悪役令嬢は我儘に
「そうねぇ、メロンパンかしらね、まずは」
「ほう、メロンパンとは?」
クッキー生地をパン生地にかぶせて焼く……。
ん? クッキー生地にはバターがいるぞ? 駄目じゃない?
「いえ、やはりクロワッサンかしら? アップルパイ風もいいわね」
「はあ、クロワッサンとは? アップルパイ風とは?」
クロワッサンは、バターを幾重にも……って、駄目じゃないのよ。
仕方がない。普通のパン生地で、中に包みこむ……。
「クリームパンね、そう、クリームパン」
カスタードクリームたっぷりの……、って、牛乳、牛乳がいるわ! やっぱりだめ!
「って、やっぱりアンパン!」
あんこがなーい!
「ジャムパンならば……」
流石にジャムはある。いや、これ、開発するまでもなくない?
イチゴジャム、リンゴジャム、ブルーベリージャム、季節の果物を使ったジャムを使ったジャムパン専門店。
……しょぼい!
パンとジャムを別で売っても変わらないし、これ、儲かるのジャム屋さんなんじゃない? パンを買って、ジャム屋でジャムを買えばいいんだもん。特産品の売り込みにもならないわ!
いや、もうむしろ最近日本でもはやりの食パン専門店にする?
まずはドライイーストを広めるつもりだからそれでもいいけれど……。でも、柔らかいパンじゃなくても固いパンでもお腹が膨れれば十分だという層もいるのよね。
ぶっちゃけ、従来の固いパンに比べて、柔らかいパンはかびやすい。日持ちしない。それに日にちがたてば固くなる。だったら、わざわざ柔らかいパンを買ったり作ったりしなくてもいいじゃんと思われ兼ねない。
それじゃあだめだ。
お菓子のような特別な時に食べるパンじゃなくて、広く庶民にも広まった普通のパンになってほしいのだ。
じゃないと、ドライイーストが売れない! レシピまで付けて売るのは、広めるためだ。
柔らかいパンなしじゃ生きられない体にしなくちゃ。やめられないほどずぶずぶにはまらせないと。
とすると……。
食パンのおいしい食べ方を提案したほうがいいって話……よねぇ。おいしい食べ方……。
唐突に、殿下が幸せそうな顔で牛かつサンドを食べる姿を思い出した。
……なんだかんだ言って、本当においしいものを食べたときに幸せそうな顔するよね。殿下。
食べ物のテレビCMを作るときにはぜひお願いしたい人物だ。
あ、そうか、殿下だ。
殿下もおいしいと食べたって、CMは作れないけれどいい宣伝にはなる。嘘じゃないんだから、王室を利用しても罰っしようがない。
く、くくく。
「料理長、サンドイッチよ! サンドイッチ専門店にしましょう! 当面はその路線でパン屋をやりましょう!」
牛乳が手に入らない問題の解決にもなる。
卵は手に入る。いや、豊富には手に入らない。卵も遠方から運搬するわけにいかない。割れる問題があるから。
でも、牛ほど土地がなくても鶏なら飼育できる。養鶏場を作ればいい。何なら養鶏団地方式で鶏を飼育すれば、狭い土地でも相当数の鶏を飼育し卵を生産できるはずだ。
公爵家の王都のこの屋敷の庭にだって。パン屋で使う分くらいはすぐにでも生産できそうだ。
卵サンドを作っちゃいましょう。焼いた卵バージョンと、茹で卵バージョンの両方。もちろん、悪魔の食べ物マヨネーズを作ってね。
マヨネーズの材料にも卵は必要だし。卵を作ろう卵を。
マヨネーズさえ作ってしまえば、ポテサラも簡単よね。ポテサラサンドも作って。
それからハムサンドに……あら? ハムって見かけない……。そういえば、ソーセージやベーコンも食べたことないよ?
肉といえば、固いステーキと、保存のための塩っ辛い干し肉。あとはスープやシチューに入れるくらいだ。
加工肉がない……? そうだよね。ハンバーグすらなかったのだ。ミンチにして香辛料と混ぜて腸詰するソーセージがあるわけないか。
ハムやベーコンがないのは干し肉よりも腐りやすいから? それとも燻製という調理法がない?
ハムサンドは必要でしょう。ベーコンならベーコンバーガーがいいわね。ソーセージをつかえばホットドックが食べたくなる。
おっと、サンドイッチ専門店だった。そのうち姉妹店でバーガーショップを出すのもいい。フライドポテトとフライドチキンも必須ね。ホットドックは屋台販売なんてのもいいわねぇ。って、違う、パン屋は公爵領の特産物売込みの足掛かり! パン屋でフランチャイズ大儲けとか考えてないよ。
とにかく、ハムサンドのためのハム!
「サンドイッチですか。では今朝作った牛かつサンドのほかにいろいろなものを挟むのですね。分かりましたいろいろと試して「料理長!」」
料理長の言葉を遮るように口をひらく。
「……なんでしょう」
料理長が不安げな顔を見せる。何よ、その顔。




