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第7話 旅立つ二人 5(最終話)

 5


 ミルセリオンと指輪を返す? どうして? 私が何も言えずにいるのを見て、ハルは言葉を続けた。

「……あのな。おっちゃん、これから終刻解放派の残党を退治したり、魔王を再封印したりする旅に出ようと思うねん。絶対に危ない旅になるから、これから先、レイナちゃんを一緒に連れていくことはできへんのよ。せやから、残念やけど、ここでお別れや」

 私は信じられない思いで目を見開く。

「な……なによ、それ……」

 ようやく絞り出した声は、自分でも驚くほどか細く、震えていた。ルカたちのパーティーを追放されて、ハルに命を助けてもらって、恩返しも兼ねて一緒に行動するようになって……。それで、また追放されるの?

「……私はハルにとって、いらない子なの? 一緒にいたら、邪魔なの?」

 自分でそう言いながら、涙が込み上げてきた。思いが言葉となってあふれ出すと、私には止めることができなくなった。

「『銀月の加護』のおかげだったかもしれないけど、ハルと一緒に戦うことができて、私は嬉しかったんだよ!? あの完璧な連携攻撃ができたのは、ミルセリオンが私たちをパートナーとして結び付けてくれたからじゃないの?『全力で剣を振ったのは500年ぶり』って言ってくれたのは何だったの?」

 ハルは困った顔をしながら、私に向けて手を伸ばしている。効かないと分かっていても、「説得」スキルを使っているのだろう。

「いや、でも、ホンマに危ないから……」

「こう言っちゃ何だけど、私がいたからベルゼに勝てたんじゃないの? それを考えても、私はただのお荷物じゃなくて、ハルのパートナーとしての資格はあると思う。それなのに『危ないから』っていう理由でお別れ? ふざけんじゃないわよ!」

 そこまで言ったところで、ふと私は口をつぐんだ。思いついたことがあったのだ。

「そうやって、親しくなった人を片っ端から遠ざけて、自分一人で生きていくの? ……もしかして、別れるのがつらいから?」

 図星だったようだ。ハルは言葉を詰まらせ、困った顔をしている。

 ハルは神の加護を受けて不死になった。親しい人や、愛した人が次々と年老いて死んでいく中で、自分一人が年も取らず、何百年もの時間を生き続けるのはどんな気分なのだろう。私には想像もつかなかった。

 それでも、と私は思う。

 ハルと離れたくない。

 それが恋愛的な感情によるものなのかどうか、私には分からなかった。

 でも、せっかく結成したパーティーを解散したくないという以上に、フィオナと死別してからずっと一人だったハルを、また一人にしたくないという気持ちが強かった。もちろん、何十年かしたら私もおばあちゃんになって、そのうち死んで、またハルを一人にしてしまうことだろう。それでも、一緒に過ごした時間には意味があるはずだ。

 フィオナやギルロスやバルフォードといった仲間と一緒に過ごした時間を忘れたくなかったからこそ、ハルは『五英雄叙事詩』を執筆したんだと思う。そこまでの大冒険は無理だとしても、せめて自分に許されている限りの時間を、一緒に過ごしたいと思うのは許されないことなんだろうか……?

 そんなことを、私は切々と訴えた。

「レイナちゃん……」

 ハルが顔を真っ赤にして、もごもごとつぶやいた。

 私には知るすべもないことだったが、このとき、私が口にしていたのは、500年前、フィオナがハルを口説き落としたときとほぼ同じ内容の話だったのだ。

 ハルの目に映るレイナに、フィオナの面影が重なる。

「どうしても返せって言うのなら、力ずくで取り戻すことね!」

 私は自分の胸にミルセリオンと指輪を抱きしめた。私の体に触らずに取り返すことはできない。案の定、ハルは顔を真っ赤にしたままオロオロするだけで、取り返すどころか触ってこようともしない。

「私は離れないからね。ミルセリオンがあれば、たとえハルが全力で走って逃げたとしても追いつけるんだから!」

「もう……かなわんなあ……」

 苦笑しながら、右手を差し出すハル。

「どうせなら、抱きしめてくれてもいいんだけど?」

 私はそう言いながら、ハルの手を握った。

「お、女の子がそんなこと言うたらアカンて! おっちゃんをからかったらアカン! おっちゃん既婚者やで!?」

 慌てふためくハルの様子があまりにも予想通りすぎて、私は思わず笑ってしまう。

「ふふふ、既婚者って言ったって、ハルが結婚してたのはもう400年近く前の話じゃない。……これからよろしくね、相棒」

「400年経っても……って、ああもう……かなわんなあ……。よろしく……」

 握手を終え、私は指輪をそっと右手の薬指につけ直した。

 伝わるかな。左手の人差し指が「自立」や「自分一人での前進」を意味するとしたら、右手の薬指は「絆」を意味するんだってこと。

 伝わらなくても、気づかれなくてもいい。今はただ、一緒に冒険の旅を続けることができたら、それでいい。

 私はハルと肩を並べて歩きだした。


 こうして私たちの冒険の第一幕は終わりを告げた。

 ギルロスと別れ、グラン・セリオンに戻った私たちは、中央ギルドで淡々と任務の達成を報告し、多額の褒賞金を手に入れた。

 グレゴールをはじめとする勇者たちは、ベルゼ討伐を達成した英雄としてグラン・セリオンに迎えられ、大々的に凱旋パレードが催された。王都全体がお祭り騒ぎの中で、私たちはひっそりと街を出た。

 次の目的地はアークフェル島。「冷徹賢者」エルディンが創設した、この国最大の魔導図書館がある島だった。

 この先に、何が待っているのだろう。

 私は大きな期待と、わずかばかりの不安を胸に、青くどこまでも広がる水平線を見つめた。

 たとえ何が待っていたとしても、二人なら乗り越えていける。そのことを私は確信していた。

『追放された女剣士、ダンジョンで冴えない中年に拾われる――その男、実は伝説の英雄でした』はこれで完結となります。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

好評を頂ければ続編を執筆したいと思います。

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