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白物魔家電 楓(しろものまかでん かえで)  作者: 菅康
第弐章 予備備品室の幽霊譚
12/115

巡り合わせ

楓の大活躍を経て、無事ご主人のミッションを達成させた、ですぅ。感謝していいん、ですよぉ。

それに、体操着は動きやすくて快適、ですよぉ。


** 放課後に舞台は移り、花咲以外の戦いが今、始まった**

 花咲と二人予備備品室から少し良さそうな机と椅子を運び出すことに成功した。だが代償として午前授業を3時限分消費してしまった。


 次の授業から、平静を装ってやり過ごそうとした。そんな俺達に対し4時限目の授業を受け持つのは担任教師だった。

 その前の授業をボイコットしていた事実は伝わっていなかったので、おとがめは無かった。


 運が良かったと二人で胸を撫で下ろしたが。

 その後、ボイコットした件は誰かの密告により担任教師に伝わる。結果、呼び出しを受けて昼食時間を説教で費やす羽目になった。


 楓は戻ってきてから、ずっと体操着で過ごしている。


 クラスメイトや教師も、誰一人として気にしている様子が無い。それが不思議だ。


 **

 巡り合わせ

 012


「待ちかねたわよ、随分と遠回(・・・)りをしてきたのね」


 全ての授業を終えて楓と予備備品室を訪れた時刻はすでに午後4時を過ぎていた。花咲は今朝の遅刻で職員室に呼び出されて、そのまま指導室へと連行されていった。


 俺はそれを廊下の影から見守り続けていたので遅れてしまった。


「すいません遅くなって。終わってからちょっと用事があり直ぐに来れませんでした。霧先先輩は早いですね」


「ええ、午後からどんどん気配が強く出始めたのよ。それが気になって一日中追いかけたりしたけど、見つからずじまいまのよね」


 放課後が近付くと、男子生徒の下半身(・・・)は動き出したようだ。


 しかし、この表現は誤解を生みそうだ。まるで変質者が現れたように聞こえてしまう…


 ちなみに異常あれば先輩から連絡が入るようにLINEのアドレスは交換してあった。だが連絡はなかった。LINEの登録アドレスで登録した女性は霧先先輩が初めてだ。決して連絡が無いことが寂しかった訳ではない。


「そうなんですか、大変でしたね。これから俺も頑張りますね」


「ありがとう、頼りにしているわね。それで、花咲はどうかしたの?」


「あいつは、指導室行きになりました」


「ん………へぇぇ! あれじゃあ今日はもう無理ね、別にいいけど」


 霧先先輩は、少し斜め上を見てから答えるまでに時間をかけていた。この行動が意味する事は……なんなのだろうか?

 それに花咲がこの場に居ない事については、どうでも良かったようだ。


「今日1日…いえ、半日ね、探っていてわかったことだけど、彼は恐らく失ったエネルギーを補給して回ってるみたい。楓さんに大部分を壊されて、その部分を回復しようとしている。これが私の予想」


「じゃあ、範囲が広すぎて何処を調べれば良いのか、見当もつきませんね」


「んー、そうねぇ、でも1番多かったところはわかっているのよ」


「それはどこですか?」


「体育館よ、授業終了後に生徒の移動が終われば現れて、次の授業が始まる前に消えるの、同じく音楽室もだけど、頻度が違うのかしら、体育館の方が圧倒的に多かったわ」


 なるほど、体育館は1回授業が終われば一定時間無人となる。それは都合が良いのだろう。そうと解ればさっそく移動をするべく霧先先輩にそう提案した。


「もしそうなら、授業も全て終わりましたので、見に行きますか?」


「ええ、そうしましょう。ところで楓さんは、なぜ体操着なのかしら? しかも私の……」


「動きやすいっす、です」


「そう、汚さないでね」


 やっと、楓の服装に気づいてくれる人がいた。


 あまりにも周りが誰も何も言わないので、俺がおかしいのかと思ったが、そうでは無かったようで安心をした。


「後で、必ず洗濯をして返します」


 借りたものを返すのは大事な事です。

 決して、自分の物にするつもりはありません。


「ですぅ」


 二人してお礼? を伝えて、霧先先輩に返却の約束をした。

 その後、先輩に先導され気配のあった体育館に向かった。



「あちゃあ、部活が始まっちゃいました、結構な数の生徒が活動してますね」


 すでに放課後の部活時間に入っていた。バレーボール部やバスケットボール部の生徒が活動をしている。あれだけ遅くなればそれもそうか。


 動き回る生徒の動きを見ていると急に楓がはしゃぎだした。

 そして、止める間もなく走り出す。


「おりゃー、インターセプトっす、です」


「なにぃ!? よし皆んな囲めー!!」


 突然の体操着姿の楓に対し、冷静にバスケ部の部員は包囲網を形成した。孤立した楓は、独りでドリブルを行いゴールを目指す。


 そして、その前に大柄な女子バスケ部員が立ち塞がった!


