料理長~!!
「子爵令嬢……。害はないんですよね?」
害? ……そういえば、ゲームでの冤罪による断罪シーンに子爵令嬢は居たかしらね? 取り巻きは伯爵令嬢や侯爵令嬢だったと思うし。
……そもそも、あんな太ったキャラは居なかったはずだ。ラミア……あら? 家名は何だったかしら? まぁいいか。
社交界で生きてくつもりはないので、本来なら覚えなければいけない家名や顔や貴族同士の関係とか派閥とか全然分からない。今後も覚えるつもりはない。ラミアは子爵令嬢だから、派閥だとかお父様に敵対していたとしても影響力なんてないだろうし。
「そうだわ、こうしては居られないわ。明日のお昼の相談を料理長としなければっ」
ラミアで思い出した。明日はダイエット向きの食べ物を持って行くと約束したんだった。
「え? 明日もまさかリドルフトたちに差し入れるつもりですか?」
「いえ、明日はラミアと食べるのよ」
とりあえず渡したレシピとドライイーストで料理に心得のある人間ならふわふわのパンが焼けるかの結果を見てから、第二弾に進むつもりだ。
結果が出るまでに一週間くらいだろうか?
レシピの表記の改良も必要ならもう少し後になるかな。
「あ、パン屋の準備も進めないと」
「それでしたら僕が仕入れ先候補、物件候補などリストにまとめているところですよ。店の規模に合わせて従業員も募集しなければなりませんが、今のところは店の責任者や調理リーダー販売リーダーなどは公爵家の使用人から希望者を募り教育するつもりです。もちろん、すべての最終決定はお義姉様にお任せしますが」
しゅごい。なんか、昨日の今日なのにめちゃくちゃいろいろ進んでる。
持つべきものは優秀な義弟。
「……あれ? 私、必要なくない?」
首をかしげると、イーグルたんが私の手を両手でぎゅっと握りしめた。
「お義姉様が僕には必要です。お義姉様のいない世界なんて……あ。えーっと、お義姉様は販売する商品の開発という一番重要な部分をお任せいたします」
イーグルたん。それなら任せて!
「料理長~!」
鼻息荒く、制服から着替えを済ませると調理場へと向かう。
「料理長~! 料理長はおらぬか!」
調理場へ飛び込むと料理長の姿が見えない。
調理台の上には、こねかけのパン生地が載っていた。近づいて、パン生地の表面を見る。
「まだ、乾いていない。放置されて間もないということね。さっきまでここにいた……」
パン生地から顔をあげて、調理人に視線を向けると、挙動不審な五人の目がちょろちょろと同じ方向に向けられる。
ふっ。
「料理長はそこですわね! 隠れても無駄ですわっ!」
食器棚の影を指さすと、チッという小さな舌打ちとともに、料理長が顔を見せた。
「料理長「無理です」」
くっ。めちゃくちゃ早いスピードで言葉をかぶせてきやがった。
「いえ、今日は生の魚が食べたいというお願いじゃなくてね? 「無理です」」
刺身のお願いじゃないというのに、無理だと? まだ何も言っていないのに、無理だと?
「フローレンお嬢様に頼まれたパン屋の商品開発で手一杯です。これ以上他のことに時間はさけません」
あら? ちょうどいいじゃない。そのパンの商品開発の話で来たんだもの。
「最優先事項だと、イーグル様に念を押されておりますゆえ」
まぁ、そうなの。イーグルたん、パン屋開業のために頑張ってくれてるし。
「そっか、イーグルたんもパン屋を開くのを楽しみにしているのね。そっか。頑張らなくちゃ。で、料理長実は「無理です」」
いや、なんでよ!
「パン屋の商品開発の相談に来たのよ?」
料理長がほっと息を吐き出して、食器棚の影から出てきて調理台の元へと戻った。
「そうでしたか、それで、どのようなパンをとお嬢様はお考えで」




