しんた
って、その前に。ノートチェックされたんじゃたまったもんじゃない。
「殿下はノートをとっていらっしゃいますの?」
「いや。すでに履修済の内容だから今さら……あ。なるほど。しっかりノートが取れているかどうかだけで判断するべきではないと……」
「そうですわね。ノートの提出は、全員である必要はないのではありません事? 事務作業や……そうですわね、議事録を作る方などの試験の一つとして、メモの取り方などを課せばそれでよろしいのでは?」
殿下がうんと頷く。
「確かに……メモしておきたい事柄というのは人によって違うでしょうね」
お、リドルフトはいいことを言った。
「ですわね。同じ話を聞いても、人によって大事な事柄だと思う部分は違うこともありますわ。ですので、先生が伝えたい大事な部分を聞きもらしてしまう方や、理解が追い付かないままメモだけを取っていく方もいらっしゃると思うのですわ。そこで、私、提案したいことがありますのよ」
「なんだ?」
殿下が食いついた。
よしよし。って、まだ黒板もチョークもできるかどうか分からないんだったぁ!
「準備もございますし、今は授業中ですからまた後ほど。先生、授業を中断してしまい申し訳ありませんでしたわ」
なんか、私、授業の邪魔になることばかりしてない?
昨日はうるさいって授業を止めてしまったし。今日は別のことを考えていていきなり立ち上がるとか……。悪役令嬢だから、まぁ、教師にもにらまれるようなことしても問題ない? ごめんなさい。先生……。心の中で謝っておこう。
やってまいりました。お昼ご飯の時間。
薔薇の間に集まったいつものメンバー。
って、なんでいつも殿下とレッドとリドルフトとご飯食べなくちゃいけないんだろうね?
ラミアの美肌美髪コラーゲンなんてお前たちに必要ないだろうに。何を食べてるのか知らないけど、攻略対象補正なのか、キラキラエフェクト見えるくらい美しいじゃん三人とも。それに、私のダイエットメニューだって必要ないでしょう。太ってないだけじゃなくて、ちゃんと鍛えて筋肉しっかりついてるし。筋肉たくさんあると、食べても太りにくいんだよね。うらやましい!
「これは、なんだ?」
殿下が私が取り出したものを凝視している。
「これが料理? なんというか、斬新な……」
バスケットから取り出した小鍋には、羊羹のような形の直方体の長細い物体。が数本入っている。
「あの、フローレン様もしかしてこれは……」
「ああ、違うわよ。ゼリーとは別物。食べたら違いが分かるわ。ふふ、見ていて、仕上げはこれからなのよ」
直方体を、細長い木箱につるんと入れる。そして、入り口には取っ手の付いた蓋。出口には、丈夫な糸を格子状に張ってある。
「こうして押し出すのよ!」
蓋の取っ手をぎゅっと推すと、出口からうどんのように細くカットされた少し濁った透明なものが出てくる。
そう、これは心太。しんたじゃないよ。ところてんと読むのだ。ところてん。なんで心太って書くのかしらね?
本当は、黒蜜で食べたいところだけど、残念ながら黒糖がない。
「そこに、はちみつとレモン汁を混ぜたソースをかけます。ところてんの出来上がりよ。どうぞ」
ラミアの前に皿を置く。爵位が一番低いラミアから食べるのには毒見も兼ねているから、問題視されない。っていうか、そもそもラミアのためのメニューだから毒見させてるつもりはないんだけどね。




