part9
屋敷の裏山に向かって10分程馬を走らせると
大きな1本の木が見えてくる。
その側に1頭の馬と太い枝にロープを簡易的に
巻きつけ板を付けてあるブランコに
腰掛けるクリストルがいた。
クリストルは暇さえあればここに来ていた。
ケーラは近くまで来ると手綱を引き
馬を降り、クリストル元へ行った。
背を向けているクリストルに
「お嬢様…先ほどは取り乱してしまって
申し訳ありません」と
頭を深々と下げた。
クリストルは前を見ながら言う。
「もう過ぎた事です。そんなことより…」
ブランコを降り、ケーラの目の前まで行き
「折角、2人で外に出ているのだから
近くの川まで競争しましょ!」
その言葉を聞き唖然としてしまった。
「お嬢様?その…えっと…」
ケーラがたじろいでいると
そそくさと馬に跨ったクリストルが
「ほら早く!置いていくわよ!はっ!」
手綱を取り走り出し
ケーラも慌てて馬に乗り
「お待ち下さい!お嬢様!」
2人で駆け出した。
ケーラはクリストルの背中が見えると
ふと思い出した。
昔もこうやって2人で野山を良く駆けたことを
お転婆なお嬢様が怪我をしない様に
いつも気が気ではなかったこと。
そんな事を思い出していると小川に着いた。
2人は馬に水を飲ませ
クリストルはブーツを乱雑に脱ぎ捨て
川の中を走る。
バシャバシャと音を立てながら
水の雫が飛び散る。
クリストルが
「ケーラ?そんな所で立っていないで
早くこっちに来て!」
「は、はい!」
ケーラもブーツを脱ぎズボンの裾を上げ
川の中に入る。
「お嬢様?あのお話が…」
ケーラの話を遮る様にクリストルが
水をかけてきた。
「あはは!ケーラびしょびしょ!」
最初は戸惑ったが
ケーラは水を掛け返した。
「それ!お嬢様、早く逃げないとずぶ濡れに
なってしまいますよ!」
水の掛け合いが数分続き
その後、濡れた衣服を着替え
2人で大きな岩に腰を掛けた。
落ち着いた頃合いを見てケーラが
「お嬢様、先ほどは取り乱してしまって
申し訳ありませんでした」
クリストルは笑って
「もう過ぎた事です。それにケーラは
もう私に1度謝っているのだから
そう2度も謝らなくて良いのよ」と言った。
ケーラはクリストルの顔に近づき
「ですが!私は…」
クリストルが優しく手を取り
「私はなんとも思っていません。
だから、もう悲しい顔はしないで?」
ケーラの
頭を撫で溢れ落ちそうになる涙を指で拭う。