ブドウ系
「牛だろ? 尻尾も顔も、牛だろ? 別にミミズで作ってるわけじゃないんだ。問題ない。というかすでにところてん食べてるしな」
まてまてまてーい。
「殿下、ところてんとゼリーは別物ですよ? 確かに見た目は似ていますが」
殿下は私の主張など無視してさっさとワインのゼリーを口に運んだ。
「うお、なんだこれは。違う。ところてんと違ってぷるりんと……柔らかさが違うのか? いや、根本的になんか違う? これも旨いな。いいなぁ。牛ってすげーな。肉以外にもこんなにうまいもん作れるのか。ってか、尻尾の中にこのぷるんぷるんしたやつが詰まっているのか? 触ったらぷるんとした感じなのか?」
殿下の言葉に、ラミアが真面目に答える。
「いえ、あの、尻尾の中にゼリーが詰まっているわけではありませんので、触り心地は他の部分と変わりません」
殿下の言葉に私は思わずゼリーを口から噴き出すところだった。危ないわ。
「なんだ? ところてんと同じじゃないのか? ぷるんぷるんって何だ? 俺ももらっていいか?」
「待ちなさい、あと一つしかありません。ラミア嬢のものを取り上げる気ですか? 確かに、気にはなりますが」
レッドとリドルフトがゼリー食べたい。欲しいと顔に書いてあるのが丸わかりの状態で、テーブルの上に載っているブドウゼリーを見ている。
ラミアが困ったように、私を見た。
「仕方がありませんわね。味見いたしますか?」
スプーンで少なめにゼリーを救い上げて、差し出す。
ほれほれ、分けてやるから口を開けなさいと、ずいずいとスプーンをレッドの口元に持っていく。
パクリと、殿下が横から顔を出してスプーンを加えた。
「どうして、食べさせてやろうとするんだ、俺以外の男に!」
「ゼリーを独り占めしたいとおっしゃるの?」
「フローレン様、そういう話ではないのではないでしょうか……」
ラミアがちらちらと三人の様子をうかがっている。
「あの、このようなものでよろしければ、明日はたくさん持ってきますから……今日はあの、お二人で仲良く分けていただければと……」
ラミアがブドウゼリーのカップをレッドに手渡した。
「よし、リドルフト、二人で分けるぞ。あっちで食べるか」
「そうだな、スプーンを二本持って行って二人で食べるか」
リドルフトとレッドがテーブルの端に逃げた。また殿下に横取りされると困ると思ったのかな?
あ、二人で争うようにゼリーを食べている。どうやらおいしかったようだ。
動きが素早い。
ラミアは、皆がゼリーをおいしそうに食べている様子をずっと見ていた。
あ。三個しかなかったもんね。ラミアの分がないんだ……。ごめんよ。
「あの……フローレン様……」
ラミアがぎゅっと口元を引き締める。なんだろう? 真面目な話?
「あー、うまかった。そうだ、フローレン、提案したいことってなんだ?」
ラミアの話を聞こうと思ったら、殿下が空気を読まずに口を開いた。
「後にしていただけます? 提案は、改めて提案書を作ってお持ちいたしますわ。言葉だけでは伝わらない部分もございますでしょうし、試作品ができ次第現物もお持ちいたしますので」
黒板の話だったっけ。まだ開発できるかもわからないんだから。っていうか、提案しといてチョークが作れませんでしたっていうわけにもいかない。もしくは別の者が開発しちゃったらドゥマルク領が遅れをとってしまう。
「ん、ああそうだな。考えをまとめる時間も必要ということか。じゃあ、提案書待ってるから。俺たちは生徒会の仕事をしに行くよ」
殿下が立ち上がると、レッドとリドルフトもそのあとに続く。
ラミアが、殿下たちが食べたあとのカップを手に取り小さな声で尋ねる。




