○▽/シャロと秘代と一緒にデート~お姉ちゃんだって拗ねるもん~
「○▽/シャロと秘代と一緒にデート~三人同士で××××~」の続きです。
〈 ○▽ 〉
カフェ・ティアラミスを後にしたシャロ姉・秘姉・俺は、時計職人の工房へと向かっていた。
距離も近いし、道も簡単だ。シャロ姉なら十分一人で来られただろうし、本来なら呼びつけてきた時計職人が道を案内するべきだと思う。だがシャロ姉が俺たちとデートしたかったなら仕方がない。
俺たちとこうして手を繋ぎ合って歩きたかったなら仕方ない。
「いや、仕方なくはないだろ」
「宗ちゃん? 突然どうしたの?」
「あー、どうもいろんな通行人に見られているような気がして」
金髪ロングのグラマラスな美女と、華奢な小動物系美少女が、普通の男子高校生と手を繋いで歩いているこの光景は異様だと思う。
「そうねえ。あら? でもひめちゃん、恥ずかしがってないじゃない?」
「ぼ、ぼくは……風魔流忍術『影』を使ってるから、誰にも気づかれてない……」
「なあんだ、それなら安心ね」
こういうときに『じゃあ、私と宗くんは二人っきりで恋人繋ぎをしているように見えるということだね。まさにカップル』とか言いながら無理やり指と指を絡ませてくるようなどこかの変態姉とは違って、シャロ姉はあくまで姉弟として俺と付き合ってくれる。
たまに無防備すぎたり、恋人のようなからかいをしてくるが、それは姉として可愛い弟の恥ずかしがる姿を見たいだけなのだ。できればやめてほしいけど。
「それにしても、秘姉はすごいよね」
隣のぴょこぴょこ跳ねる黒いポニーテールに目を向ける。
「そりゃシャロ姉は機械の天才で、ニゴ姉は魔法みたいな科学の結晶で、響は音楽の天……秀才で、ゆら姉は異次元級に綺麗だけどさ。秘姉は忍術でなんでもできるじゃん」
「ひぅっ!? で、でも、ぼく、おねえちゃんたちと違って、女の子らしくないし……」
「すごいことには変わりないよ。っていうか、秘姉は女の子らしくて可愛いと思うよ。小さい女子はモテるし」
秘姉が「うぅ……」とか言いながら俺の手をするすると離し、小指だけを握ってくる。
可愛いと思っているのは本当だ。けれど、こういうことは、いつもからかってくる『姉』という存在をこうして恥ずかしがらせていると逆襲って感じがして気分がいいからこそ言える、というのもある。
と、「むぅ~」と唸る声がするのでシャロ姉のほうを見た。
「む~、宗ちゃん」
「ん?」
「ひめちゃんばっかじゃなくて、お姉ちゃんも褒めてよ~」
シャロ姉は、よよよ、と指先で目元の涙をぬぐうフリをする。
「じゃないとお姉ちゃん、すねちゃうもん」
「えぇ……さっき『機械の天才』って言ったじゃん」
「それだけじゃだめなの! もっとお姉ちゃん自身が気づいてないようなことで褒めて~」
難しい問題だ。
なにがって、この姉さんは秘姉とは違い、褒めると『好き好きオーラ』を溢れさせてきて人目も気にせず俺を子ども扱いし始める。危険だ。
「うーん……」
褒め言葉を思いついたことは思いついたが、なかなか言い出せずにいると、シャロ姉が動く。
「ねえ、お姉ちゃんを褒めてくれないの? 悪い子の宗ちゃんには、お仕置きね」
シャロ姉は腕に抱きついてきて、そこにやわらかい感触のものを押しつける。
「褒めてくれないと、もーっとキツいお仕置きしちゃうわ?」
更に周囲の通行人からの視線が集まってきた気がする。感じるのは優越感じゃなく、焦燥感だ。
慌てて「わ、わかったわかった、褒めるよ」と言うと、シャロ姉は離れて俺の顔を見つめる。
物欲しそうな表情をするシャロ姉に、俺は仕方なく言った。
「シャロ姉はさ……姉の手本だよね。家庭を切り盛りしてくれて、いつも俺や秘姉たち弟妹を気にかけてくれてる。今日、俺をデートに誘ったのも、陸上部で記録が出せない俺を気遣ってのものだったんでしょ? 本当に嬉しいと思ってる。けどさ」
俺はまだ白む気配のない空を見上げる。
「そんなふうに理想の姉になってくれるまで、いろんな努力があったと思うんだ。古代で天才博士とか呼ばれて、きっと悩みとか葛藤とかあったんだと思う。でも、それを感じさせない優しさをたくさん持ってる。だからシャロ姉の良いところは」
金髪の姉さんに視線を戻す。
「天才である以上に、努力家なところだと思う」
しばらく三人とも黙っていた。
シャロ姉も、秘姉も、俺も――照れてしまって、何も言えない。
だがこういうときに一番早くいつものペースを取り戻すのは、いつだってシャロ姉だ。
「宗ちゃん……」
「ん」
頬を染めながらもにっこりと笑顔になり、また腕に抱きついてくる。
幸せそうな声色で、
「宗ちゃん、だいすきっ!」
結局抱きつかれたままだが、まあいいか、という気持ちだ。歩いていく。楽しいデートになってよかった。いや、冒険だっけ。
「シャロと秘代と一緒にデート編」はこれで終わりです。




