ep48 修練
ファーランに戻った一行をヴィクトールが出迎えた。
「団長、よくぞご無事で。」
「ロズウッド様が戻られたのだ、団長は止してくれ。」
「すみません。言いなれてるものですから・・・」
「しかし、ロズウッド様が無事で何よりだ。」
「ムビアナで深手を負ったそうですが、女の僧侶に助けられ、治療を受けたそうです。」
「僧侶?何者だ?」
「分かりません。気付いた時には居なくなっていたそうです。」
「気になるな・・・それで、ノワルドでは一体何が起きたんだ?」
「あの後一度、私もノワルドに戻ったのですが、よく分かりませんでした。ロズウッド様の話では、あの謎の魔法は聖騎士とギザ様によって起こされたと。」
「聖騎士?」隣のオリビアが尋ねる。
「街で戦っていた謎の騎士は騒動の後に姿を消したのですが、その者の従者だったエミリアと言うシスターがおりまして、彼女曰く、その騎士は神に選ばれた聖騎士だと・・・」
「その者の名は?」
ここにはオリビアとライムもいた。実力のある騎士ならば、誰かが知っているかもしれない。
「それが・・・」ヴィクトールはレックスをチラッと見た。
「アレンと言うそうです。」
「聖騎士アレン・・・」
レックスは驚き呟いた。
「まぁ、そこまで珍しい名でもありませんので、偶然かもしれません。」
「魔王ヤルグを倒した勇者と同じ名を持つ、神に選ばれた騎士・・・」
ベイルが呟いた時。
「ぐうぅぅぅ」
お腹のなる音だった。
皆が音の先を見る。そこにいたのはフィーナだった。
皆の顔を見たフィーナは顔を赤くして両手を前で振った。
「違う!違う!私じゃないです!」
「ごめん、私だわ。」
フィーナの後ろにいたライムが言った。
「なんか、取り込んでるとこ悪いんだけど、食堂とかないかしら?」
「すみません。皆さん行軍でお疲れでしたね。今後の動向についてはまた明日にでも話し合いましょう。」
その一言で皆は解散した。
その夜、レックスはベッドで天井を見上げていた。
旅に出てからそれほど多くの時間は経っていないが、様々な事があった。
魔王軍との戦い、バルドス、リベル。
湿原の主は魔王ヤルグが復活したと言っていた。
そして、聖騎士アレンの出現。
彼はガイラックを倒し、世界を平和に導くのだろうか?
それとも復活したヤルグを倒すため?
この先の戦いは更に困難をなるのだろう。
レックス自身、特殊な力を持つわけでない。ベイルやオリビアのように百戦錬磨の騎士でもない。
ただ勇者の血筋に生まれただけ・・・
もっと力をつけなければ。
いつか自分が足を引っ張ってしまうのではないか、そんな不安にかられながら、レックスは眠れぬ夜を過ごした。
翌朝、ベイル達が次の作戦について話し合いをしていたが、レックスは中庭でライムと対峙していた。
「本当に本気でやっていいの?」構えながらライムが訊いた。
「お願いします。」
とにかく鍛練がしたかった。ガイラックやリベルの強さは分からない、だがバルドスと渡り合えなければ、勝てる見込みなど無かった。
「勇者様、がんばれー!」
レックスの気持ちなど知らないフィーナが楽しそうに声援を送る。
「行くよ!」
「はい!」
レックスも構える。手にするのは勿論、模造刀だ。
走り出したライムの動きに合わせて、レックスが一撃を入れる。
ライムはギリギリを見極めて躱すと、蹴りを放つ。
レックスを何とか避けて、切り払うように剣を振ったが、そこにライムの姿はなく、剣は空を切った。
次の瞬間、レックスの身体が浮く。ライムの足払いを受けたのだ。
地面に仰向けに倒れたレックスの顔の目の前に、ライムの拳が寸止めで止まる。
「私の勝ちぃ」ライムは笑顔で言った。
「も、もう一度お願いします。」
「いいよ。」そう言ってライムが手を貸し、レックスを起こした。
その後もライムとの模擬戦を続けたが、レックスはその速さに翻弄され続けた。
戦場に立つ者たちは個人差はあれど鎧を纏う。それは魔物であっても同じで、頭、胸、下腹部など急所になり得る箇所には何かしら刃を防ぐものを身に着ける。故に速度は落ちるものだ。もともと刃を通さぬような硬い皮膚を持つ魔物は、そもそもの動きが遅いことが多い。
その速さに慣れているレックスにとって、軽装で防ぐことよりも避けることに特化した格闘家の動きについて行くのは難しかった。
「目に頼り過ぎてるね。」
何度目かの敗戦を喫したレックスにライムが言った。
「大事なのは流れを読むことだよ。」
「流れを・・・読む。」
「うん。もちろん身体の流れもあるけど、闘いの中では色んな物が流れる。空気、気配、匂い、魔力。目だけで追えば、惑わされやすいし、死角も生まれやすい。」
「なるほど・・・」
「と言っても、私も剣士の戦い方は知らないから、参考にはならないかも知れないけどね。」
「いえ、勉強になりました。良ければまた訓練して下さい。」
「もちろん!と言うか私としても、これから戦うのは武器を持ってる奴がメインだろうから。練習相手になってくれると助かるよ。」
二人が模擬戦を終えて休んでいるところへ、ベイルがやって来た。
「おや、もう終わったのか。」
二人が訓練することは、先に伝えていた。
「ベイルさんもやりますか?」ライムが訊く。
「いや、止めておくよ。王女様を傷つけてはロイ王子に何を言われるか分からんからな。」
「むしろ兄上にはいつもボコボコにされてたよ。」
3人が笑いあっているところへフィーナがやって来る。
「次の作戦は決まったんですか?」
「ああ、忘れてた。我々はボルム城に行くことになった。」
「ギルメル砦ではないんですか?」
「ギルメルにも兵は送るが、今朝、偵察兵からの報告があってな。」
ベイルの声のトーンが少し下がった。
「何かあったのですか?」とレックス。
「ボルム城にリベルが現れたらしい。」
「・・・リベル。」ライムが呟いた。
ミカゲの事を思い、拳を握りしめた。
「ギルメルは手薄のようだから牽制程度に兵を送り、本隊でボルムを叩く。リベルが相手となれば、今まで様にはいかないかも知れない。しっかり準備をしておいてくれ。」




