


「先日連絡を受けていた侵攻の件だが、無事に解決した。……シュトレオンが、魔神を討伐したそうだ」


「……え? ヴェイグではなく、シュトレオンが? そもそも、彼はまだ5歳のはずですが」


「レオンのステータスは、もはや5歳のそれとは大きくかけ離れていた。ヴェイグやジェームズですら完全に霞むほどのな。そして、彼のリスレット行きを認めたのは私自身だ」


 父が言うには、3歳の時に1週間ほど謎の高熱で寝込んだ後から彼は大きく変わったのではと話す。自身だけでなく兄や妹を気遣ったり、父自身やミレーヌ母様にも配慮していた。貴族の子どもとしては非常に家族思いの子。それが魔神討伐という偉業を成した意味は無論僕も理解している。


「そして、この家を継ぐ気はなくお前が家を継ぐのならば喜んで身を引くと本人は私の前でそう宣言していた。そうでなくとも、今回の出来事でシュトレオンは間違いなく叙爵の対象となるので、この家を継ぐことはなくなるだろう。ジークとしては、少々残念に思うだろうが」


「そうできないように仕向けた父がそれを仰いますか。僕としてはオームフェルト家との諍いに弟や妹達が必要以上に巻き込まれないことを祈ってましたが……儚い夢でした」


「成人するまでは貴族であるし、それにライディースやシュトレオンと同い年のオームフェルト家の男子もいる……面倒など御免なのだがな」


「御尤もです」


 数か月経ったある日、僕はシュトレオンと出会う機会を得た。それがオームフェルト公爵家絡みというのは少々納得がいかなかったが。彼は僕の結婚式の礼服をプレゼントしてくれ、引出物まで取り計らってくれるだけでなく招待客へのお土産も差配してくれた。

 妻のコレットも彼を気に入って、それはもう力強く抱きしめるほどに。彼曰く『愛情表現で抱きしめられるのは何故でしょうか』と疲れた表情で述べていたが、背は伸びていても彼の母譲りの愛くるしい顔立ちに母性本能が擽られるのだと妻は述べていた。


 その後、妻の妹がシュトレオンの婚約者となったことでノースリッジ公爵家と二重の繋がりとなったのだが、レオンはアルジェント家から独立して初代国王の分家であるリクセンベール家を再興した。この家の末裔が現在のリクセンベール皇家で、現皇帝の娘がレオンに嫁がれることから決まった。

 加えて現国王の四女であるアリーシャ王女殿下も降嫁することが決まったことに、10にも満たない内に成人して婚約者まで決められる心境を慮ると、むしろ同情すら覚えてしまう。


 ある意味僕が感じていた気苦労を背負わせる形となったので、才能があるというのも変な妬みを買うものだと知り、彼のことは血の繋がった兄としてフォローしていこうと思ったのだった。そんなある日のこと。父が僕を呼び出してこう告げた。


「来年、お前に辺境侯位と外務相職を継がせる」


 本来、王国の貴族法では爵位を持つ人間が亡くなり、予め残していた遺言状に従って爵位と従位が継承される。貴族の中には『そんなものなど必要ない』と貴族のプライドから法に背き、急死してその周囲の人間が継承権や役職争いでもめるケースも少なくない。総務庁の役人が調停しきれない場合だと外交官が出向いて調停を取り仕切るパターンも珍しくないのだ。

 爵位と役職の継承自体に異存はないが、目の前にいる父は健康の不安などどこ吹く風と言わんばかりの様子。何かの冗談にしても性質が悪い。そんな僕の考えを見通したように父は苦笑を零した。


「お前が疑問に思っても無理はない。本来なら私が亡くなってから継承されるのが通例だが、これについては陛下も了承された。貴族法には何ら抵触しない方法でな」


「どのような方法でしょうか?」


「先日の北方遠征で我が国の領域が北上したのは知っているな? そして、レクトール殿下の即位に合わせてカエサル殿下の公爵家宣下の儀を行い、北方辺境侯の従位を賜る。私はその北方辺境侯の教育係ならびに筆頭外交官となるわけだ。この場合だと領地にかかりきりというわけもいかなくなり、一年のほとんどは王都に詰めることとなる。そのため、お前に辺境侯の爵位と外務相の従位を継承するわけだ」


