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死闘 2

「血みどろの森」に縛りつけられていたとき、できるだけ鍛錬を欠かさなかった、それにもかかわらず、体力は落ちてしまってい。


 いいや。これはやはり、男性とレディの差なのかもしれない。


 認めるのは癪だけど。


 多勢に無勢という理不尽な現実を抜きにしても、このままではあとほんのわずかで殺られてしまうだろう。


 思考はかえって妨げになるとわかっているのに、ついついエレノアとニックのことを考えてしまう。


 わたしが彼女たちを守らなければ、彼女たちを守ってくれる人はいない。


 だから、まだ死ねない。死ぬわけにはいかない。


 敵の数が多かろうが彼らの方がわたしよりスキルが上だろうが、せめて追い払いたい。


(いいや。追い払うのよ。ベンなら、死んだはずの夫なら、ぜったいにそうする。だから、わたしもそうするの)


 気力を振り絞り、もう何度目かに倒れた体を起こした。そして、立ち上がった。完全に肩で息をしている。出血多量でクラクラしている。しかし、敵も無事ではない。ふたり、床に倒れて動かない。残る三人も傷だらけのはずだ。彼らも全身打撲や傷を負っている。


 わたしと同じように。


「シヅ、どうしたの? なにかあったの?」


 そのとき、続きの間へと続く扉が控えめにノックされた。


 ノックの音とエレノアの声で、わたしの意識がそれてしまった。


 眼前に迫ってきた三人の暗殺者たちから……。


 三人の暗殺者による三本のナイフが三方向から迫ってきたというのに……。


 暗殺者たちは、さすがである。扉の向こうのエレノアに気をそらされることも意識を向けることもなかった。


 が、なぜかそれにたいして違和感を抱いた。このときには必死すぎてわからなかったが、とにかく一瞬以下の間、違和感を抱いたのだ。


 とはいえ、死ぬ寸前のわたしにそれに気を向けることなどできるわけがない。ましてや考え込むなど。


 刹那、体が勝手に動いていた。


 勝手に動き、右から迫りくる刃を相棒で受け止めつつ、左拳をそいつにくれた。全力の拳である。が、上面からの刃が左腕を裂いた。


 痛み? 


 そんなものは感じない。アドレナリンのお蔭である。


 相棒を握る右手から力を抜いた。すると、受け止めている相手が失速しかけた。当然、相手はそれで完全に体勢を崩すことはなかった。ほんのわずか前のめりになっただけである。しかし、わたしにはそれで充分。


 頭突きを食らわせた。前のめりになった相手の顎のあたりめがけて。全力の頭突きである。


 わたしの頭は、髪が剛毛というだけではない。めちゃくちゃ頑丈なのだ。つまり、石頭である。


 ヒットした。ありがたいことに。相手の顎が砕けた感覚があった。


 気の毒なその相手は、しばらくの間まともに物を食べることができないだろう。会話だって


 って、同情している間もなく、最後の刃がわたしの胸の辺りを切り裂いた。


 が、すんでのところで身をひくことができた。


 そのお蔭で右から左にかけ、横にシャツが切り裂かれただけですんだ。




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