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その四十二(敵の敵は味方?)

その四十二


後藤達一行が、無事に目標を成し遂げる為に、カゲローが考えた作戦は以下の通りだ。


作戦1、戦闘は極力避ける。その為には、出来るだけ物音を立てない事。


作戦2、もし、狭い通路を通らなければいけない状況に陥った場合は、カゲロー、山口、後藤、神崎、西丸、竜二の順で進む事。基本的に、ニコは竜二、ミツオは山口が持ち運んで行動する事。


此処までは問題無い。ニコとミツオが離れた位置にいれば、もしも、何らかの原因で、列が分断されたとしても、[絆]で合流する事が可能だ。当然、誰もが最後まで、纏まって行動して行きたいと考えているが、洞窟内では何が起こるのかが想像出来ない。よって、出来るだけ不測の事態が発生しない様にと、考えておかなくてはならない事だった。そして、ここからが非常時の作戦になる。


作戦3、視覚以外の何らかの力で、物を感知出来る化け物と遭遇してしまった場合。その場合は、全てカゲローが化け物を処理し、竜二と西丸で、残りの非戦闘員(後藤と神崎、そして山口の事)を守る事。


作戦4、これが最も最悪な状況に陥った時のものだ。

カゲローが命を落とした場合。カゲローのシャドウスマイルは、時間にのみ効果が制限されるものだ。だが、実際のところ、制限はそれだけでは無いのかもしれない。簡単に言えば、カゲローが死亡してしまった場合には、効果が無くなる可能性が高いらしい。…当然の事だが、試した事が無いので、あくまでも可能性の話となるのだが。以前、実際に動物にシャドウスマイルを掛けて、殺害してみた処、姿が視認出来る様になったらしい。(気絶や、意識を失う程度ならば能力は継続した。)これはあくまでも、能力をかけられた対象の話であって、かける側の話ではない。よって、実際の処は分からないのが現状なのだが、考えておかない訳にはいかない事だろう。

もしも、カゲローが死亡した場合は、山口の指示に従う事になっている。その時の状況、洞窟の進行具合によって、引き返すか進むかを考えなくてはならない。その際、洞窟の道順を覚えている、山口が指示を出すのが適任であった。


これらがカゲローの考えた作戦である。その他に問題が生じた場合は、全てカゲローの判断に従う事になっていた。


「何してんだ?あいつら?」


後藤は、崖下にいる侍達を眺めながら言った。ナーガと黒いローブの者達、5人が洞窟に入り、既に10分は経過しているのだが、侍達は、一向に洞窟に入る気配が無かった。皆、俯いて座っていたり、中には、何故か涙を流している者までいた。


「さあなー。特になんもしてないみたいだしな。」


後藤は神崎に話し掛けたつもりだったのだが、応えた者は、自分と同じ服装の、スキンヘッドの男だった。


「あ、竜二さん。あれ?神崎は…。」


先程まで、隣で一緒に崖下を眺めていた神崎は、崖にある横穴の、奥の方に移動していた。見れば西丸と何か話している。


「そろそろ出発出来るみてぇだから、俺達も奥に行こうぜ。」


「はい。」


後藤は緊張と不安が入り混じった、複雑な表情を浮かべて返事をした。二人は、横穴の一番奥に、隠す様に駐車してあった、空車に向かって歩きだした。


「下の侍達が何をしているのかは知らんが。俺達も中に入ろう。」


言葉を発したカゲローは、一人だけ服装が違う。彼は、黒のトレンチコートを羽織っており、顔には、上部が角張った黒いマスクを装着している。そのマスクのせいで、カゲローの顔は、目と鼻しか確認する事が出来ない。それらは、彼が古くから愛用していた物らしいが、コートの折り目は、新品同様にくっきりと整っており、皺一つ見られなかった。細い体系の彼が着たその姿は、モデルの様な気品が、うっすらと感じられた。


「あいつらに感づかれない様に、ゆっくり崖を降りるのか?何かめんどくせぇなぁ。」


「その必要は無い。」


カゲローは、感情が一切籠もっていない声で応えると、急に走りだし、崖下に飛び降りていった。


「おっおい!」


「嘘…だろ。」


竜二と後藤が驚きの声をあげた。大きな窪みから飛び降り、上空に飛び出したカゲローは、右腕で素早く腰のホルスターから銃を引き抜き、そのまま、銃を構える事無く、腕を振り回した。


