ep44 共存
ヤルグはアリアンの北西に向かっていた。
四天王ルドミナがいる港町グレイス。だが先に寄るところがある。
そこへ行くために必要な物を得るため、町を探していた。
地図で確認した町が見えてきた。
グレイスの南に位置する小さな町「サッカ」
近づくと2人の門番が立っていた。
(人間の門番だと?)
ルドミナのいるグレイスに一番近い町が、まだ支配下に置かれていないはずがない。
ヤルグは警戒しながらも近づく。
門番が槍を重ねて、道を塞ぐ。
「何者だ!」
「ただの旅人だ。」
「人間軍の者か?」
「いや、しかし1人だぞ・・・」
門番たちが困惑していると、奥からやってきた魔物がヤルグを一瞥した。
「ヤルグだな?」
ヤルグは即座に剣を抜いた。
門番は慌てて構えたが、腰が引けていた。明らかに素人だった。
魔物は両手を前に出し、ヤルグを制止する。
「待て待て、そう言うつもりではない。あんたは通せと通達が出ている。」
「そ、そうなのか?」門番が魔物に訊く。
「ああ、そういう話だ。」
門番は武器を引き、魔物も何事も無かったかのようにどこかへ行った。
町に入ったヤルグの前に異様な光景が映る。
人間と魔物がそれぞれ普通に生活をしている。
人間が魔物相手に商いをし、人間の子供を泣かせた魔物の子供を親の魔物が引っ叩いている。談笑している人間と魔物もいた。
ヤルグは混乱した。
人間の門番を使うのは分からなくもない。人間軍が攻めてきた時に油断させ、攻撃を躊躇わせる。
だがこの光景の説明はつかなかった。
(共存しているというのか?)
「あんたがヤルグかい?」後ろから声を掛けられた。
振り向くと緑の鱗を持つリザードマンが立っていた。
「貴様は?」ヤルグは一応、剣に手をかけた。
「ここを任されてるゼムってもんだ。事情が知りたいだろ?着いてきな。」
剣に手をかけた事に警戒するわけでもなく、ゼムはある建物に向かっていく。
ヤルグは少し考え、彼に着いていった。
着いたのは一軒の酒場だった。中に入るとゼムがカウンターに座った。
昼間の為、まだ少ないが数名の人間と魔物が酒を飲んでいた。
ヤルグがカウンターに座るとゼムが酒を差し出すが、それを断った。
状況が掴めない以上、酔うのは危険だ。
ゼムは「そうかい。」と言うと自身の酒を一気に飲み干した。
「この町はどうなっている?」
「ああ、それがな・・・」
そうしてゼムはルドミナの考えを説明した。
人間と魔物の共生。ヤルグに理解し難い事であったが、この町の者たちを見れば、そこまで絵空事でもないらしい。
「魔物どもは納得してるのか?」
「しない奴らは好きに出てってもらってるよ。確かに血の気の多い魔物もいるがな。だが俺たちだってこうやって酒飲んで暮らせるなら、わざわざ血を見ることなんて、したかぁねぇよ。」
そう言って、ヤルグに出した酒も飲み干す。
「ガイラックが許すとも思えんが。」
今まで見てきた廃村を見る限り、ガイラックに共生の考えはないはずだ。
「いやぁ、そこが我々の難しいところでな。ルドミナ様も悩んでいらっしゃる。」
ヤルグはこの状況をどう捉えるか考えた。
「取り敢えず、あんたの事は自由に通せと言われている。ほら、あの空が暗くなったやつ、あれやったのあんたなんだろ?あれを見て以来、ルドミナ様としてはあんたを敵に回したくないらしい。」
人間軍と魔王軍。どちらにつくの気か・・・
「グレイスに行くんだろ?」
「いや、先によるところがある。」
「そうなのか?まぁいいさ。ここの二階に宿屋ある。勿論、金は払ってもらうが、闇討ちするようなことは無いから自由にしてくれ。」
ゼムはそう言って、立ち上がると出口に向かうが途中で振り返った。
「争いごとは起こさんでくれよ。俺が責任を取る羽目になるからな。」
ゼムが出ていった後も、ヤルグは困惑していた。一人で国を相手をする事になると、それなりの覚悟をしていたが、あまりに拍子抜けであった。
「酒をくれ。」
出された酒を一気に飲み干す。
敵はあと何体いて、その中に本当に倒すべき奴はどれだけいるのだろうか・・・
翌朝、結局宿に泊まったヤルグは道具屋で買い物をしていた。
ドワーフの坑道でザルクにした頼み事。それは剣の製作だった。この剣は良い物だ。だが光属性はヤルグと相性が悪い。ガフとの戦い備えて、新調する必要があった。
その為の材料をひとつを用意してほしいとの事だった。
「何をお探しですか?」
「縄をくれ、出来るだけ長く、丈夫な物がいい。」
「承知致しました。少々お待ち下さい。」
必要な物を揃え、ヤルグは町を出た。サッカよりも西、大陸の最西端。
アリアンの西は北部こそ、海岸が広がっているが西部から南部にかけては森の先が切り立った崖になっている。
森を抜け、崖に立ったヤルグは地図を見ながらあたりをつける。
太い木に縄をきつく縛り付けて、崖を降りる。すると、崖の中腹に大きな横穴を見つけた。
(我ながら面倒なところに造ったものだ。)
横穴に降り立つと縄を岩の亀裂に嵌め込む。
暗い穴を進むと奇妙な模様の彫られた扉が現れた。
ヤルグはそっと扉に触れ、魔力を込める。
すると模様が青白く光り、音を立て扉が開いた。
「自分で掛けた封印を、自分で解く
ヤルグは誰に言うでもなく呟くと、扉の中へ入っていった。




