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第1話 追放、そして遭遇 1

 1


「ああ、ちょうどよかった。これで役立たずを厄介払いできる」

 ダンジョンの床に倒れた私に降り注いだのは、気遣いでもいたわりの言葉でもなく、やたらと陽気な言葉だった。

 傷口からドクドクと血があふれる。しかし、私を見下ろす勇者の目は、ひどく冷たかった。

「ここでお別れだな」

 役立たず? お別れ? 勇者がいったい何を言っているのか理解できず、私は目をしばたたかせる。

 彼の言葉の意味が理解できたのは、仲間たちの足音が遠ざかっていったときだった。


 私ことレイナ・ローランが勇者のパーティーに加わったのは3カ月前のことだった。

 それまで一緒に冒険していた仲間が一人、パーティーを抜けた。前衛で戦える剣士を探している。そう言って誘われたのだ。

 世界に数人しかいない「勇者」の仲間に選ばれたことは、私を有頂天にした。

 私の冒険者ランクはB。駆け出しというほどでもないが、AやSといった上位ランクには届かない。そんな私を誘ってくれたのは、剣士としての将来性、成長性を見込んでくれたのだと思っていた。

 しかし、私が誘われたのはまったく別の理由によるものだったと判明したのは、つい数日前のことだった。

「なあ、レイナ。君がパーティーに加入して3カ月になる。俺たちは、もう少し仲間としての距離を縮めてもいいころだと思うんだ」

 いつも利用している宿の1階にある酒場で、夕食を取っていたとき。勇者が私に話しかけてきた。

「距離を縮める……?」

「まあ、何と言うか、もう少し親密になって、お互いのことを知り合う時期なんじゃないかと思うんだよ」

 何の話をしているんだろう? と思わず首をかしげたが、おもむろに手を握られて理解した。

 いわゆる〝そういうお誘い〟というやつだ。

 すでにパーティーには女僧侶のエリサと、魔術師のハンナがいた。二人が勇者と男女関係にあることは、加入後、すぐに気づいた。明らかに三人の間には、私とは異なる特別な親密感が流れていたのだ。

 清楚でスレンダーな美人のエリサ。

 幼さの残る顔と体つきのハンナ。

 そして私は、剣士なのだから当然だけど、肉感的というか、全体的に筋肉質で、出るとこがしっかり出ているタイプ。

 つまり、二人とまったく違うタイプの私を、「三人目の恋人候補」としてパーティーに加入させたのだ。

 剣士としての腕前なんて求められていない。その事実は私の心を打ちのめした。

「やめて! そんなつもりで、仲間になったわけじゃないわ!」

 私は怒りのままに勇者の手を振り払った。

 勇者としては、それが面白くなかったのだろう。翌日から、明らかに私に対する態度が冷淡なものに変わった。


 そして今日。

 ダンジョンを進んでいた私たちは、物陰に潜んだモンスターたちの襲撃を受けた。最前列にいた私は複数の敵に囲まれて負傷し、倒れた。

 勇者がモンスターを一掃したところで、私はいつものように回復魔法をかけてもらおうと、エリサに呼びかけた。

 ところが、返ってきたのは「これで役立たずを厄介払いできる」という勇者の言葉だった。

 私自身は、エリサともハンナとも良好な関係を築いていると思っていた。しかし、そう思っていたのは私だけだったようだ。エリサもハンナも、倒れた私に冷淡な目を向けるだけで、一切、手を差し伸べようとはしなかった。

 たった数カ月とはいえ、一緒に旅をした仲間に対する仕打ちがこれなのか。

 これが「勇者」の称号を許された者のやることなのか。

 3人の足音が遠ざかり、明かりが消える。ダンジョンの暗闇に私は一人、取り残された。

 どんなに目を凝らしても、何も見えない。文字通り漆黒の闇の中で、私が感じたのは絶望だった。

 傷を癒やすポーションも、周囲を照らすランタンも、手元にない。今日に限って「余分な荷物を持っていると、戦いの邪魔になるでしょ」と言って、ハンナが持ってくれたのだ。ハンナの善意だと思っていたが、最初から私を置き去りにするつもりだったのだ。

 私が身につけていたのは武器と防具、そして水袋ぐらいだった。

 このまま失血死するのだろうか。

 それなら、まだマシな死に方だろう。

 血の匂いを嗅ぎつけたモンスターに生きたまま食べられたり、大型の寄生虫の宿主として卵を産みつけられたり、ゴブリンやオークに凌辱されてから殺される可能性だってあった。

 そんなことになるぐらいなら、いっそ、自力で動けるうちに自分の手で命を絶つほうがマシなのではないか。

 私は腰に着けていた短剣を抜くと、首筋へ刃を近づけた。

 このまま刃を突き立てれば、ひと思いに死ねる。

 そう思いつつ、私は最後の一突きができなかった。

 手がブルブルと震える。

 嫌だ。死にたくない。こんな真っ暗なところで、一人きりで死ぬなんて嫌だ。

 涙がボロボロとあふれ、喉からすすり泣きが込み上げる。

 泣いてもどうにもならないと分かっていた。いや、どうにもならないからこそ、剣士としての矜持を投げ捨て、20歳の一人の女として泣くことしかできなかったのだ。

 さっきみたいなモンスターがまた襲ってきたら、その時は迷わず死を選ぼう。でも、それまでは、もう少しだけ生きていたい。いや、死にたくない。そう思った。

20時20分から「第1話 2」を公開します

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