 危うし楓!? 楓の快進撃は最早ここまでか。


「させないっす、ですぅ。おりゃぁ」


 楓は自身の"残像"を残してバスケ部員の脇を回り込んだ!!

 そして、低身長から考えられない程の跳躍を見せる。


 そのまま素晴らしく華麗なダンクシュートを決めたぁ!?



 良かったな楽しそうで。俺は霧先先輩と先に行く事にする。


「じゃあ、先輩。用具室から調べますか?」


「あれは、いいのかしら?」


 霧先先輩は楓を指差して聞いてくる。

 それに対する俺の答えはこうだ。


「いいんです、用があれば勝手に来ますから。自由にさせときましょう」


 バスケ部の生徒とハイタッチをしている楓を放置して用具室に向かった。霧先先輩は後ろを振り返りながらも、こちらに付いてきてくれた。


 **


 用具室内に入る。部活が始まる前、それぞれが道具を持ち出しているようで雑多な室内に歯抜けのようなスペースが点在している。


「特に誰もいないようですね?」


「いえ、千丈くん。ここを見て」


 先輩は床の一部を指差した。

 そこには、ハッキリとした足跡が奥の扉に向かっているのが見える。


「奥にもう1つ扉がある?」


 なんだろう? こんなの扉の存在を知らなかった。普段は保管器具の影になっていて存在に気づかなかった。


「そうね、あの扉の奥が怪しいわね」


 霧先先輩は、足を進めて扉に手をかけた。


「開かないわね、鍵がかかってるわ」


「そうですか、壊すなら楓を呼びますけど。こんな所に扉があったんですね」


「壊すとか、そこまでしなくてもいいわよ。それに私も知らなかったわよ。文化部は滅多にここに来ないから、やっぱりここには居ないようね、何もないわ」


「帰宅部の俺もこの扉は知らなかったです。確かに、ここには痕跡らしきものは足跡ぐらいしかないですね」


 霧先先輩は無言で俺を見つめてくる。

 誰もいない用具室に男女が二人っきり。


 関係ないが"ドキドキ"します。


「ねえ、千丈くん歴史部に入らない?」


「えっと歴史部ですか?」


 なんだ部活の勧誘か……


「そうよ、今まで部活動に所属していなかったでしょう。お薦めよ」


 部活は面倒くさいな。急にどうしたんだろう?


「すいません、今は考えてないです」


「いいのよ、今すぐでなくて、きっとあなたの力になれるから考えておいてくれればいいの」


 ん? 力になれるからとはどういった意味なんだろう? なんか含みのある言い方だな。一応考えてみるか。先輩美人だし……


「はい、考えときます…」


 俺の返事を聞いた霧先先輩は、笑顔で用具室の入り口を向いた。


「じゃあ、次の場所に行きましょう」


 そう言って、用具室を出て行こうとしている。奥の扉については特に何も言わないのできっと平気なんだろう。その時、入り口の扉に手をかけた状態で霧先先輩の動きが止まる。


「まさか?」


「どうかしましたか?」


 先輩の表情は青白くなって硬直している。急な変化に、なにか不吉な気配を感じて俺も緊張する。


「千丈くん、旧校舎の方で気配があるわ、しかも、何ヵ所も同時に感じるのよ」


「何ヵ所もですか?」


 何ヵ所もって、あの男子生徒が、バラバラにでもなったのだろうか? 早く確認をしなくては。


「早く行きましょう、対応を急がないと、何かが起き始めているわ」


「ええ、そうしましょう」


 そして、俺達が目にしたのはバスケ部に混じって光輝く汗と共にコート内を所狭しと走り回る楓の姿だった。

 動きが素早い、というレベルは超えて最早数人の楓が居るような、というか! 分裂をしている!?


 目前から一人楓が消えて、また違う場所に楓がいる。

 楓から楓にパスが通り、楓がダンクシュートを決めた。おいおい!?


 今の得点で決着がついたようだ。チームメイト達は、おおはしゃぎで楓を取り囲んでいる。


 あれで良いのだろうかと疑問を抱く。分身はルールブックに記載が無いだろうが、絶対に反則技だろう? 相手チームも悔しがって、円陣を組んで次は負けないぞと楓を睨んでいる。


 ふと、視線を感じて横を見ると霧先先輩と目が合った。


「楽しそうね、私達は早くいきましょう」


「そうですね、そうしましょう」


 霧先あかり先輩と初めて意気投合した瞬間だった。

 こうして先輩と二人、体育館を後にして旧校舎に急いだ。


 まさに、体育館が割れんほどの歓声を後にして。

なお、最新投稿は、Twitterで投稿時期をお知らせして行きます、です。http://twitter.com/yasusuga9

ご意見、ご感想は"楓"が責任を持ってご主人に良いことだけお伝えするっす、ですよぅ。

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