脅されて怖がるのは一般的なレディ?
もっとも、誘拐だろうと拉致だろうとその方法が若干違うだけで目的は同じことだけど。
連中は、ターゲットによって拉致か誘拐かかえているのかもしれない。今回は、面倒くさかったから拉致にしたのかもしれない。
とにかく、レディと子どもを対象にしているということとその一方的な連れ去り方で、彼らが巷で騒がれている拉致集団もしくは誘拐犯に間違いないだろう。
慣れている。こういう連中は、都市や国や大陸をまたにかけ、組織的に犯罪を犯していく。その目的は、金の要求だけではない。依頼を受けてだれかをさらうこともあれば、戦争やテロ目的で連れ去り監禁や拷問をすることもある。
とにかく、わたしが病院のエントランスでクラリスとアイコンタクトを取っているほんのわずかな時間に、彼らは見事ターゲットの捕獲に成功した。
あと瞬き五回分くらい遅ければ、そのままこの貧困地域に紛れ込んでいたかもしれない。
それはそれで、捜索する楽しみが増えるだけなんだけど。
とにかく、じたばた騒ぐことすらせず、拉致グループにされるがままになっているエレン母子を救うべく、とりあえずは当たり前のことを試みてみた。
当のエレンとドナルドは、抵抗するどころか、まだ自分たちの身に何が起こっているかさえわかっていないみたいである。だから、「ボーッ」と抱えられている状態なのだ。
ドナルドの強烈な癇の虫がなりを潜めているのはありがたい。
「あの、その人たちをどうするつもりですか?」
わたしが一般人が抱くであろう疑問をぶつけると、拉致グループの連中はいっせいにこちらを振り返った。
「なんだおまえは?」
そして、書物にでてくるたいていの悪人の台詞をぶつけてきた。
「その母子の友人ですが、それがなにか?」
わたしがエレノアとドナルドの友人かどうかはわからないけれど、とりあえずはそう答えるしかない。
「だったらおとなしくひっこんでいろ、レディ」
三人の一番年かさの男が言った。いまのもまた、書物にでてくる悪党の台詞とまったく同じだった。
「そういうわけにはいきません。だって、彼女はいま慈善活動中で、人手不足なのです」
「はぁ?」
わたしの台詞は、彼らの気に入るものではなかったようだ。彼らは、「こいつ、バカか?」的な表情で顔を見合せた。
「おれたちもこいつらに用事があるんだよ。だから、連れて行くんだ」
「どんな用事ですか? 慈善活動より大切な用事ってどんな用事なのか聞かせて欲しいわ」
自分でも面倒くさいレディだってわかっている。というか、わざと面倒くさくふるまっているのだけど。
「うるさいっ! ケガをしたくなかったらひっこんでいろ」
面倒くさいレディには脅しが一番らしい。
もっとも、それはあくまでも一般的なレディにたいしてだけれど。




