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○/変わらないもの -現在(いま)、どんなことがあっても-

「○/変わらないもの -未来への希望-」の続きです。

〈 ○ 〉



 リビングのソファでシャロ姉と隣り合い、俺はぽつぽつと将来への漠然とした不安を口にしていた。


「……で、こんなこと今のうちから気にしてもしょうがないとはわかってんだけど、なんかな、っていう」


 別に何か解決方法を出してもらいたいわけじゃなかった。自分としては軽いノリで相談したつもりだったし、それをくみ取ってくれたのかシャロ姉もにこにこしている。シャロ姉は弟に頼られるのが嬉しいというのもあるかもしれない。


「漠然としてても将来のことを考えるなんて、宗ちゃんは偉いわ!」

「そうかな」


「そうよ~? でも、不安なのね。わかるわ、お姉ちゃんもそういう時期があったから」

 両手の指を合わせて、小首を揺らす姉さん。

「そんな時は、まず、今の幸せを思い浮かべるのよ」


「今の幸せ」

「そう。お姉ちゃんや、ニゴちゃん、ヒビちゃん、ゆらちゃん、ひめちゃん、愛ちゃん……いろんな優しい人たちのいる『今』を思い浮かべるの。そしたら……」

「そしたら?」


 シャロ姉は肩に寄りかかってきて、すぐ横でささやいた。

「それはきっと、変わらないものだわ。高校を卒業しても、大人になっても、きっと……。何か変わらないものがあれば、そんなぼんやりとした不安は吹き飛ばせるわ。……宗ちゃん」


 そして首に腕を回すと、頬にキスをした。


「どんなことがあっても、なにかが変わっても、いつだってお姉ちゃんは宗ちゃんのお姉ちゃんだからねっ」

「…………」

「あら? 宗ちゃん、お顔真っ赤よ? ふふっ、まだ古代人流のスキンシップには慣れないかしら?」

「…………っ!」


 俺はシャロ姉の頬を見る。

 ふっくらとして柔らかそうなほっぺた。


 碑戸々木響の弟として、こんなことをされたら逆襲しないわけには……!


 と、身を乗り出した瞬間、


「どうしたの?」

 シャロ姉が首を傾げ、頬のあったところにほんのり桜色の唇が。


 俺とシャロ姉は、顔を近づけ合ったまま固まった。

 姉さんの熱い吐息が口の中に入った瞬間、俺は素早く離れて立ち上がる。


 唇は触れてないからセーフ唇は触れてないからセーフと読経のように頭の中で繰り返しながら、「あ……いや……ごめん……その……」とかよくわからないことを言ってると、シャロ姉が微笑んだ。


 恥じらいに頬を染めた、初めて見るような笑顔だった。


「あらあら……もうちょっとでお姉ちゃんのファーストキス、奪われちゃうところだったわ♪」

「…………!」


 姉さんは俺に希望をもらったと言った。けど俺はそんなことをした覚えはない。ただ言えるのは、絶対に俺の方が、シャロ姉からもっとたくさん未来への希望をもらっているということだ。

 そんな姉さんに、こんな可愛らしいことを言われたら……逆襲せざるを得ない。


 けど……

 "俺もずっと、何が起きたって、永遠にシャロ姉の弟だから"

 ……なんて、恥ずかしくて言えるはずがなかった。


 逃げよう。俺は、ジョギングしてくる、と言って早歩きでリビングを出ようとする。

 しかしそこで、呼び止められた。


「宗ちゃん……」


 努めて顔の赤みを気取られないようにしながら、俺は少し振り向く。

 シャロ姉は言った。

 柔らかい笑顔で言った。


 古代にいた頃と現代にいる今、両方の幸せがあるからこその、笑顔だと思った。


「……声に出てたわよっ♪」






 俺はダッシュで家を出た後、顔が赤いのは恥ずかしいからなのか走りすぎたからなのかわからなくなるくらいに走ってから、家に戻った。シャワーを浴びてリビングに行くと、夕飯を待つ五人の姉さんがいる。思わせぶりな視線をシャロ姉にもらい、それに目ざとく気づいたゆら姉と姉貴が騒ぎ出し、秘姉が縮こまり、ニゴ姉が諫める。この光景はきっと変わらない。

「○/変わらないもの」はここで終わりです。

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