☆♡/弟裁判くすぐりの刑
〈 ☆♡ 〉
ある登校日の放課後。
俺は一人で学校からの帰り道を歩いていた。
いずれかの姉さんと一緒に帰る日もあるのだけれど、今日はそれ以外の日だ。こちらから姉さんを帰り道に誘うことはあんまりない。
隣に姉さんがいる帰路は楽しいけど、男友達と駄弁りながら帰る時間とかも大切にしたいし、あと、わざわざ姉さんのクラスに呼びに行くのが恥ずかしい。
なんか最近は、響の教室前で待っていると「また碑戸々木弟が廊下にいるぞ」「碑戸々木くん、じゃあねー」と挨拶されるようになった。ゆら姉あるいは秘姉を待っている時も同じ感じ。いたたまれない。
とか考えながら住宅街の脇の道路を歩いていると、背後から「宗一ぃー」と呼ぶ声がした。
振り返ると、姉貴と愛姉が二人でこちらへ歩いてくる。けっこう遠いので、待つことにした。
まあ、こんな感じで合流して一緒に帰るのが恥ずかしくなくて、いい。
〈 ☆♡ 〉
「……で、何で俺はカラオケにいるんだよ」
「たまにはいいだろ? おれなんて学校帰りに友達とカラオケ寄るなんていつもだし」
俺がぼやくと、姉貴がさばさばと返す。助けを求めるように愛姉を見るが、愛姉は愛姉で「弟くんの歌声、久しぶりに聴けるんだね! 楽しみ~」とニコニコしていた。俺は諦めて、姉貴から曲選ぶ機械を受け取る。
ポルノでも歌うか……
タッチパネルをつついていると、姉貴が「で?」と言った。
「え?」
「どうなんだよ」
「何が」
「デート」
「は?」
にや、と邪悪な笑みを浮かべる姉貴。
「今朝、ニゴとデートしてたらしいじゃねーか」
俺は硬直し、愛姉がむせた。「げほっ、げほ、えぇっ!? ニゴお姉ちゃんと!? デート!?」
「違う! あれはニゴ姉の冗談で」
「バカ言え、ニゴが冗談なんて言えるわけないだろ」
「お、弟くん、だめだよ義理とはいえお姉さんと変なことしちゃ!」
「いやニゴ姉だって俺らの真似すれば冗談くらい、」
「そうかデートしちゃったか~~、一体ニゴとどんな楽しいことをしたのかね~~~~?」
「弟くん、いけません! そんな、近親相か……と、とにかく、変なことしたら許さないんだからねっ!」
まずい。姉貴が煽って、愛姉が勘違いして、このままじゃまずい。
「いいか姉貴、愛姉。俺は決してニゴ姉とデートなんかしていない。本当に」
「からの~~? 大好きなニゴお姉ちゃんと、抱きしめあっちゃったりもしたのかな~~~??」
俺は“そんなことしたわけないだろ、絶対にありえない”という思いを言葉に変え、毅然とした態度で言い放った。
「……そ、そんなことしたわけない、だろ……?」
「愛香、容疑者を取り押さえろ」「了解」
「うわっ! ちょっ、愛姉、誤解! おい姉貴ふざけんっ……ぎゃああ!」
静かに怒りを燃やす愛姉の細腕に後ろからぎゅっと押さえられ、いろんな意味で抵抗できなくなったところを、姉貴のくすぐりが襲う。くすぐりにくすぐられ、襲われに襲われた後、俺は力なくカラオケのソファに横たわる。やり遂げた感を出す愛姉と、エレキを構える姉貴。ギタリストな姉さんはマイクを掴むと、テーブルに片足を乗せ、こちらを指さして理不尽に告げた。
『聴いてください。“シスコンは有罪”』
パンツ見えてるぞ、と心の中で言い残し俺は燃え尽きた。