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その三十八〜その三十九

その三十八


私達は、ホテルの二階に位置する、二十畳程の部屋に集まっていた。この部屋は、ミス・ホリーに頼んで貸してもらった会議室であり、中央には、部屋の広さの三分の一を占める程の白いテーブルと、部屋の壁に沿って、一枚のホワイトボードらしき物が置いてあった。勿論、部屋の借用には料金が発生しており、カゲローさんに前払いで払ってもらっていた。この部屋にみんなを集めたのも、他の誰でも無く、カゲローさん本人であった。


「弁当と人数分の助長機だ。もしもの時、侍隊達に命乞いが出来る様に必要な物だろう。」


発言した者の表情が明るいものであったのならば、冗談にも聞こえたのかもしれない。しかし、実際に言葉を発した男は、怖い程に無表情であり、その瞳からは、何一つの感情も感じられなかった。凍りついた瞳だ。私は彼の瞳を見て、背筋が凍る思いと共に、憐れみの気持ちが浮かんできた。


「腹減ってたんだよな!サンキュー。」


竜二さんは、テーブルの上に並べられたそれらを、陽気な足取りで持ち去り、床に座り込んだ。


竜二さんの行動を切っ掛けに、私達もそれに続く。私は一人分の助長機と弁当を手に取り、カゲローさんの隣に座った。手に持った弁当からは、暖かい温もりが感じられ、不思議な安堵感が得られた。


(テーブルはあるのに椅子は無いのね。)


今さら、この程度の不自然な事に、声をあげる者はいない。皆、黙ったまま床に座り、弁当を食べ始めた。


全員が弁当の蓋を開けると、部屋中に香ばしい、食欲をそそる良い匂いが充満した。私は一人、その匂いに吐き気を覚えていた。


(どうして、よりによってこんな時に。…もう諦めていたのに。)


「どうしたんですか?見た事無い食べ物ですけど、中々いけますよ。」


蓋を開けたまま動こうとしない私に、神崎さんが声を掛けてきた。その言葉に山口さんが反応し、私の顔を遠くからじっと見つめる。山口さんは私と同室であった為、私の体調の変化をうっすらと感じ取っていたのだろう。


「あっはい!頂きます。」


私は山口さんの視線から逃れたい一心で、弁当の蓋に付いていたスプーンを乱暴に引き剥がし、口の中に見たことも無い食べ物をかき込んだ。


「ははは。腹減ってたんですね。」


神崎さんは、嗚咽と伴に逆流してきそうな食べ物を、無理矢理喉に流し込んでいる私を見て、嬉しそうに笑っていた。気付けば山口さんも、私から視線を外していた。


(みんな、竜二さんみたいに単純なら良いんだけど。)


私は、裂けんばかりの大きな口を開けて、私と同様に、弁当をかき込んでいる男を見て思った。


「食べながら聞いてくれ。明日の作戦を説明する。」


「あ、ちょっと待って下さい。」


カゲローさんの話を神崎さんが中断させた。全員の視線が神崎さんに集まると、彼は恥ずかしそうに頭を掻きながら、とんでも無い事を口にした。


「上條さんは生理だから明日は行けませんよ。」


男性陣は、テレビに見入っている子供の様に、口を開けたまま呆気にとられている。山口さんだけが納得した様に「やっぱりね。」と呟いていた。私はこのままではまずいと思い、何とかして自分も洞窟に行ける様に、話を進めようとした。


「大丈夫です。私も行きます。」


(リーダーである私だけが、安全な場所でのうのうと過ごす訳には行かない。私だって何らかの役には立つ筈。)


私は強い意思を込めて言った。しかし、私の意見は通らなかった。


「ダメです。」「ダメだな。」


みんなが一様に私の意見を否定した。


「しかし!私はっ」


「上條さんにはやって頂く事があります。」


またしても、全員の視線が神崎さんに向けられる。


「俺はこの光景を見てきました。上條さんにはみんなの為にやってもらわなくちゃいけない事があるんです。」


(興味深い話ね。)


