第二話:世界一賢い参謀と、世界一バカな破壊神
幼少期の僕たちの日常は、まさに壊劇そのものだった。
「ねえ、これ食べていい?」
「エリザ、それは毒キノコだ。食べた瞬間に神経が麻痺する」
「あむ」
「話を聞け!!」
僕の知識を無視して噛みついたエリザは、案の定ピクピクと痙攣し始めた。僕は溜息をつきながら、庭に生えている薬草の組み合わせを指示し、侍女に解毒剤を作らせて飲ませた。
「あぶないあぶない! やっぱりお前すごいな!」
「すごいんじゃない。君が無知なだけだ……」
エリザの規格外の力は、成長するにつれて手に負えなくなっていった。
5歳の頃、彼女がくしゃみをしただけで屋敷の離れが半壊した。彼女が怒って地面を叩けば小さな地震が起き、木に登れば木ごと引き抜いて戻ってきた。
村の人々は彼女の破壊力を恐れ、「災いの子」と囁き始めた。
ある日、村の近くの森に、中級魔物「ブラックウルフ」の群れが現れた。
大人の騎士たちでも苦戦する相手。それらが村の防衛線を突破し、幼い僕とエリザが遊んでいた空き地へと雪崩れ込んできた。
「ひっ……!」
僕の頭脳は瞬時に計算を終える。僕の物理的な生存確率は0.001%。逃げ道なし。
知識はあっても、それを実行する筋力が僕には一切ない。
その時、僕の前に小さな背中が割り込んだ。
「大丈夫! お前は私が守る!」
エリザは木彫りの練習用剣を構えた。だが、知識のない彼女は構えも滅茶苦茶で、魔物の弱点も知らない。ただ闇雲に振るえば、魔物の素早い動きにかわされて終わりだ。
「エリザ、僕の言う通りに動け!」
「えっ?」
「左足の軸を3センチ後ろへ! 息を吐き切り、敵が跳び上がった瞬間に地面を蹴って真上へ振れ!」
「よくわかんないけど……やってみる!」
僕の頭脳が弾き出した「最小の力で最大の威力を叩き込む完璧な弾道」。
エリザはその通りに、ただ圧倒的な馬力で体を動かした。
ズガァァァン!!
木剣が空気を裂く音ではない。爆発音だった。
エリザの一撃はブラックウルフの爪を砕き、そのまま衝撃波となって後ろの森の木々ごと魔物の群れを吹き飛ばした。
「……すごーい! 一発で飛んでった!」
エリザは無邪気に笑いながら、ボロボロになった木剣を見て首をかしげている。
僕は腰を抜かしたまま、天井を見上げた。
(……なるほど。そういうことか)
僕には世界を解き明かす知恵があるが、それを形にする力がない。
彼女には世界を破壊する力があるが、それを扱う知恵がない。
「ねえ、次はあっちの大きなやつを殴ってきていい?」
「だめだ」




