01. 尖った八重歯
始めに気づいた異変は、八重歯でした。
「キウイさん、なんだか尖った八重歯がありますね」
満月の蒼い光が差し込む、薄暗い寝室。ベッドの中で私の口の中を覗き込むのは、私の愛しい妻であるチェリーさんです。
「そうなのですか?」
「ええ。本で見た、吸血鬼さんみたいですよ」
甘い吐息とともに、私の唇へと細い指先を這わせるチェリーさん。
透き通った瞳が、いたずらっぽく細められます。
いつもはきっちりと二つに結われているワインレッドの髪は解かれ、シャワー上がりに塗り込まれたヘアオイルの香りを漂わせていました。
そんな隙だらけで愛くるしい姿を前にしては、私の理性など簡単に崩れ去ってしまいます。
気づけばその華奢な身体を、衝動のまま腕の中へと閉じ込めていました。
「ほら、チェリーさん。吸血鬼に捕まってしまいましたよ」
「あっ。……ふふ、どうしましょう」
「逃がしませんよ。生き血を啜って差し上げましょうか」
「……優しくしてくださいね?」
冗談めかした私の言葉に、チェリーさんは拒む様子もありません。
少しだけ頬を朱に染めながら、自ら白い首元を晒すように私に身を預けてきます。
「もう、チェリーさんは無防備すぎるのですから……っ」
「あ……キウイ、さんっ」
首筋に唇を寄せると、チェリーさんの身体が熱を帯びてぴくりと跳ねました。
唇から直に伝わる、とくとくという愛らしい脈動。
温もりを確かめるように手足を絡めれば、チェリーさんも愛おしそうに私の背中に腕を回し、ぎゅっと引き寄せてくれます。
こうして二人きりで熱を分け合う夜は、私にとって何よりもかけがえのない日常でした。
――この時の私は、まだ知らなかったのです。
唇を滑らせたチェリーさんの柔らかな肌。
この薄皮の向こうを流れる紅い蜜が、愛では抗えないほどの渇きを私にもたらしてしまうことを。
『人魚と姫』でお馴染みのメイドたちの
ちょっぴりダークな吸血百合ファンタジー
始まりました!
全8話で完結です。
最後は甘々ハッピーエンドで終わるので安心してお楽しみください!