神崎さんが言うのならば、それは私達にとって本当に必要な事なのだろう。


「おいおい!お嬢は調子がわりぃんだぞ!」


「竜二さん!ありがとうございます。でも大丈夫ですよ。神崎さんが見てきた事ならば間違いは無いんですから。」


そう。彼の予知能力のお陰で、私達は今までに何度も助けられている。今更疑う余地は無かった。


「上條さんには明日、王宮の中町に有る、とある建物に行って貰います。正午の二十分前に、この宿をタクシーで出て下さい。注意点は一つ。建物に着いたら、すぐに金属製の箪笥の中に隠れて下さい。」


言葉の意味は分かるが、目的は全く分からない。以前にも聞いた事だが、彼の能力はそういった物らしい。


「分かりました。それで?その建物は何処にあるんですか?…まさかとは思いますが、それも分からないんですか?」


「タクシーの運転手に目的地を聞かれたら、[自分が取り戻せる場所]。そう伝えて下さい。」


「自分が取り戻せる場所?それだけ言えば良いんですか?」


「はい。…ふぅ。良かったー。ちゃんと言えたわ。いつもだけど、この時だけは緊張すんだよなー。」


「おい。勝手に話を終わらせるなよ。何だよ、箪笥に隠れろって。危ない場所なんじゃないか?」


任務を全うして、完全に気を抜いている神崎さんに、後藤さんが怒った口調で問い掛ける。私の事を心配してくれているのだ。


「あのなー。いい加減に慣れてくれよ。俺には…。」


「分からない、ですよね。」


神崎さんの言葉を私が引き継ぐ。


「分かった。お嬢。俺も残ってついて行きますよ。」


(竜二さん。いつも本当にありがとうございます。)


「いえ。竜二さんには不死の洞窟に行ってもらいます。いざという時には、戦える能力を持ったあなたがみんなを守らなくてはいけませんからね。」


「俺一人で充分だ。」


小さく呟いたカゲローさんを無視して、私は話を続ける。


「みんなを守ってあげて下さいね。…お願いしますよ。」


「…分かりました。」


私の真剣な表情を見て、竜二さんは渋々納得してくれた。


(これで良いのよ。神崎さんの予知ならば、物事は良い方向にしか運ばない筈だもの。)


「カゲローさん。明日の作戦をお願いします。」


私は話を元に戻した。


「ああ、明日の作戦だが…。」


「ビリビリビリィ!」


私達は急に聞こえた不可思議な音に驚き、目を丸くした。カゲローさんが鬱陶しそうに、ポケットからサポーターと呼ばれる機械を取り出す。


「話が進まんな。…ヘムが到着したらしい。下に降りるぞ。」


みんなが身を守る為に必要な、武器や防具を持ったヘムさんが到着した様だ。願わくば、みんなの命を危険から守ってくれる物であって欲しい。


「もう。女同士何だから私には相談してくれても良いのに。年下だって相談ぐらいには乗れるよ。」


会議室を出て、一階に向かっている途中で、山口さんが私だけに聞こえる様な小さな声で言った。


「そうでしたね。ごめんなさい。次はお願いしますね。」


私は内心とは裏腹に、笑顔で応えた。


(薬を飲まないで生理が来たの何て何年ぶりかしら。…もう諦めていたのに。)


続発性無月経。それは、定期的に来ていた生理が、三カ月以上来なくなった状態の事を言う。勿論、妊娠している訳ではない。様々な原因が考えられるが、私の場合は、仕事や私生活でのストレスが原因だった。私は数年前から、薬を服用しなければ生理が来ない、そんな身体になっていた。


(何故だかは分からないけど、この世界に来てそれが治った。それだけでこの世界は素晴らしいと思える。しかし、それ以上に、この世界ではみんなが私を必要としてくれる。それに身体の心配までしてくれている。)


それは元の世界では考えられない事だった。元の世界…。それは苦痛の世界でしかなかった。一人で泣き明かした夜は一度や二度では無い。ストレスで胃に穴が開いた事もあった。それでも私は、みんなのリーダーとして、元の世界に帰る為の行動を指揮している。




(…私は、)




その三十九


「あ、お帰り。どうだった?」


森の中にあるG・Pの隠れ家。そこに帰って来た私を出迎えたのは、明らかに体格と不相応な、巨大な右腕を持ったミリヤだった。


(あの腕は…。)