「パパパパパパパパパァ!」


カゲローは、腕と共に身体も回転させ、引き金を連続して引く。黒のトレンチコートが風圧に靡き、後藤達には、宙でカゲローが踊っている様に見えていた。残念ながら、その美しい舞は、崖下の侍達には見えていない。


「ドサッ。」「バタ。」


「な、何だ!?どうした!?…うっ!」


カゲローの銃弾は、正確に侍達に吸い込まれていく。普通の人間には、絶対に出来ない芸当だが、長年の血のにじむ訓練や、今までの戦闘の経験から、カゲローには、その神業とも言える行為が可能だった。


「おっおい!しっかりしろ!」


「ぐぅ〜。」


先程、銃弾と言ったが、それは正しい表現では無い。カゲローの銃の一つは、銃身がとても細く、そこから放たれる物は、銃口よりも更に細い、一本の針であった。以前、山口に向けられて発砲されたそれは、相手に致命傷を負わせる為の者では無く、敵を無力化させる事に適している、麻酔銃だった。弾丸とは異なる、特殊な針を打ち込む麻酔銃は、普通の銃弾を打ち出す銃に比べて、コントロールがとても難しい。しかし、カゲローの放った麻酔針は、鎧の隙間から垣間見える皮膚に、正確に突き刺さって行く。


「ズザァ!」


「何か落ちて来たぞ!見えないけど此処に何か…。」「パァ!」


侍の一人は、言葉を言い終える前に、うつ伏せに倒れていた。


(針切れか。)


カゲローは、二十メートルは有る、崖上から着地したにも関わらず、身体に傷一つ負っていなかった。それどころか、着地と同時に、ホルスターの中に納められている小箱から、麻酔針を取り出し、銃に装填し初めていた。その行動からも、彼の人間離れした、身体能力がうかがえる。


「ヒュン。ヒュン。ヒュン。」


カゲローに向かって、複数本の矢が放たれた。しかし、それらの矢は、カゲローが着地したと思われる、大体の位置に向かって放たれた物で有り、あらぬ方向に飛んで行った。カゲローの身体にはかすりもしない。


「ナーガ様をお呼びに…。」「パパパパァ。」


麻酔銃から聞こえた軽い音により、男の指示は遮られた。カゲローは引き続き、左方向に走りながら、引き金を引き続ける。


「パパパパァ!」


(…こいつら。やはり。)


「に、逃げろー!。退却だぁー!」


二十人はいた侍達は、瞬く間に人数を減らし、立っている者は五人しかいなくなっていた。


(やれやれ。)


「パパパパパァ!」


「うっ。」「止めっ。」「たすけっ」「ぐっ」「キン!」


カゲローの放った麻酔針は、侍達の腕や首、頬に打ち込まれた。…一人を除いてだが。


「カゲロー…だな。どうして此処にいるんだ?…まいったね。」


麻酔針を刀で撃ち落とした男が言う。当然、麻酔針は男には見えていない筈なのだが、刀の軌道には、一切の迷いが感じられなかった。


「ふん。貴族の家系のみが入隊出来る名前だけの隊。桜花隊にも、それなりの奴がいたのか。」


セリカピアには、貴族の若者達のみで編成された軍隊が存在する。将来、王宮の(まつりごと)を担う事が約束されている彼等は、本来ならば、戦いには決して参加せず、鉱石調査や、小動物の狩り等を行っている。それらの活動も、熟練の戦士に保護してもらいながら行うのが、暗黙のルールとなっていた。貴族の人間を危険な目に合わせては行けない。そんな常識があるのならば、何故、軍隊を編成する必要があるのか。常識ある人間ならば、そう思うのが普通なのかもしれない。しかし、貴族の者達にとっては、軍隊に入隊する事は、とても重要な意味を持っているのだ。簡潔に言えば、箔を付くのだ。軍隊に入隊していた経験の有る貴族は、桜花隊の現状を知らない民達にとっては、自分の身を削って、王宮の為に働く、勇敢な者と言うレッテルが貼られる。それは将来、王宮の政を担う若者達には、喉から手が出る程ほしい物だった。公には無い話だが、貴族も貴族、かなり上流の者にもなると、籍のみ、桜花隊に置かせておく事も可能となるらしい。


