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わたしを「奥様」と呼ばないで

 カミラとナンシーからカーティスのすごいところをどれだけきいたとしても、わたし的には正直「ふーん」とか「へー」程度にしか思えない。


 たしかに、王子でそこまでやる人はいないだろう。実際のところ、マクレイ国の他の王子たちはその身分に胡坐をかいているだけである。それから、祖国ベイリアル王国の王子たちも似たり寄ったりである。近隣諸国の王子や皇子たちのほとんどが、自分の身分に満足しているだけに違いない。


 そういうことを考えれば、カーティスはいい意味で異なっている。それは認めざるをえない。しかし、彼は国や国民を守るためだとか、王族の名誉を守り繁栄を目指しているだとか、そういう純粋な気持ちで努力と忍耐を重ねているのだろうか。


 残念ながら、わたしにはカーティスがそんな大義や信念を持っているとは思えない。他人のために英雄的行為を行っているとは考えられない。


 わたし自身、彼に含むところがあるからそういうふうに感じるのかもしれない。たしかに、それはある。


 が、それを差し引いても、彼は自分の野心や目的のためにやっているとしか思いようがない。


「そう。すごいわね。それで? 彼は、最終的にはなにをしたいのかしら? ああ、彼からきいているの。とりあえず、オールドリッチ王国との戦争を終わらせたい。国民に日常を取り戻させたいと。そのことは知っているんだけど、それ以外になにかあるような気がするのよ」

「ええ、奥様。そのとおりです」

「はい、奥様。そのとおりです」


 ナンシーとカミラは、おおきく頷いた。


 今日も微風が心地いい。


 わが家のテラスにあるテーブル上には、三人分のお茶とクッキーが手つかずでのっている。


 とりあえず、ティーカップを持ち上げた。


 ほんのりローズの香りが鼻腔をくすぐる。


「ローズティーね」

「はい、奥様。クラリス様手作りのローズティーです」

「奥様、クラリス様のローズティーは最高なのです」


 ナンシーとカミラもローズティーのにおいを楽しんでいる。


「ふたりとも、奥様はもういいわ。あなたたちはわたしの正体を知っているんだし、わたしもあなたたちの正体を知っている。わたしたちって、いわゆる同業者よね? 同業者のあなたたちに『奥様』って呼ばれてもねぇ」


「呼ばれてもねぇ」ってなんなの? って感じだけれど、とにかく彼女たちに「奥様」と呼ばれるのには抵抗がある。


「ですが、周囲には『奥様』ですから」

「そうです。クラリス様にお仕えしていたときにも『奥様』と呼んでいたのです」

「わたしたちの『奥様』は、いまは『奥様』ですから」

「そうです。『奥様』は、やはり『奥様』です」


 カミラとナンシーは、強情だ。


 同業者にあるあるの強情っぷりである。


 こんなくだらないことで揉めるのもバカバカしい。だから、諦めた。


 そうして、クッキーをつまんだ。


 チョコチップ入りのクッキー。


 たしかカイルが大好きだといっていたっけ?


 それは、死んだはずの夫ベンもである。


 ベンもまた、チョコチップ入りのクッキーが大好きなのだ。


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