私の視線に気付いたミリヤは、嬉しそうに言った。


「アントンに持って来てもらった荷物はこれなんだ。イハエアの腕。以前、兄貴がギルドの仕事で討伐した時に、腕だけ私が貰っておいたんだ。格好良いでしょ?」


イハエア。その生き物は[人間では無い者]の中級種族であり、戦闘能力は高い。イハエアの持つある能力を除けば、それ程驚異的な存在では無いが、その危険な能力を持っているが為に、中級種族として位置付けられている。ミリヤの巨大な灰色の右腕は、それ自体が命を持っているかの様に、大きく波打ち、見る者を不快にさせる、紫色の血管が大量に浮き上がっていた。


「人間に、しかも自分に移植させるなんて、間違い無く精神異常者ね。」


私の皮肉に、ミリヤは笑顔を崩さない。


「ありがとう。いつの時代も天才はそう言われてきたわ。それより、そっちの状況は?」


私は明日の侍隊の尾行に備えて、単身で王宮に乗り込み、物質を調達して来ていた。私は背中に背負っていた、大きな荷物を床に置き、王宮内の状況を話し始めた。


「私達の事、と言っても主に私の事だけれど、特に何も話題にはなっていなかったわ。都市内では、神を名乗る詐欺師についてとアマミカミというギルドチームの話題ぐらいしか聞こえてこなかった。しかし、都市内の侍隊による見回りは強化されていたわ。表向きは詐欺師を捕まえる為らしいけど、実際は私達の生き残りを警戒しての事でしょう。」


「転送の儀式で、急に夜になった事は話題になってないの?てか、アマミカミって?」


「急に暗くなったのは、アマミカミの悪事が関係している事になっているわ。奴らは、つい二日前に王宮図書館の書物を盗み出したらしい。まぁ、王宮の情報操作の可能性は高いわね。」


「はは。何かそのアマミカミって奴ら、気の毒ね。その内、詐欺師の容疑も掛けられるんじゃない?」


「王宮の情報操作により、悪人が極悪人に仕立て上げられる事は良くある話よ。そういった時、裏では何か重要な情報が隠されているわ。」


「バタン!」


「例えば、神の出現…とか?」


木製の扉が勢い良く開け放たれた。古い建物であるこの扉は、それだけで壊れそうな程に歪んでいた。


「お〜。お帰り!って事は飯か?」


「ちょっとー。気を付けなさいよ。壊れたらどうすんのさ。」


森内はミリヤの言葉を無視する。しかし、その行為に対して、彼女には悪気が全く無い。


「また一人で外にいたのね。能力の訓練は、数をこなす事が一番効果があると教えたのは私だけど、一人で外をうろつくのは感心出来ないわ。」


彼女が着ていた簡素な衣服は、汗を吸収して色が変わっていた。そして、彼女の一番の特徴であるドレッドヘアーは、この世界に来てから一度も手入れが出来ていない為に、不可思議な髪型になっていた。その頭は、さながら下級種族のメデューサの様に、細長い蛇が密集して、絡みついている姿によく似ていた。


「へへ。ごめんごめん。でも大分、分かってきたよ。数をこなしたのと、やっぱり能力に名前を付けたのが良かったのかもな。サンキュー。」


「加護…捻りの無い名前ね。」


注意を無視されたミリヤが、不機嫌そうに嫌みを言う。


「俺は分かりやすいから気に入ってるよ。おっ…。お前の新しい腕、くっ付いたんだな。すげえ格好良いじゃん!」


嫌みを言ったミリヤの心情を、本気で気が付いていない森内。ミリヤも腕の事を誉められて、どうしたものかと、首を傾げながらニヤついていた。


「飯にしようぜ。」


(全く…。)


「食事の前に、買ってきた物を配っておこう。」


私は床に置いた大きな袋から中身を取り出し、丁寧に並べた。


「力の指輪を二つ、体幹の腕輪を二つ、シルキスの服を上下で三人分、関節や急所を保護する為のメルプレートを何枚かと、ケンタウロスの靴を二人分。後は消耗品が幾つかと、私の武器の投げナイフと短刀ね。」