「おまえ。本当に国王を殺ったのか?」


「…。」


唐突な質問に、カゲローは応えない。男は構わずに話を続ける。


「おまえの経歴を見る限り、家族を犠牲にしてまで、そんな事をする奴だとは思えないんだがな。」


「パァ!」「キン!」


またしても、透明な麻酔針は、男では無く、地面に突き刺さった。


(…できる。)


「俺は殺ってない。そう言えば、黙って俺を見過ごすのか?」


カゲローの質問に、男は、刀を鞘に納めながら応える。


「見過ごして欲しいのは俺の方だけどな。次は叩き落とせる自信ないから、出来れば撃たないで欲しいわ。」


男の口調からは、友人と話しているかの様な、どこか楽しそうな雰囲気が感じとれた。


(…嘘だな。見えない麻酔針を一度ならず、二度も叩き落としたんだ。…何かの能力か、或いは装備をしている筈だ。)


「お前は何者だ?」


「俺はG・Pって言う組織のメンバー。わけあって、今はこんな格好をしているがね。あんたと同じ、今の王宮に仇なす者だな。」


「俺は違う!俺は…。お前が王宮に仇なす者ならば、…殺す。」


カゲローはホルスターに差してある、もう一つの銃に手をかける。


「待て!待て!待てって!面白そうだけど、今、あんたと殺し合ってる暇は無いんだ。それにほら、あんたがその気なら、俺、上の奴らから先に殺しちゃうよ。」


男の口調は、話しが進むに連れて、狂気を帯びたものに変化していった。


(驚いたな。まさかとは思っていたが、あんな仕打ちを受けても、まだ、ケレンの事を信頼しているのか。)


「此処に来た目的を言え。」


(まいったねー。上手く行けば、仲間に引き入れられるかと思ったんだけどな。)


「あんたの良く知る人物を待ってるんだよ。そんで合流したら、ナーガがこの洞窟に来た、真の目的を探る。頼むから邪魔はしないでくれよ。俺がやっとの思いで掴んだ情報なんだ。あんたらが何しに来たのかは分からないが、俺の邪魔をする事だけは許さない。…もし、その気ならば、洞窟に入る前に全滅させてもらうわ。」


男の口調から察するに、冗談では無い。その事は、男と対峙している、カゲローが一番良く分かっていた。


(殺しておくか…。いや、俺達に害が無いのであれば、余計な戦いは避けるべきだな。この男と、後藤達を守りながら戦うのは、骨が折れそうだ。)


「良いだろう。お互いに干渉するのは止めよう。それで?俺が知る人物とは?」


「あんたと嫁さんの、士官学校時代の同級生だよ。…ノブリちゃんだ。」


(…ちゃん!?)


カゲローの表情が、僅かにだが引きつる。


(ノブリ…チビ女か。…厄介な奴だ。)


カゲローは以前、そう呼んでいた女性の事を思い出した。そして苦い顔をする。


(ナイムやマイと仲が良かったな。)


「さて…。こっちの仲間はまだ到着しそうに無いわ。あんた達は先に入ってれば?」


「ああ、そうさせて貰う。忠告しておくが、チビ…いや、ノブリには用心しておけ。」


カゲローは、過去に合った、悲惨な出来事を思い出していた。


「はは。面倒な子なのか?でも、多分もっと面倒な子も一緒だから、多少の事なら気になんないわ。」


男は苦笑してながら言う。


「お前達!下はもう大丈夫だ!さっさと降りてこい!」


(降りてこいったって、僕達は普通の人間なんだぞ。カゲローみたいに、簡単には降りれないだろ。それに、戦闘は出来るだけ避けるんじゃなかったのかよ。)


後藤は心の中で呟いたが、山口の発言により、自分達の仲間には、普通では無い者もいる事に気付かされた。


「竜二さんはニコちゃんを連れて、先に触手で降りてよ。私達は、ミツオと一緒に降りるから。」


「何で俺だけ呼び捨て何だよ!」


「ミツオ!子供みたいな事を言っちゃいけません!」


山口の茶色のズボンの、右ポケットと左ポケットから、甲高い声が聞こえた。しかし、山口は相手にしない。


「じゃあ竜二さん。ニコちゃんを宜しく。」


「…おう。何か潰しちまいそうでおっかねぇな。」


山口が、丁寧にポケットからニコを取り出し、竜二に手渡した。竜二も山口と同様に、自分のポケットに慎重に入れる。ズボンのポケットの底は浅く、ニコの上半身のみが姿を表している。


