ep72 蝕炎
ガフの放った断垓斬刃はヤルグに当たると大爆発を起こし、煙を撒き散らした。
ガフの元まで爆風と瓦礫の破片が届く。
ガフは違和感を感じた。
ガフの本当の主君である嚴王アモンが生み出した断垓斬刃は、正確には魔法ではない。
自身の技量を具現化し、衝撃波として飛ばす技だ。つまり属性エネルギーは含んでいない。故に魔法とぶつかれば、圧倒的な力の差がない限り、魔法を切り裂いて進む。
それは物質に於いても同じだ。ヤルグの身体や瓦礫程度であれば、切り裂くか、弾き飛ばす。爆発などしないはずだった。
ガフはもう一度、断垓斬刃を放った。
すると今度はヤルグの元へ届く前に、煙の中から飛んできた白炎の塊に当たり、爆発を起こす。
「何だと・・・」
煙の晴れた先にヤルグが立っていた。
身体は傷だらけだった。だが、ガフとロムエルにつけられた左肩の傷と左腕全体が白く光っている。
それは輝きではなく、白熱だった。
ヤルグの左腕は白く光って見えるほどの高熱を宿していた。
降り注ぐ雨が腕に当たる度に蒸発し、湯気を上げている。
「貴様。それは一体・・・」ガフが問う。
「さぁな。俺にも分からん力さ。」
「結論から言えば失敗だね。」
「何だと?」
ミリオンから貰った治験薬を飲み。数日眠っていたヤルグは目覚めてサッカを出る前にミリオンの診察を受けていた。
「原因はふたつ。一つは、やっぱりあんたが普通の人間ではなかった事。もう一つは大きな傷を負った直後だった事だね。」
「俺が眠っていた数日は無駄になったという事か。」
「いや、そうでもないよ。少しおかしな事になってる。」
「おかしな事だと?」
「どうやら私の薬は、あんたの傷に影響を及ぼしたみたいなんだ。」
「傷に・・・」ヤルグは肩の傷に触れた。
「魔法ってやつは宝玉なんかを触媒にして威力を増すことがあるだろう?どうも調べた感じ、あんたの傷を触媒にしているみたいなんだよ。」
「どういう意味だ?」
「そのままの意味さ。あんたが致命傷になるような傷を負った時、その傷を触媒にして高威力の白炎を生み出すって事だね。」
「致命傷を負っている時に力が発揮されるなど、意味があるのか?」
「良いじゃないか。絶体絶命の時に強くなるなんてヒーローみたいでカッコイイだろう?」
「そもそも絶体絶命にならん方が良いだろう?」
「まぁ、それは考え方次第だね。兎に角、あんたの負った傷を更に蝕む事で得れる力さ。言わば、蝕炎ってとこだね。」
「蝕炎・・・」
「勿論、使う時は注意するんだね。諸刃の剣だよ。使える時点で致命傷を負ってるわけだ。長く使えば、その分あんたの命の灯も小さくなるよ。」
ガフはヤルグに手を翳し、雷の魔法を放った。
ヤルグの迎え撃つように白炎を放つ。
両者の魔法がぶつかるが爆発はしなかった。
白炎はガフの雷を呑み込み、そのままガフのもとまで届く。
避けたガフの後方で大きな爆発が起きた。
「なるほど、確かに凄まじい力だな。だが、貴様の方が魔力が高いことは始めから分かっていた事だ。こちらはこちらの本分で行かしてもらう。」
言うと同時にガフが跳び込み、切り掛かる。
ヤルグはその一撃を左手で受けた。
ヤルグの腕に当たった剣が赤みを帯び、ゆっくりと溶け出す。
ガフは驚き、剣を引くと後方に跳んで距離を取った。
「剣を溶かす程の熱を人間の身体に宿すだと・・・」
ヤルグは剣を構える。
「残念だが、長くはやってられん。さっさと終わらせよう。」
「こちらもそのつもりだ。」
ガフが空に雷撃を放つと呼び寄せられるように暗雲が集まり、今までない強力な雷が落ちた。
ガフに纏わる雷が徐々に黒く染まっていく。
ヤルグはフッと笑った。
「黒雷・・・自力で魔纏に辿り着くとはな。」
ヤルグの剣に白炎が纏わる。
「一撃で決める。」
「望むところだ。」
両者が両手で剣を構え、一気に駆けだす。
ぶつかる寸前で両者は切り抜ける。
背中で向かい合い、振りぬいた形のまま、二人は止まった。
雨の音だけが響いた。
「ぐはっ!」
身体から血を噴き出したヤルグが剣で身体を支えた。
遅れてガフが片膝をつく。鎧の隙間から血が流れだした。
「この俺がな・・・」
ガフは地面に付いた手の中で雷魔法を不安定に凝縮させていく。
「止めておけ。」
ヤルグは前を見たまま、振り向かずに言った。
その言葉にガフの動きが止まる。
「貴様は、少なくとも俺が戦った騎士の中で最も強い男だ。外道にならず、騎士として死んでゆけ。」
ガフはフッと笑い、手の中の魔法を消した。
「俺が・・・未熟だったという・・・こと・・・か。」
ガフが地面に倒れた。
ヤルグの左腕が元に戻っていく。
ガフとの戦いで失った体力に加え、身体の内側から焼き焦がすような痛みが走る。
ヤルグもまた、糸が切れるようにその場に倒れた。