森内の頭の上にはたくさんのクエスチョンマークが出現していた。私は彼女にも分かるように説明する。


「まずは身体能力を向上させる装飾品ね。力の指輪と体感の腕輪は、名前の通り、装着した者の筋力と耐力を向上させる。これらの、装着者に直接作用する装飾品は、一人二つまでしか効果が無いのが注意点よ。三つ以上装着した場合は、どれか一つの効果が失われる事になるわ。それと、能力を持った人は一つしか装着出来ない。能力と、これらの物がどんな関係があるのかは分からないけど、私達が二つ以上装着すると、装着している間は能力が失われるわ。」


「要するに、あんたは一つしか装備しちゃいけないって事。」


難しい顔をしている森内に、ミリヤが分かり易く説明した。


「実は、こういった類の装飾品の構造は、私達もよく分かっていないんだ。他の種族が経営している会社が、独占して製作していて、製造方法等はその会社の極秘情報となっている。それに、これらの装飾品の歴史はまだ浅く、市場に出回ったのも数年前からよ。」


「あっそう。他のやつは?」


森内は私の話に興味が無かった様だ。


(分かり易い子ね。)


彼女の年齢が幾つなのかは分からない。しかし、中々言うことを聞いてくれない、可愛い妹の様に思えてきた。


「シルキスの服は、特殊な金属の繊維で編み込まれている服で、耐斬撃性に優れている。メルプレートは、細かい沢山の組織で形成されている。その組織内に衝撃を吸収する液体が入っていて、耐打撃性に優れた作りになっている。ケンタウロスの靴は、先端部に金属のプレートが入っただけのただの靴だ。」


「なる程ね。てか靴足りなくないか?」


「私は今履いている靴で良い。それと装飾品もいらない。既に装着しているから。」


私は首に巻いている、緑色の宝石があしらわれたネックレスを見せた。


「へぇ。それはどんな効果があるの?」


ミリヤが身体を乗り出して、私の首もとに興味を示した。


「これは疾風のネックレス。これを装着すれば、俊敏な動きが可能になるわ。靴は、底面に小さくて強靭なバネが沢山入っている。その特殊なバネが軽快なステップを補助してくれたり、高所からの着地の衝撃を吸収してくれる。どちらも特注品よ。」


「流石にお偉いさんはそれなりの装備を支給されてるんだー。」


「そうね。」


侍第三隊の副隊長を務めていた私は、強力な武器や防具、装飾品が支給されていた。それなりの支給品しか貰っていなかった部下達には、申し訳無く思う気持ちが少なからずあったが、その分、それらを装備する際は、第一線で、誰よりも危険な位置を受け持って行動しよう。そう思っていた。それらの支給品の殆どは現在、セリカピア城内の私室にあるのだが…。


(今回もそうだ。私が誰よりも危険な場所で、みんなを守るんだ。)


私は強い気持ちを込めて頷いた。そんな私を見て、何かを感じ取ったミリヤが声を掛けてくる。


「私も森内もそこそこ戦えるから安心しなよ。私達は仲間だ。リーダーはあんただけど、全部をあんたに任せる気は無いかんね。」


「ありがとう。期待しているわ。」


(仲間…か。余計に彼女達には無傷で帰って貰わないとな。)


私はふと、侍第三隊の仲間達を思いだした。皆、こんな私を慕ってくれていたし、私も全幅の信頼を置いていた。


(彼等にはすまない事をしたわ。明日、彼等は王宮の裏切り者である私を見たら、どう思うのかしら…。)


考えたところで、答えは既に決まっていた。彼等は王宮を愛し、仲間との絆を愛している。それに仇なす裏切り者は、王宮の誇り高い戦士として、ただ排除するだけだ。


(それでも…それでも私は後悔しない。皆にどう思われようが、私は王宮を、彼等の家族を守るんだ。)


「じゃあ、俺は力の指輪にするわ。」


「ああ、使ってくれ。」


(やはりそうか。…まぁ仕方無いわね。)