「宜しくお願いします。」


「任せときな。」


ニコが言うと、竜二は笑顔で応え、ゆっくりと横穴の端に向かって歩きだした。そして、地面に、右の掌から出現した、三本の触手を深々と突き刺し、自分の体重をその三本で支え、触手を伸ばしながら、ゆっくりと崖下に降りて行った。


「あれってあんなに長いんだな。」


「…そうみたいだな。」


後藤の言葉に、神崎は無表情で応える。神崎には、興味の無い話題だったのか、それとも、これから先の未来に対して、不安を感じているが為に、会話が上の空だったのかは分からないが、人の良い神崎にしては、珍しい反応だった。


「着いたみたいね。ミツオちゃん、宜しく。」


結局、竜二の触手が何処まで伸びるのかを確認する事は出来なかった。触手は、彼の両足が地面に着くまで、ゆっくりと伸び続けていたからだ。崖下に到着した竜二は、弾丸の様な速度で、伸びた触手を掌の中に回収し、何事も無かったかの様に、こちらに手を振っている。


「…やっぱり呼び捨てで良いや。何か馬鹿にされてるみたいだ。」


「でしょ?男と女はいろいろ違うのよ。良い男になりたかったら覚えておきなさい。」


山口は可愛らしい笑顔を作って言った。ミツオの顔が若干赤くなったのを、後藤は見逃さなかった。


「じゃあみんな。俺の周りに集まってくれ。」

「もう集まってるよ。落ち着け。」


後藤はそう言い、笑みを零した。


「お、おう。じゃあ行くぞ!」


(絆。)


ミツオは目を閉じて、強く、その言葉を思い浮かべた。後藤達は、立ち眩みにも似た、不快な気分を味わいながら、目蓋を閉じる。


「随分な人数で行くんだな。全員、同じ防具で気持ち悪いぞ。」


後藤は、聞き慣れない声を耳にして、目蓋を開いた。そこには侍が一人、砕けた岩石の上に腰を降ろしていた。その岩石は、ハーピーが落とした物であり、砕けた岩の下には…。


「カゲローさん。この人は?」


「知らん。」


カゲローは、あちこちで眠っている侍達に、シャドウスマイルをかけて廻っていた。眠ったまま、ハーピーの餌になる事を懸念しての事だろう。


(敵にそこまでする必要あるのか?)


後藤は、自分達が洞窟から出て来た時の事を考えて、カゲローの行動に僅かに疑問を感じたが、直ぐに考えを改めた。何故なら後藤は、普通の優しい人間だったのだから。


「あの?僕達の事、見えてるんですか?」


「いや、全く見えないわ。あんたら、見た事無い種族だな。」


(馬鹿にしてるのか?)


「相手にするな。こいつは無害だ。それに、シャドウスマイルは全員にかかっている。お前達の姿が見えるのは、シャドウスマイルにかかっている者だけだ。」


(んな事言ったって不安になるじゃないか。実際、この人は、僕達の服装まで分かったんだから。てか、じゃあもし、今、侍達が目を覚ましたら…)


「作戦を忘れるなよ。…中に入るぞ。」


カゲローは、眠っている全員に、シャドウスマイルをかけ終わり、一息付く間もなく、指示を出した。


(いよいよか。)


「あ、一つ忠告。全死兵…黒のローブを着たあいつらには、何かがあるぞ。今日の朝、ナーガがいきなり連れて来たんだ。俺達には何の説明も無くな。ありゃあ危険な匂いがプンプンするわ。」


「後藤と神崎から話は聞いた。侍達とは違い、洞窟内まで連れて行くのだから、ナーガもそれなりの戦力として見ているのだろう。」


(あれは…人間だったのか?)


後藤は、砕けた岩石を眺めながら思った。今でも、あの時の光景を思い出しただけで、鳥肌が立つ。


「んじゃ、またな。」


「…。」


男は、軽い口調で言う。それに対しカゲローは、言葉を返さずに、男に背中を向けた。


「…行くぞ。」


後藤達一向は、暗い洞窟の中に足を踏み入れた。明るい未来を手に入れる為に…。


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