第20話 答えは出ても、別の疑問が出る
「どうかしたのですか、ジーク?」
シュトレオンが出した色々規格外なスーツに困惑する二人。すると、その騒ぎが耳に入ったのか、一人の女性が入ってきた。すらっとしたスタイルに私服のドレス姿の女性。真紅の髪の毛は肩にかかる程度の長さで、一部を後ろで束ねていた。胸部装甲は割と人並み程度だ。エリスやミレーヌがすこし規格外なだけかもしれない。
すると、見慣れない子供の姿を見て視線を向けられる。まあ、そうなるよね。するとジークフリードが助け舟を出してくれた。
「母上、彼が弟のシュトレオン準男爵ですよ。シュトレオン準男爵、こちらは僕とヴェイグの母親のレナリア・フォン・アルジェントです」
「絶対わざとですよね……はじめまして、レナリア母様。ミレーヌ母様の子で、シュトレオン・フォン・アルジェントといいます。普段は『レオン』と呼んでくれるとありがたいです」
「あら、貴方がミレーヌの……レナリア・フォン・アルジェントと申します。よろしくお願いしますね、シュトレオン準男爵」
もう、絶対にからかっているとしか思えない挨拶に俺は思わず膨れ、三人は笑みをこぼしていた。まぁ、不敬罪にするつもりは一切ありませんけれどね。同じアルジェント家の家族ですし。シュトレオンはここに来た理由と先ほどのジークフリードの一件を隠さずに話した。すると、レナリアは俺に詰め寄ってきた。
「ねえ、ドレスとかあったりするかしら?」
「一応はありますよ」
流石に顔が近くて逆に怖い。なので、適当にドレスを何着か出した。一応作ったのだと数十着はある。長さとか色はいざとなれば簡単に変えられる。魔法ってホント便利だと思う。すると、レナリアは一着のドレスを手に取った。
「これがいいわね。あ、そういえばお代は……」
「あ、いいですよ。今回突然訪問したお詫びにってことで」
「ありがとう。ホント、ミレーヌに似てしっかりとした子よねー」
……なんでこう、俺は女性の胸に顔を埋められるのだろうか。肉体は5歳でも精神は22歳。悲しい現実である。役得だろ、って言われるかもしれないけれどさ、母親に欲情なんて出来るか。それが義母であってもだ。
何はともあれ、レナリアに受け入れてもらえて何よりだと思う。そして俺らは居間に移動したのち、彼女は改めて先日の一件でヴェイグを助けたことについて頭を下げた。
「ありがとう、レオン。貴方のおかげでヴェイグは助かったわ」
「いえ、自分にできることをしただけですから。というか、父上から聞いたのですが、大丈夫なんですか? 第一王女が通い妻状態って」
「あの子は頑張り屋さんなのよ。まぁ、オームフェルトの奴がどうこう言ってくるけど、次男はまともなのよね。第一王女との仲人まで引き受けてくれたし」
「……見事に外堀埋められてますよね、ヴェイグ兄様」
多分、この裏で国王もヴェイグと第一王女の婚姻に手を貸しているのだろう。でも、シュトレオンも将来のことを見据えたとき、第二から第四王女の誰かと婚姻を結ぶことになる。ちなみに、現在の国王の子どもはこんな感じだ。
レクトール第一王子 :18歳
カエサル第二王子 :15歳
ティファーヌ第一王女 :14歳
エクセリア第二王女 : 9歳
アリスフィール第三王女: 6歳
アリーシャ第四王女 : 5歳
同い年ということを考えると第四王女だが、第三王女も一個年上なので可能性はある。なお、この時はまだグラハム伯爵からフィーナが婚約者になるということを知らされていない。
余談だが、シュトレオンとバルトフェルドが王都に飛んできた数日後に王妃が懐妊という知らせが王国全土を駆け巡ることになる。確か国王の年齢は40代半ばで、王妃は30代前半らしい。夫婦仲がよろしいようで何よりだと思う。本人たちの出会いは王城でのクリスマスパーティーだそうだ。
この世界、行事関連は転生前の日本にほぼ準じている。ただ、ティアット教の絡みで色々改変されていて、クリスマスは『神様がプレゼントを配る日』として枕元には箱を置く習慣がある。中身は魔道具だったり、魔石だったりと様々だ。
俺の場合は、箱を置いたら次の日の朝には箱に収まりきらないサイズの剣が入っていたりしたことがあった。しかも聖剣だったので即アイテムボックスにしまった。自分は悪くない判断をしたと思っている。次の年も聖剣だった。いや、在庫処理みたく押し付けないでよ。