ミリヤには体幹の腕輪と力の指輪を装備してもらうとして、森内にはどちらを装備してもらうか悩んでいた。私は安全面を考えて、体幹の腕輪を装備してもらいたいと考えていたが、彼女の意志を仲間として無視する事は出来なかった。これらを買う時にはかなり迷ったが、やはり最終的には本人に決めさせてあげようと思い、一つ余分に装飾品を買ってきたのだ。


「ラッキー。喧嘩しなくて済みそうね。私は体幹の腕輪を二つ貰うわ。」


(やれやれ。こうも予想が外れるとは思わなかったわ。)


ミリヤは茶色の細い腕輪を二つ、森内は、赤色の石が埋め込まれた指輪を手に取った。


「でも、こんな高級品、良く買えたわね。」


「私は犯罪者にもお尋ね者にもなっていなかったから。何も問題無く、銀行に入ってお金を卸し、高級品を扱う店に入って買ってきたわ。念の為、周辺の警戒は欠かさなかったけど。」


「やっぱり副隊長ともなると、貰うもん貰ってるのねー。お金持ちー。」


ミリヤはこの状況を楽しんでいる様だ。


「なぁ、指輪付けたけど何も変化無いぞ。全然、マッチョになってない。」


そして、この異世界から来た女性も、ミリヤと同じくして、今の状況を楽しんでいる。これはある意味では、この二人の才能で有り、長所でもあるのかもしれない。


「見た目には変化が分からないわ。メーカーの話によると、筋肉の質自体が変わるらしいから。…身体の変化に慣れておく為にも、もう一度、外で遊んで来たらどうかしら?」


「おう!分かった。」


森内はそう言い残し、扉を破壊して走り去って行った。


「ちょっとぉ!」


山口の怒声は森内には届かなかった。あの扉は、後で私が直しておくとしよう。


「ビッビッビ!ビッビッビ!」


ミリヤのサポーターが床の上で小刻みに震えた。


「あ、アントンからだわ。…はーい。ミリヤでーす。」


サポーターから男の声が聞こえる。


「俺だ。先程、G・Pに到着した。…老師はカンカンだぞ。」


「はは。まぁそれはそっちで上手くやっといてよ。村田と雛岸は?」


(老師は、今のミリヤの姿を見たらどう思うのかしら。再会した時が心配ね。感動の再会には程遠くなりそう。)


「あ、ああ。大丈夫だ。」


アントンの口調が明らかに変わった。動揺している様だ。その変化をミリヤも感じ取っていた。


「ちょっと二人に変わってくれる?」


「…………。ツウワガシャダンサレマシタ。」


「…。は?何それ。…ちょっと!父上に繋いで。」


「カシコマリマシタ。…………。ミリヤ!先程話は聞いたぞ!お前って奴は!」


サポーター越しに、老師の怒りの表情が、容易に想像出来た。


「そんな事より!二人は?村田と雛岸は!?」


ミリヤから、ただならぬ事情を感じ取ったのか、老師は落ち着いた口調で質問に応える。


「おお。部屋でぐっすり眠っておるが。どうかしたのか?」


私達は肩をなでおろし、安堵の息を付いた。


「それよりお前…。ツウワヲシャダンシマシタ。」


「アントンめ!話の途中で切るから心配するじゃないの。」


(それはお互い様ね。でもこれで一安心だわ)


「ザザザザァー!バン!バフー。」


私達は、いきなり鳴り響いた巨大な騒音に驚き、慌てて隠れ家の外に出た。そして目の前の光景に、唖然とする。


「あ…。」


右足が白く輝いている女性が、私達以上に唖然とした表情で、立ち尽くしていた。浅黒い顔は高揚し、うっすらと赤色に変わっていた。


隠れ家から、二メートル程離れた位置に、大木が横倒しになっていた。まだ砂煙が舞っている。


(指輪の力はとてもじゃないが、此処までの効果は無い。……本当に…神…なのか?)


「この指輪…。すっげぇ!」


我に返り、興奮して小さく飛び跳ねている森内。まだ、目が点になっているミリヤ。異世界から来た者の可能性を確信する私。私達三人は、明日、不死の洞窟に行く。


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