○□☆◇▽♪†▼/言われなくたって
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夜九時半を過ぎても、俺は姉さんたちとスマブラ中だった。
愛姉がいたら、ゲームのやりすぎはいけません! と怒るところだ。しかしここにはゲーマーな姉さんや絶対に視力の落ちない姉さんしかいない。
ゆら姉vs.響連合で遊ぶのにも一段落つき、そろそろ対戦ルール変えようかーという話になる。
俺は何か提案しようかと思ったが――突然の「おねーちゃーん」という声に思考を阻まれた。
それはまさしく俺の声だった。
でも俺は何も言ってない。
混乱していると、ゆら姉がポケットからスマホを取り出して耳元に添えた。
「もしもし?」
「着信音かよ! 俺の声かよ! いつの録音だよ!」
「宗一、落ち着け。今のうちにまゆらのキャラを変な奴に変えてだな……」
「蘭子先輩」
ゆら姉が声を明るくする。
「SF同好会の打ち上げは終わったのですか? え? 宗くんに? わかりました、代わりますね」
ゆら姉のスマホを渡される。何だ? 衣留先輩はなぜ俺に電話を?
疑問に思いつつ耳に当てる。
「もしもし、宗一です」
『お! 宗一く~ん! 元気~?』
「はあ、元気です」
『あははは! 元気なさげな声してるで~? もっとうちみたいに、どっかーん! とはっちゃけないとげほっ、げほっ! う……げほげほっ!』
衣留先輩がむせて「おえ~」とか言っている。どっかーんとはっちゃけるのはやめようと思った。
電話の向こうで会話がある。虫の声が聞こえるから、屋外のようだ。打ち上げを終えて外を歩いているのだろう。
声が切り替わった。
『――碑戸々木宗一少年か』
「え、あ、夜光院先輩? ああそっか、忍者同好会というかSF同好会のメンバーなんですよね」
『――如何にも。今打ち上げが終わったところでな。突然電話などして済まない。蘭子は微酔状態にあるのだ』
「え!? お酒飲んだんですか!?」
『――手をアルコール消毒した』
「は、はあ……」
『――拙者からはそれだけだ。では……むっ、真桜、今少年は忙し……』
夜光院先輩の声が途切れ、爆音が聞こえた。何が起きたのか想像したくもない。殺伐コンビの片割れ、使野真桜先輩が『はろー、ひとときくん』と供述を始めた。
「こんばんは、使野先輩」
『球技祭はどぉだったー? まおはね、めんどくさかった!』
「実行委員がそんなこと言わないでくださいよ……」
『でも、うちあげができるのは楽しーかなー。らんこちゃんも酔っててかわいいし! 今はらんこちゃん、しのちゃんにおぶってもらってるよ~』
夜光院先輩が衣留先輩をおぶっているところを想像する。くノ一のあの先輩は俺よりも背が高いから、小柄な衣留先輩が高所恐怖症にでもならないかと若干心配だ。
「まあ、夜光院先輩が生きてるなら良かったです」
『じゃ、また来週、陸上部で会おーねー。ばいばい』
「さよならー」
ここで電話が切れるかと思ったが、音声は途切れない。
まだ何かあるのだろうか。
待っていると、けらけらと笑い声が聞こえてきてから、エセ関西弁の先輩が電話口に復帰した。
『宗一くぅん、うちの後輩の二年ふたりが粗相をしなかったかね~?』
「どちらかといえば衣留先輩のほうが危ないですよ。三年なのに」
『あはは! はは、はっ……はくしょっ! うぅ、しののんのちょんまげが鼻にぃ』
夜光院先輩のポニーテールはちょんまげじゃないだろ……。
俺はげんなりしつつ、それで結局何の用なんですかと訊こうとして口を開きかけた。
『宗一くん』
言葉は遮られた。
『楽しく生きてるかい?』
口を閉じる。
先輩の声色が打って変わって、少し酔っているなりには優しげに、そっと語り掛けるようなふうになったからだ。
「……まあ、それなりには」