そんなことを思ったら、サイゼリア様から『ヴァーニクスが酔った勢いで聖剣を作ったので、相談されたアリアーテ様が貴方に押し付けたようです。二人には正月のお供え物食べるの禁止と言いつけてあります』と説明があった。頑張れサイゼリア様。
年末年始だと、年越しそばならぬ年越しパスタで正月を迎え、家長が正月の郷土料理を振るうのが習わしである。今年は父が狩りで獲ってきたカメレオンボアと呼ばれる猪の煮込み料理。
ちなみに言っておくと、この魔物の難度はBなのだがその名の如く周囲の景色に溶け込む能力を持つ。どうやって捕まえたのかを聞くと『あいつら臀部は隠れないんだ』という単純なものだった。まさに『頭隠して尻隠さず』を体現した生き物である。
閑話休題。
「言わないでくれ。しかも男爵に叙爵したら王都第一騎士団への配属が決まってしまった」
「あれ? この前グラハム伯爵から聞いたときは、ジェームズ子爵の領主代官って聞きましたが?」
通常、王都騎士団の面々は爵位継承の点から貴族の次男や次女以下が多い。貴族の当主となるヴェイグが代官ではなく王都騎士団への配属になる理由……それを考えた先に行き着いた答えを口にした。
「第一王女絡みで国王が手を回したってところですかね?」
「おそらくそうね。でも、ホント5歳とは思えないわ」
「やっぱり、あの人の子どもだけはあるね」
「……ずっと思ってたんですけど、ミレーヌ母様って何者なんです?」
そう、皆がそろって口にする言葉がそれなのだ。無論、俺もある程度の推測はした。けれど、そのことを母親本人に聞いても『大した存在じゃないわ』としか答えてくれなかった。すると、レナリアが口を開いたのだった。
「あの子はね、グラハム伯爵の養女なの。少なくとも、エントワープ大陸出身の子ではないってぐらいしか私もエリスも、勿論夫も知らないの」
「どうして解ったんです? この大陸出身ではないって」
「瞳の色よ。エントワープ大陸では碧の瞳を持って生まれてくる子はいないの。レオンはあの子によく似たから、碧の瞳を持っているってわけ」
そこまでは気にしていなかったな。確かに、今まで関わってきた人たちだと赤・黄・緑・茶・灰色系統はあったが、母以外で自分と同じ碧の瞳を見たことは今のところ一度もない。色が近い人ならラスティ大司教ぐらいだったかな。あの人の瞳は濃紺だったはずだ。
「ちなみに、瞳の色で恩恵の差異とかはあるのですか?」
「これはハッキリとしてることじゃないけれど、純粋な色の瞳を持っているほど魔力の質が高くなるらしいって。あくまで可能性ってだけだから、事実とは言えないかもだけれど」
そんな都市伝説めいたものはおいておくとして、俺の母であるミレーヌは王立学院へ通っていた時にバルトフェルドと出会った。ミレーヌは学院五年間主席維持という才女だったが、気さくで人当たりの良い人間であったそうだ。
二人のプロポーズのエピソードを聞いたときは、さすがのシュトレオンも腹を抱えて悶絶した。何だよ、緊張しすぎて殺気出しちゃって気絶させたって。転生前の貴族のイメージがエクスプロージョンしてしまったぐらいだ。
話が逸れた。
だが、グラハム伯爵の養女という事実から、周囲の貴族の中には『出自の解らないものを妻として迎えるなど気が狂っている』などと揶揄するものも多かったが、彼はミレーヌを第三夫人として迎え、自らの実力と実績を持って確実に黙らせていった。
レナリアとエリスの二人が次々と子を成すのに、一向にその兆候がないミレーヌは少なからず焦ったのだが、それをうまくフォローしたのがレナリアとエリスで、二人は子育ての手伝いをミレーヌにも宛がったのだ。それで何とか落ち着きを取り戻した矢先にやっと子を成すことができた。それが俺……シュトレオン・フォン・アルジェントであると。
「子供ができたと聞いたときは本当に我が子のように喜んだわ。勿論、血は繋がってなくてもレオンは私の子でもあるのよ」
「……はい。聞かせてくれてありがとうございます、レナリア母様」
「あー、ホント可愛いわー。うちのジークなんて誰かに似て本命以外興味のない朴念仁だし、ヴェイグなんてほっとくと下着一丁だし、エリザベートなんて今日も今日とて山籠もりだから」
女の子が山籠もりって一体全体どうなってるんですかね……レナリアの言葉を聞いて、シュトレオンは改めてアルジェント家ってどこかがおかしいと思い始めるのであった。え? 俺? まだ人類の範疇に収まってると思うからセーフだと思いたい。ダメですか?
