□▽/「ニゴを思い通りにカスタマイズしてよいのですよ」
〈 □▽ 〉
「思い出の和菓子屋?」
俺はリビングのソファに寝転がって特に何をするでもなくぼーっとしていたが、秘姉が近寄ってきて控えめに呼んでくるので、姿勢を正して姉さんと向き合っていた。
「うん……。ぼくね、小学六年生のころに、とってもおいしい和菓子屋さんを見つけたんだけど……久しぶりに、行ってみたくなって……」
「へえ。なんて店?」
「うーん……あんまり覚えてなくて……場所も……」
「なんだそりゃ」
「うぅ、ご、ごめんね……」
「そういうことなら」
ニゴ姉がソファの裏側からひょっこり顔を出す。
「ニゴに任せてください」
「ニゴ姉、いたのか」 「ニゴおねえちゃん……?」
「秘代さんの脳にある海馬体をニゴの機能で解析、エピソード記憶を可視化します。想起のプロセスにおいて忘却の原因となるものの一つに検索の失敗がありますが、ニゴのメモリアルサーチ機能を使えば確実に目当ての記憶に辿り着き……」
ニゴは得意げに(表情は薄いけど、たぶん得意げに)話している。
正直、話の全てがわかったわけではなかったが、どうやら秘姉の記憶を3D映像にして映し出すことができるようだ。さすがはニゴ姉だ。
「問題は、秘代さんの究極のプライベートゾーンである『記憶』をニゴが覗かざるを得ず、宗一さんもまた映像を見ざるを得ないということですが」
「あ、そっか……うーん……」
秘姉は悩んでいる。印を結んだりしているが、それが一番集中できるのだろう。
目一杯悩んだ末に、「そうちゃんとニゴおねえちゃんになら、いいよ」と頷いた。
ニゴ姉が秘姉の頭に手をかざしながら、取り出して肩に乗せた小型映写機のスイッチを押す。秘姉の思い出の3D映像が映し出された。実際の景色より縮小されており、テーブルくらいの広さの3D映像だ。
思い出せなかった記憶にしては、意外と輪郭がハッキリしている。
「秘代さんの求める記憶を映像として復元しました。本来は不明瞭で流動的なものですが、記銘当時の情報を推測、修復することにより、このようにわかりやすい像を作り出しています」
「なんか灰色で、走査線みたいのが入ってるけど」
「それについてはシャキロイア姉さんが『思い出ってやっぱり古き良き時代のテレビみたいな感じにすると風情があるわよね~』などと言っていました」
「またシャロ姉の趣味か……」
「ニゴはシャキロイア姉さんの趣味の結晶ですので」
僅かに口元をほころばすニゴ姉。
「宗一さんも、ニゴを思い通りにカスタマイズしてよいのですよ。あんまりひどいと怒りますが」
「ガトリングとかレールガンとか搭載して、最終的にはスーパーニゴンダムに変形してよ」 「怒ります」 「冗談! 冗談だって!」
ニゴ姉のむっとした顔に見つめられる俺をよそに、秘姉は3D映像に見入っていた。
映像の周りをとことこ歩いて様々な角度から見ている。「指で触れて上下左右に動かすとその場で向きを変えられますよ」と教えられるまでは、リビングを縦横無尽に動き回って、時には天井に張り付いたりして映像を眺めていた。
ニゴ姉に教えられたとおり指で映像を動かし、拡大・縮小もできるようになった頃。
わざわざ動き回って映像を見ていたことが恥ずかしかったのか赤面していた秘姉も、今では思索にふける格好いいくノ一姉さんだった。
「よし」
俺は立ち上がる。
「行こうか、秘姉」
「あ、でも、看板の文字がかすれて読めない……」
「データベースにアクセスして過去この場所にあった店を特定することもできますが」
「場所はわかったし、店の名前は行ってからのお楽しみでいいんじゃない?」
「そ、そうだね……」
秘姉は両手で口元を隠し、ひとりごちる。
「でーと、には、お楽しみがなきゃ……」
「ん?」
「え、ひぁっ、き、聞こえた……?」
「え? いや。じゃあゆきましょうか、愛しの秘代姉さん」
秘姉は「ひぅぅ……ぜったい聞こえてたよぅ……」とか言いながら両手で顔を覆うが、それでもわかるくらいに赤面していた。けど、少し前なら変化の術で地蔵になってピクリとも動かなくなっていただろうし、ちょっとは進歩が見られるみたいだ。隣でニゴ姉が置いてけぼりにされたような表情をしているので、苦笑して「ニゴ姉、ありがとね」と声をかける。




