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暗黒の双子石⑵

 デザートの梅ゼリーを食べていると通知音が鳴った。スマホに目を落とすと植草くんからのメッセージだ。


《もうブレーカーできたって。今日取りに行く?》


 いつ頃できるかなんてそういえば尋ねなかったけれど、こんなに早くできるもんなんだ。まだ3日しか経ってないけど。


「もしかして彼氏からなの?」


「違うの。友達が今から……図書館行こうって。行ってもいい?」


「もう帰るだけだしいいわよ」


「え? マンガは? 地味に重かったんだけど、俺がまた持つの?」


「じゃあ、お父さん持って帰って」


 沢庵をつまもうとしていたお父さんの動きがピタリと止まる。


「……それは酷だから俺が持つよ」


「お父さん、ほら早く食べちゃってよ。みんな待ってるのよ?」


「じゃあ俺が茶碗蒸し食べてやろうか?」


「……いいぞ」


 茶碗蒸しが大好きなお父さんをからかうみたいにナツキが言ったのに、この反応。

 ナツキがわかりやすくうわーって顔をしかめる。


「もうお父さん車も運転できないんじゃない?」


「ええー!? 帰りお母さん運転するのやだわあ」


「本当に友達か? ……まさか今からそいつと会うとか」


 お父さんがようやく口を開いた。


「本当に友達だよ。だって今彼は外国にいるから会えないんだよ」


「外国の人なの!?」


「まあ、そんなとこ。お仕事が忙しいの」


 外国どころかこの世界の人ですら無いんだけどね。


「年上って事? しかも社会人って予想外じゃん」


「ちょ、ちょっと待って。本当に後でゆっくり聞くから、今全部話すのは止めときなさい」


 お父さんが今まで見たこと無い灰色の顔色をしていた。眉間にシワを寄せて湯呑みを持ったまま硬直している。


 まさかこのまま泣くんじゃないよね?


「ほんとにそいつ大丈夫かよ? 女子高生にマンガを騙し買いさせる詐欺師なんじゃない?」


「そんなしょっぼい詐欺師とかないでしょ」


「詐欺とかじゃないってば! とりあえず今から会うのは普通の学校の友達。もう近くまで来てるらしいからわたし行くね」


 植草くんと待ち合わせたわたしは、家族と別れ再びカサブランカを訪れた。


「こんなに早くできるなんて、相当入れ込んで作ったに違いない」と植草くんは推察していた。なんでも植草くんが以前ブレーカーを頼んだ時は2週間くらいかかったそうだ。


「待ってたよ! ハルちゃん」


 セイゴさんは今日はサングラスをしていなくて、その代わりと言ってはなんだけど、目の下に大きな隈と、無精髭も生えている。


「セイゴさん大丈夫ですか?」


「3日徹夜しちゃった」


 うふっとはにかむセイゴさんは、既に疲労困憊の域を出て、ハイな状態になってるみたいだった。


「シャワーくらい浴びたの?」


「もちろんさ。レディーを迎えるのに、俺がそんなマナーを守れないと思っているのかい?」


「あーそー」


 植草くんは、えっへんと胸を張るセイゴさんの話を、無感情で聞き流している。


「それでブレーカーはどこ?」


「ほら、これだよ。じゃーん」


 セイゴさんから受け取ったブレーカーは黒いゴムに淡いピンク色の石がついていた。


「ローズクォーツみたいですね」


「それは本物のローズクォーツさ。宝珠はこっち」


 そのピンク色の石を挟むようにして黒い石が2つくっついている。

 一見黒いゴムに紛れてしまうような小さな石だけど、艶やかな表面はダイヤモンドみたいなカットが入っている。


「暗黒リトルツインスターズっていう対の宝珠だよ。勇者は光。だから闇の力で中和するって感じかな」


「ブレーカーって力を抑えてくれると聞いたんですけど、そもそもどんな風に抑え込むんですか?」


「うーん。百聞は一見に如かず。ちょっとこれで髪を結んでごらんよ」


 大丈夫かな?


 ちらっと植草くんを見ると、その辺は全く問題ないのか、わたしと視線が合うとうんとうなずいた。


 髪を束ねて、普段使ってるゴムと同じように結ぶ。

 特に禍々しい気配も無いし、むしろ何の魔力も感じない。


「何も起きませんね」


「じゃあ何かしようとしてみて」


「何かって?」


「そうだなあ、これでこの象の置物を破壊してみてよ」


 セイゴさんに渡されたのは新聞紙で作ったハリセンだ。


「細い枝で桜の木をやっちゃうくらいだから、本気出せばハリセンでこの象も粉々にできるでしょ?」


 革製の象の置物は丈夫そうで1メートルくらいの高さがある。この前汗だくでセイゴさんが運んできたのに、そんなことしてもいいのかな? 


「いいんですね?」


「思いっきり!」


「じゃあ……」


 目の前にあるこれは象の魔物だ。

 そう思って、わたしはハリセンを大きく振りかぶる。


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