 教育係というのは表向きの建前で、王宮としても優秀な外交官は一人でも多いほうがよい。アルジェント家は、能力のバラつきはあれど代々優秀な外交官を輩出していて辺境侯家お抱えの外交官も多い。北方の抑えを盤石にするために父を辺境侯という柵から抜けさせ、同等となる新たな職を宛がうのだろう。


 カエサル王子曰く『かの御仁を狩りで遊ばせるのは国の損益だと父が仰っていた』と聞き及んでいるので、文字通り動けなくなるまで扱き使われそうだが。父は当然そんな考えなどお見通しなのかため息をつく。

 

「それは建前ですよね、父上。カエサル殿下はあれでいて深謀遠慮なお方です」


「このぐらいは読んでいたか。いや、これぐらいは読んでくれねば困るな。実際はシュトレオン絡みだ。再来年、南東部の王国直轄地を下賜することが決まった」


「あの地域ですか……これまた厄介な」


 王国南東部の事情は南部貴族であるうちも無関係ではないため、当然聞き及んでいる。王国南東部は大部分が森林なのだが、その範囲内にはいくつかの準男爵家や騎士爵家も存在している。だが、それらの家は間接的に南東部の中規模の都市を治める代官がいて、その人物はフューレンベルク辺境伯家からの出向扱い。実質的に直轄地自体が東部貴族の支配下に置かれている。


 こんな事情になったのは、過去の東方遠征でその地域からの出征兵がかなり亡くなったものの、フューレンベルク家もそうだが東部貴族が賠償も払わず無視し、更には魔物の素材といった報酬もすべて没収されて彼らには1ルーデルたりとも支払われなかった。そこから発生した資金難を理由にフューレンベルク家ではその土地の管理もできなくなって領邦騎士団が撤退、已むに已まれず王宮が直轄地としてそのまま引き取ったのだ。


 しかし、領地の税収は少しでも多いほうがよいとオームフェルト公爵家がしゃしゃり出て、先代以前の国土相がその意向を受けて距離的に近いフューレンベルク辺境伯家から代官を派遣しているという。

 これを快く思わないのは直轄地を管理する王宮で、ウェスタージュ家から代官を派遣しているが東部の連中は代官権限で彼を閑職状態に追いやっている……これが直轄地でありながらもちぐはぐな管理体制の現状という訳だ。


 王国としても南東部の開発を進めたいが、迂闊に手を出せば東部貴族が騒ぎ立ててご破談と成りかねない。東方遠征ひいてはグランディア侵攻作戦で金銭面を優遇しろなどと喚くことは想定内。苦肉の策という形でシュトレオンにその領地を渡して一気に開発を進めようという魂胆なのだろう。幸いにして弟自身かなりの資産を有しているし、金を稼ぐ方法は数多とある。


 現にリスレット西側郊外の場所はジェームズ子爵が土地の所有者となっているが、建物などの所有権はシュトレオンが有している。税として取り立てている3割のうち2割を辺境侯家、1割を子爵家に配分されている。そこだけの税で3千万ルーデルはもはや破格であるというレベル。

 子爵の長男はシュトレオンの才能を妬んで更に税を取り立てようとしていたが、父はこの前ジェームズ子爵をセラミーエに直接呼び出して『お前の長男が暴走して殺傷事になる前に跡継ぎの問題を今すぐ片づけよ。さもなくばリスレット西側郊外の土地所有権を辺境侯家に差し出せ』と迫った。


 剣と魔法に強いシュトレオンはともかく、子爵長子がジェームズ子爵や彼の他の息子たちに危害を加えない可能性などない。なにより子爵の治めている領地はセラミーエ領でもガストニア皇国との接続口。そこが危険になれば交易にも大きな影響が出るし、王国の経済にも直結する。

 珍しく強気に出た父の脳裏には、過去に起きたアルジェント家の御家騒動のこともあったのだろう。ジェームズ子爵もその事を強く鑑み、親として苦渋の決断を下した。


 長男は教会送りではなく領内扇動未遂の罪で処刑。次男は本人の希望通り領邦騎士団長へ、そして次期当主には三男が選ばれた。処刑には子爵自ら剣を振るったと聞き及んだ。『この罪はしっかりと育ててやれなかった私自身の罪。妻や教育係、家臣たちに何の責もなし』と呟き、連帯責任として当主の座を降りた。

 とはいえその影響力や剣士としての実力もあることから、父は領邦騎士団の特別顧問としてジェームズ殿を留め置いた。『素直に隠居させてくれんとは、バルトフェルドも中々に手厳しい』とこの前会ったときに呟いていたのを耳にした。


