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duality  作者: eight
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ep47 悠久の時

サッカに戻ったヤルグはゼムを呼んだ。

肩の痛みは酷くなっている。時間の経過よりも、その状態で崖を登った事が原因だろう。


ゼムが肩から血が滲み出ているヤルグを見て驚いた。

「あんた、一体どうしたんだ!」

「ちょっとな。医者はいるか?縫合が必要だ。勿論、金は払う。」

「ああ、こっちだ。一人で歩けるか?」

ヤルグは大丈夫と手を振り、ゼムについていった。


案内された診療所に入ると一人の女がいた。

「ミリアン、こいつを診てやってくれ。」

「これはまた派手にやったねぇ。」

ミリアンと呼ばれた女は大して驚きもせず、答えた。

銀色の髪を後頭部で団子に纏め、切れ長の目をしたミリアンは少し浮世離れした顔立ちだった。


剣による裂傷に慣れているのか、手際良く治療を進めている。

「良かったね。傷は深いが、骨はやられてないよ。」

消毒を終え、縫い針を手にしたミリアンが言う。

「あんたがヤルグなんだろ?」

「そうだ。」

この町で正体を隠す必要はない。ある意味気楽だった。

「じゃあ痛みには強い方だね。」

「どういう意味だ?」

「いやぁね、戦争だろ?人間も魔物も皆怪我しちまうから、麻酔薬が足りてないんだよ。そのままでも構わないかい?」

「そういう事か。構わん、やれ。」

「じゃ、遠慮なく。」

ミリアンが針を刺すとヤルグは少し顔をしかめた。

戦いの中で傷を負うことはままある。痛みに弱いことはないが、それでも傷口を弄られるのは、それ相応の痛みが生じる。

「おぉ、凄い凄い。動かないなんて偉いねえ。」

子供をあやすような口振りは癪に障ったが、ヤルグは無言のまま治療を受けた。


痛みに慣れた頃、ヤルグは診療所に入った時から気になっていた疑問を口にした。

「この世界にもエルフがいたとはな。」

特徴的な長い耳を魔法で隠しても、ヤルグには分かる。

ミリアンの動きが一瞬止まったが、何事も無かったようにすぐ治療に戻った。

「ずっと昔からいるさ。あんたがここを侵攻してた時も町医者をしていたよ。」

「そうなのか?」

ヤルグの知る限り、地上でエルフを見た事は無かった。

「と言っても、私以外は皆、里に引きこもってるけどね。」

ミリアンは新しい縫い針を取りながら言う。

「場所は教えないけど、エルフの魔法でしか入れない里があるのさ。大昔は人間との交流もあったそうだけど、今は皆()っちまった。」


「何故だ?」

「あんたなら分かるだろ?私たちエルフは長命だ。」

エルフは魔界の中でも長く生きることで知られている。

「短命な人間と付き合いを持てば、否が応でも死に触れる。信じた者、愛した者、共に歩んだ者。皆の死に触れる・・・」


「人間は精々100年か・・・」

ヤルグが魔王だった時の人間はもういない。そう考えた時のことを思い出した。

「そんな事を繰り返してるとね。皆狂っちまうんだよ。そういう連中は大抵最後には。」そう言って、首を切るように手を振った。

「自ら死んじまうのさ・・・だから交流を断つ。得なければ、失う事も無い。哀しき理論だね。」


「お前さんは大丈夫なのか?」

「私には医療がある。長命な奴は研究に没頭しちまうのが一番なのさ。長命であることの利点を活かせる。それに医者なんて長くやればやるほど、死なんて物はただ事象でしかなくなるのさ。」

「なるほどな。」

「まぁ、結局のところ。死に慣れた私も、とっくに狂っちまってるのかもしれないけどね・・・」

ヤルグは何も言わなかった。

死は、ただの事象。ある意味では戦争に身を投じる自分にも当てはまるのかもしれない。

そして、二人は無言のまま治療だけが続いた。




「さぁ、終わったよ。」包帯を巻き終えたミリアンが言う。

「しばらくはあまり激しく動かさないことだね。」

「世話になったな。」

「気にすることは無いさ。私も久々に()()()()()話が出来てよかったよ。」

「お前さんは薬品にも精通してるのか?」

「物理医療、魔法医療、薬剤学。どれもやってるよ。」

「エルドポーションは作れるか?」

ノワルドでのあの時、予想以上の力が出せた。

「残念ながらあれは錬金術の管轄だね。錬金術(あんなもん)にまで手を出したら、頭がパンクしちまうよ。」

「そうか。」

「魔力を上げたいのかい?」

「ああ、倒さねばならん奴がいるんでな。」

「そういう事なら・・・」

ミリアンは立ち上がると、一つの戸棚を開けた。中には瓶に入ったポーションが並んでいた。

「凄いな。」

「研究が本業だからね。どれも店じゃ売ってない試験薬さ。」

ミリアンはその中から一つのポーションを取り出して、ヤルグに渡した。

「理論上は基礎魔力を上げる薬さ。エルドポーション程、爆発的に上がるもんじゃないが、一時的ではなく恒久的に上がる。」

「理論上とはどういう意味だ?」

「文字通りの意味さ。本業とは言ったものの、一人で勝手に研究してるだけだからね。治験なんてものは簡単に出来ないさ。」

ヤルグは手にしたポーションを見た。とはいえ見たところで判断は出来ない。

「上手くいかなったらどうなる?」

ミリアンは少し考えてから、笑顔で言った。


「私の研究が捗る。」


どの道。今より魔力は必要だ。

「飲もう。」

ヤルグはミリアンの()()を信じることにした。

「そういう事なら治験代として、さっきの施術はタダでいいよ。だけど薬の結果は教えてもらうよ。」

「分かった。」

ポーションの蓋を開けようとしたヤルグをミリアンが止める。

「おっと!ここで飲んじゃいけないよ。」

「何故だ?」

「何日か宿を取って、ベッドの上で飲みな。」

困惑しているヤルグに更に続けた。

「普通の人間なら一週間は眠り続けるはずさ。あんたは普通の人間じゃないが、それでも眠る覚悟はしておいた方が良い。」


ヤルグはその夜、深い眠りについた。


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