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○◇/泥酔美姉しゃーたん

〈 ○◇ 〉



 ある平日の夜。

 いつものごとく一人で居間のテーブルで勉強をしていると、玄関で音がした。


 シャロ姉が会社から帰ってきたらしい。


 すぐさま、おかえり、と声をかけるがなにやら変な声しか返ってこないので、俺はいぶかしむ。玄関まで行ってみると、姉さんはお酒のにおいを漂わせながらふらふらと動いていた。


「……シャロ姉、おかえり」

「たらいまー」


 シャロ姉がよろけながら歩いてくる。千鳥足というやつだ。表情も緩みきって、ふにゃふにゃだ。


「ふわぁ……そーちゃんが何人も……」


 完全に酔ってる。


「シャロ姉、大丈夫? ……うわっ」


 自分の体を完全に支えられなくなったのか、姉さんは俺にぶつかってそのまま倒れてしまう。ふたりして廊下に寝転がる感じになった。シャロ姉、意外と重い……。


「シャロ姉、布団まで頑張ろうよ」

「うー……やーだー……」

「大丈夫? なんか想像以上に酔ってるな……ほら、起き上がって」

「いーやーなーのー……」

「わがまま言うんじゃありません」

「そーちゃん……おんぶして……」

「はあ……」


「むー、そーちゃん……いいにおい」

 姉さんは横になった俺の胸にほおずりをしながら、眠たげな声を出す。

「しゃーたんね、お酒ごくごくしてね、ほわほわーってなってね」


「えぇ……」


 面食らうしかない。しゃーたんとは何だ。新キャラ?

 スタイルのいい姉さんが幼児退行しているのはむしろ気持ちがわるい。が、それでも大事な姉さんだ。ここはしゃーたんの世話係になることにする。


「ほら、しゃーたん、おんぶしてあげるから」

「むにゃぁ……」

「酔いすぎだよ。いったいどんだけ飲んだの?」

「たんく……」

「タンク!?」

「えへへ……うっそー……」


 これが泥酔した人のウザ絡みか……

 でも幸せでとろけそうな声で言われると、許せてしまう。


 おんぶしたままリビングに入り、ソファに寝かせてやる。「ちょっと掛け布団持ってくるから」と言って出ていこうとすると、ぐい、と引っ張られた。


 振り返ると、シャロ姉が服の裾を掴んできている。


「そーちゃん、どこいくの……? いっちゃやだ~……」

「えぇぇ……」

「しゃーたん、そーちゃんといっしょにいるぅ」

「…………」


 仕方ない。俺はソファに寝たシャロ姉の横に座り、そばにいてあげることにした。


「えへ……そーちゃん、やさしいからすきぃ……」

「うん」

「そーちゃん……」

「ん?」

「げろげろげろ」

「ぎゃああああああああああああ!!!!!!!!」


「どうしたんだい、宗くん?」

 ゆら姉の声がリビングの入り口から聞こえてきて、

「悲鳴なんて上げて……、しゃ、シャロ姉さん!?」






 しばらくして、シャロ姉は眠りに落ちた。

 俺は掛け布団をかけてやり、ゆら姉とふたりで寝顔を眺める。


「かわいいね、シャロ姉さんは」

「うん」

「まるで子供のような寝顔だ」

「まあうん」

「私と宗くんの間に子供ができた時のことを考えてしまうね」

「それはない」


 まあうんと答えた時すでにゆら姉が冗談を飛ばす気配は察知していたので軽く受け流す。


「ひどいな、宗くんは。私なら絶対に良妻賢母として家庭に尽くすというのに」

「いつまでもやさしいおねえちゃんでいてください」

「フフ、棒読みでごまかさなくてもいいのに。……そうか。母……か」

「ゆら姉?」


 ゆら姉は、シャロ姉の頬にふれると、呟いた。

「いつもありがとう、シャロ姉さん」


 シャロ姉は俺たちのお姉さんだけど、母親的存在としての一面もある。ゆら姉の感謝の気持ちは俺にもよくわかった。俺も「ありがとう、しゃーたん」と口に出してみる。


 シャロ姉のかわいらしい寝息に、俺たちは微笑み合う。静かな夜だ。

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