 話がそれた。


「一応大丈夫なのかとレオンに確認したが、下調べは進めているそうだ。下賜が正式に決まったら一度冒険者として視察に行くとは言っていたが」


「領地を接することになるのでうちも慌ただしくなる。早いうちに経験を積めと?」


「ああ、多少失敗してもいい。その時は私もフォローするからな。しかし、レオンの強かさは正直舌を巻くほどのものだ」


 お披露目会の時はオームフェルト公爵に殺気を向けたものの、その後贈り物をして彼への取り成しは一応済んでいる。パルメイス辺境伯の実弟の結婚式では女傑と謳われたパルメイス辺境伯を煙に巻いている。敵であるネルガイヤー将軍伯を真正面から打ち破って見事王国の戦力として取り込んだ。更には王家とノースリッジ公爵家、ウェスタージュ辺境伯家まで味方につけた神懸かりの所業に、父はもはや笑うしかなくなると告げた。


「ここで東部の干渉を許せば、レオンは躊躇いなく今の地位を捨ててガストニア皇国へ行くこととなる。今は混乱しているグランディア帝国を飲み込む可能性もなくはない……正直博打に近い。私と陛下、ハリエット宰相とニコル財務相の一世一代の大博打となるだろう」


 傀儡になるぐらいなら東部の連中に全てを押し付けた上で亡命を図る。リクセンベール皇家は弟を懇意にしているので、最大限の計らいを約束するのは目に見えている。だが、それは上向いてきた王国経済が失速するという可能性を秘めている。だからこそ、父は自由に動けるための土台として僕への継承を急いだというわけだ。


「陛下の王位継承もそれが理由でしょうか?」


「……これは内密にしてほしいのだが、現国王夫婦の皇居をシュトレオンが治める予定の領地内に建てる。王としての権威は手放すが、王族としての存在は残る……明らかにオームフェルト公爵家やフューレンベルク辺境伯家への牽制でもある」


「そして、さしずめ父とジェームズ名誉子爵がシュトレオンのバックアップを務めるというわけですね」


「まったく、その頭の回転の速さはレナリアに瓜二つだな」


 ここまで巻き込まれていても、転んでもただでは起きない弟はこちらを吃驚させるような策を用いるのだろう。後日、レオンが直々に来て『とりあえず兄上のほうでも移住候補を見繕っていただけますか?』と尋ねてきた。


 何せ、残す予定の魔物の領域を除いてもセラミーエ領の3倍の広さなので、人員も多ければいいが人柄も当然考慮しなければならない。家臣や代官の斡旋なので、ここでも利権が発生してくるというわけだ。アルジェント家も寄り子の貴族や家臣たちの次男もしくは三男以降となれば数も多い。未開発地の開拓も進んでいるがいずれ頭打ちとなるので、新規での大規模開拓となれば当然売り込みに来る件数は増えてくる。

 実際のところレオンへの直轄地下賜の噂は流れているようで、かなりの無職である在都貴族がアルジェント家の屋敷に度々顔を見せに来る。その応対に次期当主として早速駆り出されているわけだが、中には自分の娘をレオンの妾にと紹介して来たり、使用人やメイドの斡旋もしてきたり、さらには自分の側室や妾にもという押しかけまであったほどだ。これを恙無く捌き切れる父には尊敬するし、上級貴族というのは実に大変な職業である。


 ただ、領地の商売についてはレオンが懇意にしているアルノージュ商会やティルミス商会のお伺いを立てなければならなくなるし、建築関連についてはメーヴェル工務店が実質的にリクセンベール子爵家お抱えとなるため、彼らを通さないことには話にならない。レオンが意図的にそうした訳ではないとはいえ、亜人族や魔族を快く思わない人間が自然と排除できる体制となる。

 変な輩を排除するだけでなくエリクスティア建国の理念である『王国の法理念に基づく全種族共存国家』を自ずと体現しているのだから、当然王家からの評判は天井知らずの鰻登りだ。


 貴族の中には『彼らは王国、ひいては人族を脅かそうと企んでいる!』と声を上げたりする者もいたのだが、国王陛下から『わしの決めたことに文句があるのか? じゃあお前たちは利益に与らない様にするだけだから。後代の王にもそれは徹底させるからな』というようなお達しが出ると、掌を返したように頭を下げてくるようになった。とはいえ、性格などに問題があれば問答無用で弾いてブラックリスト行きになるのは言う必要もないが。