『うんうん。お姉さんたちと仲良くするんやで~。キミのお姉さんたちは素晴らしい人たちやからね。宗一くん、ひびきんは好き?』
「姉貴ですか? まあ、……えーっと……」
俺をほっといて勝手に一人用モードで遊んでいる姉貴に目をやる。
目を逸らす。
『あははー、ま、言いにくくても、たまには伝えるとええよ。その仲の良さが、宗一くんとひびきんと、今のキミの家族たちを出会わせ、結び付けてるんやからね。今日はそれだけが言いたかった! なんかの邪魔してごめんなあ』
「あ、いえ。先輩が元気そうでなによりです」
『あっはっは! うちはいついかなる時でも元気ゆうのがモットーやからな! ほな、切るで! おつかれ!』
「はい。さよなら、気をつけて帰ってください」
『強い後輩がいるからだいじょーぶ!』
遂に通話は終わった。一瞬呆けてから、すぐにスマホを離す。ゆら姉に返してテレビに向き直り、ウィーUのクラシックコントローラーを再度握った。
衣留先輩の言葉を反芻する。
“その仲の良さが”
“今のキミの家族たちを出会わせ、結び付けてるんやからね”
いきなりそんなことを言われても、と思わずにはいられないけれど……姉貴やゆら姉や秘姉、愛姉を見て、何か感じるところがあったのだろうか。
俺と姉貴の仲の良さが俺たち二人と義理の姉さんたちを出会わせた、というのもよくわからない。聞き返せばよかった。
心の中で首を捻っていると、コントローラーの入力が遅れ、俺のゲムウォがやられてしまった。スマブラはもう再開されていて、ゆら姉と姉貴&秘姉が白熱した戦いを見せている。
ゆら姉は口角を上げて不敵な笑み。
姉貴はスティックをガチャガチャ言わせながらツリ目で画面を睨みつけ。
秘姉はテレビを見ずに手元のコントローラーを見てボタン入力をし、操作が終わるとテレビをぱっと見て上手くいったか確認し、またコントローラーを見て、と忙しない。
シャロ姉とニゴ姉も王者の風格で観戦し、我が家のリビングは姉さんたちの笑いと睨みと忙しなさに包まれていた。
俺は、ふぅ、と息をつく。
衣留先輩に、言われなくたって仲良くしてますよ、と胸の内で呼びかける。
――いつものヒトトキ 第二部 ここらへんまで――
「だーっ! また負けた! おいまゆら、次おまえおれに勝ったら傷害致死罪で逮捕だからな」 「誰も死に至っていないけれどね?」 「てれびげえむって……忍同士の戦いとちがって、誰もしんじゃわないから、いいよね……」 「しかし秘代さん、我が家にはグロテスクな表現のあるゲームももごご」 「怖いこと教えちゃだーめ。ふふっ、やっぱり平和が一番よね!」 「ほら宗一ィ、次はおまえがステージ選ぶ番だぞ」 「あ、うん。……ねぇ、姉貴」 「ん?」
「あのさ」
「なんだよ」
“ま、言いにくくても、たまには伝えるとええよ”
「…………」
「…………?」
「えっと、『ライラットクルーズ』でいい?」
「いいから早くしろよ。でもここ、背景の宇宙が壮大な感じでイイよな。ルールは四人の乱闘に戻したな? よし、そんじゃ――」
「そんじゃ?」
「――勝った奴は宗一をオモチャにする権利獲得な!」
姉貴の言葉に、姉さんたちが本気の目になった。
愛姉がいたら、弟くんがかわいそうでしょ! と怒ってくれるところだ。しかしここには味方はいない。もしかしたら秘姉は自分が勝つことで俺を守ろうとしてくれてるかもしれないし、ニゴ姉もそう思ってくれる可能性はあるけど、他の姉さんはニヤニヤしていたりニコニコしていたり口元からよだれを垂らしたりしている。俺は決意した。基本的人権の尊重を訴え、弟労働条件の改善を目指さねばならない。大春闘スマッシュヤンガーブラザーズ。全ての弟族に告げる……戦え!
「じゃあ俺が勝ったら何か美味しいもの奢ってもらうから!」
俺は負けた。五戦やってひとりひとりの姉さんに勝たれた。もうだめだ。
――第三部へ続く――




