第三話:全知と全能、揃って『勇者』に選ばれる
第三話:全知と全能、揃って『勇者』に選ばれる
シャドウウルフの群れを木剣一振りで吹き飛ばしたあの日から、僕たちは、村の人々から「災いの子」と呼ばれることはなくなりいつしか「村の守護神と小さな参謀」と呼ばれるようになった。
そして、僕たちが12歳を迎えた年のことだ。
空を突く巨大な黒い柱とともに魔王が復活し、王国全土に『勇者選定の試練』が公示された。
王国最高の魔導具「真実の鏡」が、国中から最も優れし者を自動で選び出し、『勇者』の印を授けるという儀式だ。
「アストリア家より、二名!」
王都から派遣された聖騎士たちが、僕たちの暮らす館へとやってきた。村中が見守る中、重厚な鏡の前に僕とエリザが並ばされる。
(……やれやれ。行くまでもないんだがな)
僕の全知の頭脳は、すでに結末を理解していた。
本来、勇者とは「優れた魔力」と「高い知能」を併せ持つ単一の個人に授けられるもの。だが、神が僕たちに施した悪戯のようなステータスの偏りは、王国の法則すらもバグらせる。
「では、第一の者……エリザ・アストリア! 鏡に手をかざすがいい!」
エリザが無邪気に鏡へ手をかざした。
ガアアァァン!!
鏡が叫びのような音を立て、目も眩むような黄金の光を放つ。
「な、なんだこの腕力数値は!? 測定不能……!? 過去のどの勇者よりも腕力と魔力が高いぞ! 間違いなく彼女が『勇者』だ!」
聖騎士たちが歓声を上げる。しかし、鏡に浮かび上がった詳細なステータスを見た瞬間、彼らの顔色が青ざめた。
『腕力:測定不能 / 魔力:測定不能 / 知能:2』
「ち……知力2!? 虫レベルではないか!? 待て、会話はできるのか!?」
「ねえねえジン、鏡からキラキラ出ててきれいだね! 割って遊んでいい?」
「割るな。絶対に触るな」
「はい……」
頭を抱える騎士たちを横目に、僕は溜息をついて前に出た。
「次は僕だ」
僕が鏡に触れた瞬間、今度は静寂が部屋を包んだ。光は一切発しない。
ただ、鏡の表面に見たこともない古代文字がびっしりと浮かび上がる。
『腕力:0 / 魔力:0 / 知能:測定不能(全知)』
「こ、こちらは筋力も魔力も皆無……だが、世界の理を全て把握している……!?」
騎士たちはガタガタと震え出した。
腕力カンスト・知能2の少女と、知能カンスト・腕力ゼロの少年。
一枚の鏡が導き出した結論は、前代未聞の【二人で一組の勇者】という判定だった。
「ひ、二人合わせて……完璧な『勇者』ということか……!?」
聖騎士の長が膝をつき、震える手で二つの『勇者の紋章』を差し出してきた。
エリザの右手に剣の紋章が、僕の左手に書の紋章が刻まれる。
「やったねジン! 私たち、勇者なんだって! 勇者って美味しいの?」
「食べ物じゃない。……魔王という、世界で一番強い虫を退治する仕事だ」
「虫!? わたし、叩き潰すの得意だよ!」
目を輝かせるエリザの頭を、僕はそっと撫でた。
魔王城の結界の貼り方、構造、魔王の弱点——僕の頭の中にはすでに討伐までの最短ルートが描かれている。あとは、この世界最強の暴走機関車を正しく誘導するだけだ。
「行くぞ、エリザ。僕たちの初陣だ」
「うん! ジンの言った通りに殴ってくるね!」
万知の参謀と、脳筋の破壊神。
二人の歪で最強な『勇者』の旅が、ついに始まった。