ひとしきり話を終えた後、唐突にジークフリードが口を開いた。
「レオン、少し手合わせしてくれないかい?」
さすがに真剣を使うわけにはいかないので、刃をつぶした剣での手合わせとなる。相手は王国で五指に入る剣士。でも、王国最強のフィーナといい、兄はまだ15歳だからまだ伸びしろがあるというのが怖い。
「いくよ…!」
そういって身体強化をかけて踏み込むジークフリード。まともに打ち合えばパワー負けしかねないので、こちらも身体強化に『同時並列加速』で対抗する。え? ステータスで考えたら勝てるんじゃないかって? 本気でやったら屋敷に被害が出るんだよ。察してくれ。
「おいおい、兄上についていけてるって……」
正直、王国で五指に入る人間のうち三人と遭遇している俺自身も異常なのはわかってるんだけれどね。フィーナは正確無比のスピード、ジェームズ子爵は苛烈なパワー、そして手合せしているジークフリードは剣速が凄まじく速い。とはいえ、現状ついていけてないスピードではない。
「面白いね。じゃあ、一気に3倍だ」
そう言うと、ジークフリードの周囲にオーラが纏われていく。あれは、おそらくヴァーニクスの加護の力だろう。赤いオーラで三倍って聞くと別の何かを思い起こしそうだったが、迫りくる剣にシュトレオンはその思考を振り払って、防御に徹した。
「ほう、すごいね。これでも割と本気なんだけれど……じゃあ、10倍と行こうか」
あ、これちょっと本気出さないとダメなやつだ。なので、シュトレオンは一気に『同時並列加速』を15倍にまで引き上げる。この魔法、5歳の体だと10倍以上は結構キツイ。なので、短期決戦に持ち込む選択をとった。俺はジークフリードの攻撃を回避すると、彼の剣を弾き飛ばして眼前に突き出した。
「いやー、参った。加護全開で使ったんだけどね」
「いえ、こっちも割とギリギリでしたよ」
フィールドぶっ壊す前提ならもう少し早かったかもしれないが……シュトレオンはふと、方角的に北側のほうが妙に澱んでいるような感じがした。二人に尋ねると、そのようなものは見えないと言っていたので、俺の見間違いかな……と思っていると、澱みがどんどん濃くなっていき、髑髏のようなものが姿を見せていた。大きさは約20メートルぐらい。
『………貴様、我が見えているのか?』
あ、なんか向こうもこちらを認識したようだ。シュトレオンがずっと空を見ていることに、ジークフリードとヴェイグはそろって首をかしげていた。どうやら、二人には見えていなくて、俺には見えているようだ。もしかして、霊媒体質? 金縛りとか御免なんだが!?
『丁度よい。貴様を乗っ取って野望の礎に』
させるか阿呆が。
シュトレオンはアイテムボックスから神刀・星凰を引っ張り出して抜き放ち、神剣展開で魔力を込めまくる。てめえが何者か知らんけど、俺は将来、快適なスローライフを送りたいんだ! その邪魔をするっていうんなら、俺の敵だ!!
「消え去って成仏しろ、怨念風情が!」
『ば、馬鹿な、わ、わが野望が……ああああああああ………』
全力で神刀・星凰を突き出すように振りかざし、放たれた光の奔流はその骸骨を真っ二つにした。特に復活する様子もなく、さっきまで見えていた澱みも完全に消えていた。それを確認すると、俺は息を吐いて武器を鞘に納めた。すると、キョトンとした表情の二人がいた。ああ、これは説明が必要な奴だわ。




