ふたりの青 4-1
ちょっと昔話。
これは俺が小学4年生の時の話。当然この時、透花はうちの町にはいない。
この日は今起きている戦争について知ろう、という授業があった。小学校高学年になったということで4年生以降は世界情勢にも最低限知るための授業が展開されていた。
この日は戦争から身を守るため(知ったところでおそらく即死だから本当は教養的な目的だと思う)にいま世界で用いられている兵器について学習した。
「今使われている爆弾は主に2つある。一つ目はお前たちがおそらく爆弾と聞いて思い浮かぶやつ。落としたら大きな爆発をして人間の命を奪っていくやつだ」
もちろんなぜか平和に暮らせている俺の町では爆弾が落ちたことがないので実際はどうかは知らないが絵とかでは見たことがある。
「小さいやつとか大きいやつとかあるが正直全部一緒だ。爆発の範囲が大きいかどうか」
正直こっちは想像通り過ぎて面白くなかった。
「そしてもう一つ恐ろしいのがこれだ。新型生物兵器」
先生は黒板にでかでかと写真を張った。直方体の箱に飛行機が付いただけの爆撃機、そこから小さい球体が落ちていくらしい。50年前に誕生した兵器でも「新型」とつくのかと思った。人間で言ったら生まれてからおじさんになるくらいの時間だから。
「この爆弾はこれまでと違って人がいるところに直接投下しない」
一体どういう方法でその爆弾が人を殺すのかと写真から想像したが見当もつかなかった。
「上空で爆発させてとあるものを広範囲に散布する。それが生物由来の感染する目に見えない物質だ」
一体どんな生物がそんなに強い毒を持っているのかと思った。それとも自然界にはいない品種改良によって生まれた特殊な生物が持っているものなのか。いずれにせよ変なものを発見したなと思った。
「これを吸い込んだりすると感染してしまう。恐ろしいのはこれに感染したら最後、絶対に数日後に死ぬ」
クラス中がどよっとした。最初の奴はもはや当たらなければ即死は免れるし、もしかしたら当たってもやけどで済んだりするかもしれない。要するに直撃以外では死の担保がされないということだ。それが二つ目の奴にはその可能性すら奪っていく。
「逃げる方法はないんですか?」
「正直言って、上空で爆破されたら逃げる方法はない。どうしようもない」
絶望がクラスを包んでいた気がした。誰かが質問した。
「感染ってことは人から人へと病気みたいに感染はしますか?」
「する」
感染してしまって、何とか生き延びようとしても生き延びた先で周りの人間をも殺してしまう能力を与えるとは、なんと残酷なと思った。
「感染経路はたったの一つ。簡単に言うと『症状が出た人の粘液に触れること』。詳しく言うと感染した人の粘液が傷口に触れたり、その粘液を飲んじゃったりすると感染する」
「先生、粘液って例えばどんなのがありますか」
「わかりやすいところで言えば唾液や鼻水とかだろう」
小学生に対してあげられる例はおそらくこれしかないだろう。子供に対して気を使わなきゃいけない大人の大変さも今ならわかる。
また一人、手を挙げた。
「発症している人の見分け方は?」
「発症しているかの見分け方は舌に青い斑点があるかないか。これしかない」
舌なんかそう簡単に見ることができないのだからもはや判別の仕方は無いに等しいのではないのかと思った。医者じゃないのなら、舌を見せてもいい関係になれるのは友人か家族か恋人かだろうから。
「これを理由にしていじめとか絶対にするんじゃないぞ。この町にいる人は絶対に感染していないからな」
かなり強い口調でくぎを刺した。おそらく過去にそういったことをしたやつがいたのだろう。
「いろいろと説明したが、正直に言って先生も全然わからん。が、一応今日教えたことは覚えていてほしい」
一人が言った。
「先生なのにわからないこともあるの?」
先生はそれに対し怒らずに答える。
「そりゃもちろん。いっぱいある。俺はお前のお母さんの誕生日とか知らないぞ」
「じゃあ教えてあげる。9月30日だよ」
先生はにっこりとして答えてくれた生徒に言った。
「お前さんはどうやってそれを知った?」
「お母さんに教えてもらったよ」
狙い通りの解答が飛んできたのか、いっそうにっこりとして返した。
「そう。誰かに教えてもらわないと知識ってのは身につかないんだ。それが人じゃなくても本だって教えてくれる」
「だからみんな、勉強頑張ろう」
なんだか上手くまとめられてしまった。すべてを勉強につなげる教師の力量もすごい。
クラスの皆は勉強嫌だ、やりたくない、だのと少し騒がしくなってしまったので先生がこの授業の締めに大事なことをもう一度言った。
「何はともあれ、舌に青い点々ができた人とはキスとかするんじゃないぞ」