 元々今の陛下がガストニア皇国との国交正常化・交流発展を決めたことに反旗を翻す発言なのだから、陛下のお達しは当然ともいえるだろう。それでも人族至上主義の連中は水面下で文句を流しているようだ。口に出すとストレスが溜まりそうなのは察してほしい。


 ギルド関連については、冒険者ギルドはレオンの婚約者の一人が王都本部のギルドマスターの縁戚に当たるためスムーズに話が進んだ。最近上層部が一新した魔術師ギルドも好意的で、職人系ギルドも支部の設立に前向きである。その反面商業ギルドは以前アルノージュ商会との諍いを起こした一件の影響で支部設立はしないという反応だった。そのため、南東部には商業ギルドに代わる組織の設立を水面下で進めている。


 ティアット教の教会はというと……こちらは言わずもがなという形であった。ラスティ総司教がアルジェント家に深い関わりを持ち、国家機密レベルではあるが父の隠し子が今代の聖女である。そして現法王や先代聖女の血筋をレオン自身が引き継いでいるため、最大限の配慮と人選をするであろう。

 そもそも、問題を起こすような司祭や司教がいればラスティ総司教は喜んで攻撃の対象に選ぶので心配はいらないだろう。南東部にはセラミーエにあるぐらいの大聖堂が建設され、大司教として現在総司教補佐であるディアス・アデレード司教が選出されることが決まった。彼はまだ40歳代前半であり、この年齢での大司教昇進はラスティ総司教に次ぐ早さとなるらしい。


 話を戻すが、僕はヴェイグと同い年でオームフェルト家現当主の次男に声をかけてみた。すると意外にも好意的に受け止めてくれた。


『南東部に私がですか。あの糞親父……いえ、今はもう赤の他人でしたね。あのすまし顔をした奴に一泡吹かせますよ』


 オームフェルト家は長子継承に拘るため、次男の彼は貴族としての権利をすべて放棄していた。今は平民となり、商人か農民としての勉強に励んでいた彼にその話をすると快く引き受けてくれた。権利を放棄した相手に血縁や貴族としてのコネは使えないのが貴族の慣例のため、彼が南東部に行くということは実家への意趣返しも含まれているのだろう。

 今は伯爵家当主となったヴェイグ同伴でレオンにも引き合わせたが、彼の感想は『こんな弟がいるヴェイグが羨ましい』であった。


『ライナーの一件は曽祖父から少し聞いたが、それ以前の恨みとは正直参る』


『それについては家に歴史書があったよ……史書というより呪詛を書き連ねたような禁書だったかな』


 彼が言うには、オームフェルト家はアルジェント家の前身である南方の王国に奇襲を掛けたところ、逆襲されて大損害を受けたという記載があった。

 学院にある歴史書と読み合せると、どうやら南方の王国を治めていた国王が病死し、勢いのあるエリクスティアからの降伏勧告を受け入れる前提で話が進んでいた中、戦功を焦った当時のオームフェルト公爵が『降伏勧告などとは軟弱! 徹底的に攻め滅ぼすべきである!』という主張から王家を無視して逸ったという結論に至った。

 南方の王国はガストニア王国(後の皇国)と誼があり、亜人族と友好的な関係を結ぶ国など亡ぼして支配すべきという考えから奇襲に至ったのだろうと彼は述べた。尤も、大損害を受けた上に王家から国家反逆の疑いを掛けられ、数代は侯爵に降爵させられたと歴史書には書いてあったらしい。


『オームフェルト家か領地に呪いの血脈が眠っているとかはありませんよね?』


『ラスティ総司教様に確認していただきましたが、そういった呪いは確認できなかったらしいです。こうなると、オームフェルト公爵家そのものが呪いだと思っていいでしょう……馬鹿馬鹿しくて反吐が出てきそうです』


 公爵家という呪い。僕らもこうならない様に普段からの言動と行動には気を付けようと心の中で決意したのであった。

 ちなみにだが、レオンは彼を新たに作ることになる街の文官か代官に任命させるつもりらしく、父の了解も取り付けていた。どうにかして婚姻などで繋がりを入れてくる可能性もあるのだが、彼は東部の主要な貴族の顔を覚えているので、完全な悪手というのは敢えて伏せておくことにした。


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