死闘 1
五本の刃が何の迷いもなくわたしに襲いかかってきたときには、寝台から転がり落ちるようにしてそれらを逃れていた。同時に愛用の得物をふるい、一番近くにいる者のふくらはぎを襲った。すぐに左手を床につき、それをバネにして寝台から距離を置いた。
手ごたえがあった。ひとりのふくらはぎを、切り裂いたのだ。
しかし、やはりプロだ。悲鳴どころかうめき声ひとつあげなかった。しかも、そいつは床に膝をつくことさえしない。立ったままでこちらに振り返った。
覆面黒ずくめという恰好は、書物にでてくるベタな恰好である。もっとも、現実世界でもその恰好が定番なのだが。
そのベタな黒ずくめの恰好は、月光満ち溢れる室内ではかえって目立つ。とはいえ、彼らにすれば恰好などどうでもいいのだろう。
彼らは、ターゲットを仕留める自信がある。ターゲットだけではない。今夜、この屋敷にいる全員を殺すつもりなのだ。だから顔をさらしていようがド派手な恰好をしていようが、恰好はどうでもいいのだ。
って、彼らを考察している場合ではない。
なぜなら、彼らはわたしにいっさいの時間を与えず、襲いかかってきたからである。
自慢のうなじは、警告どころか危機を訴えている。「ざわざわ」どころか、いまや血が出そうなほどの痛みに襲われている。
さきほど庭からここにきたわたしは、寝とぼけたエレノアをニックの部屋に連れて行っていっしょに寝かせた。そして、彼女のかわりに彼女の寝台に横になったのだ。
よかったのは、そこまでだった。あとは、この体たらくである。
しかし、後悔している暇はない。自分自身の不甲斐なさを呪う暇もない。
いっさいの思考を停止した。
攻撃方法も防御方法も含め、あらゆることを考えないようにした。
そして、ただ刃をふるった。本能のままに相棒を振り回した。
そうしないと、あっという間に殺されてしまう。
そうしないと、瞬時にしてプロの暗殺者たちに八つ裂きにされてしまう。
音はほとんど立たない。なぜなら、立てないようにしているから。わたしだけではない。暗殺者たちも同様である。どれだけアクロバティックな動きをしようと、ふっ飛んで壁や床に全身を打ちつけようと、できうるかぎりおおきな音を立てないようにする。
実際の時間にすれば、けっして長いわけではない。しかし、当事者にすればずいぶんと長い間死闘を繰り広げている感覚しかない。
そう。これはまさしく死闘。一瞬の隙やミスが死を招くのだ。わずかでも意識と集中力が削がれれば、あるいは他へ向いたら、その瞬間にアウトである。
この場合のアウトとは、敗北を意味する。敗北とは、つまり死である。
本能の赴くままに刃を振るい続ける。しかし、どんどん傷ついていく。敵の刃で皮膚は裂け、格闘術で身はボロボロに、骨はバラバラになっていく。
そして、そろそろ息があがってきた。




