ついに襲ってきた
きっちり閉じたカーテンで遮られているため、月光の具合がわからない。その射しこみ具合でいまどのくらいの時間なのかを推測できるのに。
暗闇の中、天蓋を眺めている。
ともすれば緊張感が薄れ、集中力が途絶え、意識が遠のいてしまいそうになる。
それを気合いで取り戻そうとするも、その気合がでてこない。
(ほんと、わたしってダメダメね。昼間、はしゃぎすぎたのよ)
自分自身を呪った。本気で罵った。全力で反省した。
とはいえ「後悔は先に立たず」だし、すべてが遅すぎるのだけれど。
(お願い。くるならはやくきてちょうだい)
まだ見ぬ人物の来訪を心待ちにしてしまう。というか、すぐにでもきて欲しい。
寝台の上、わたしの準備はすでに整っている。
もう何度目かに睡魔に負けそうになったとき、やってきた。
複数の気配が。心待ちにしていた来訪者が、やっときてくれたのだ。
襲撃者たちの狙いは、やはりエレノアとニックだった。彼らは、迷わずテラスから入ってきた。
しかも、気配を断つことなく。さらには、その存在さえ隠すことなく。
彼らは、テラスからガラス扉をぶち破ってド派手に入ってきたのである。
これには、さすがのわたしも度肝を抜かれた。
エレノアは、たしかに素人である。おそらく、だけど。そのエレノアにたいし、あまり気を遣う必要はないということなのか? それでも、屋敷から大人を拉致するのだ。こっそり行動しないと本人に抵抗されては面倒臭いことになる。さらには、使用人たちに気づかれてはもっと面倒臭いことになる。
だからこそ、気配の主たちはこっそり浸入し、拉致するのだとばかり思いこんでいた。
しかし、わたしの推測や考えは違っていた。
根本的に誤っていたのだ。
やはり、わたしは焼きがまわっているようだ。
ダメダメどころか、完璧にアウトだ。
現役を離れて勘が鈍っているとか、疲れきっているとかは言い訳にならない。そもそも、それ以前の問題だ。
襲撃者たちがガラス扉をぶち破った瞬間、すべてを悟った。
彼らは、エレノアを、あるいはエレノアとニックを拉致しようとしているのではないということを。彼らは、ふたりを殺そうとしているのだということを。
そのときには、彼らはわたしのいる寝台に襲いかかってきていた。
合計で五名。全員の手に得物が握られている。
扉がぶち破られたと同時にカーテンも悲惨な末路を迎えた。いまや主寝室内は月光に満ち溢れている。
皮肉にもそれでおおよその時間がわかった。
朝を迎えるにはまだまだ先である時間帯だということが。
刹那、五本の刃が同時に上掛けを貫いた。




